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第三話

「さて、お前ら。俺たちを無視した罪は償ってもらうぜ。今日俺たちの相手をすることは決定事項だかんな」

 仲良く手を繋いで歩いていたヒルダとイザベラは、ナンパをしてきた男三人に囲まれていた。正面に立つ男は二人を威嚇するように小型ナイフをチラつかせ、抵抗は無駄だと暗に伝えている。

 周囲には二人の末路を(あわ)れむような視線を向ける人が出始める。衛兵を呼ぶ声も聞こえるが、残念ながらここから最も近い衛兵の詰所までは距離があるため、直ぐには現場に来られないだろう。巡回兵が偶然にも通りかかる可能性もあるが、それも低い。

 しかしそんな状況でも二人は(おく)するわけがない。そして男の威嚇が二人に通用することもなかった。

「……私たちが本気で相手すると、貴方たちの体がもたないの。……今直ぐ消えた方がいいの」

「お? ……やぁ~っとその気になったか。なーに、心配すんな。こう見えても俺たち体力にゃ自信あんだぜ。いつも相手を泣かしてきたかんな」

「……いけない子なの」

「イザベラちゃん。こんなゴミは私が相手してあげます。イザベラちゃんの手を汚す必要はありません」

「……やなの。最近ちょっとだけ苛々が溜まってきてるから、発散させたいの」

 イザベラはヒルダの前に出ると、被っていたフードを取る。

「ほほう、ガキもいい顔してんじゃねえか」

 今までヒルダにしか向けていなかった卑しい視線は、イザベラの方へも向くようになる。

 周囲の人間は「あんな小さい子まで犠牲になるなんて」と、隣の男たちに救出の声をかけあっていた。だが彼らは刃物を持っている相手に、今一歩勇気を持つことが出来ずにいた。

 男三人が作る、二人を囲む円を一歩縮めたその時――

「……バイバイ――なの」

 イザベラの魔法は発動した。

 圧倒的蹂躙(じゅうりん)とはまさにこの状況に当てはまるだろう。

イザベラは土魔法で彼らの足元を隆起させ、男三人を転倒させた。そこをすかさず無数の《槍刺乱乱(シュクルツ)》――土属性魔法に属する、鋭い棘が付いた腕の長さ程の細い槍――で男たちの身動きを封じる。

 それは一秒程の瞬間に行われた動作だった。首の周りや手足、胴体の形を縁取るように服を貫いて、《槍刺乱乱》は地面に突き刺さっていた。少しでも首や手足を動かすと肌に小さな刺が食い込むため、男たちは僅かも動くことが出来なかった。しかしそんな事は無理な話で、男たちの肌は少しずつ傷付いていく。

「いって、いってええええ! ぐああああああ!!」

「……ふん、無様なの」

「流石イザベラちゃんですね」

 ナンパを軽くあしらったイザベラはご満悦の様子。機嫌のいいイザベラは自らヒルダの手を取り、拍手喝采のBGMを聞きながら宝石店へと向かった。

 そんな二人を建物の影からこっそり窺う影が一つ。二人の移動に合わせてその影も静かに移動を開始する。

 密かにイザベラとヒルダを尾行する影だが、その影の存在はしっかり二人に把握されていた。



 ◇◇◇



 午前中の買い物を終えた二人は昼食をとっていた。

 ヒルダは相変わらずイザベラおすすめの衣服を着ており、店中の視線という視線を集めている。イザベラは静かに食事をしながらヒルダの話を聞いているが、その姿勢は少し特殊だった。

 店内に入り適当な席に腰掛けたイザベラだったが、目の前のテーブルはイザベラにとって食べづらい高さとなっていた。そのため店員にお子様用の椅子を差し出されたが、意地でも使いたくないイザベラは、椅子の上で正座をし、その状態で現在も食事を続けている。

「イザベラちゃん、午後はどうしましょうか。ガーデンパークでも行きますか? 綺麗だけど力強さの見える、大きな花が沢山咲いてますよ、きっと」

「…………」

「あ、ほらほら、ほっぺにソースが付いてますよ」

「……ありがとなの」

 視線を落としたイザベラの視界には、午前中に買ったキラリと光るネックレスが入る。

 ヒルダとイザベラは、結局午前中いっぱいを宝石店で過ごし、店員を困らせていた。だがその分良い品を見極めて、値段は高かったがイザベラとヒルダ、それぞれに似合うネックレスの買い物が出来たのだ

 昼食を終えた二人は、水着を買うために衣服店へと向かう。昼食をとっている際に、珍しくイザベラが「海へ行きたい」、と希望をヒルダに言ったため、午後の予定が水着選びに決まったのだ。

 その海とは世界でも有数のビーチスポット――ハダルビーチだ。

 ハダルビーチはきめの細かい白い砂が、どこまでも続く大きく長いビーチだ。海は透き通るように青く、人によっては恐怖を感じるほど深くまで見下ろすことが出来るという。ハダルは年間を通して晴れの日が多く、また気温も高めで一年中海水浴が楽しめる場所でもある。そのため、ハダルには毎日のように人が集まっているのだ。

「楽しみですねー。まさかイザベラちゃんからハダルへ行きたいという言葉が聞けるなんて。……ん~、何年ぶりでしょう」

「……今年はなんか暑いの」

 そう、今年の夏は平年と比べ異様に暑い。

 今年の太陽の光はどこか痛さを感じる暑さだった。肌をチリチリと焼き、対策も何もしなければ一日でだいぶ黒くなるだろう。肌が弱ければ赤く腫れあがり危険極まりない。

 ある意味、イザベラが羽織っているコートは正解なのかもしれない。現在ヒルダは肌の露出が多く、日焼け間違いないと思われるが、光魔法と水魔法の複合魔法で肌に薄い膜を貼っているため、日の余計な光は肌へと通さずにいる。いつまでたっても透き通るような白い肌を維持できるということだ。

「そうですねぇ……。日の光もそうですけど、毎日の空気が重く暑いですし。いったいどうしたんでしょうか」

 陽光だけでなく空気も体に負担を与える暑苦しさだった。

「……さっさとお店に行くの」

「そうですね。早く行きましょう!」

 二人は日の光をなるべく避けるため、建物に挟まれた狭い裏路地を歩いて行った。ここは建物の間であるため、多くの影が出来ていた。表通りと比べ体感温度はグッと下がり、気持ち的に幾分かは楽になれる。

 そのため、ここ最近は裏通りの利用者が増えていた。普段使い慣れない道を行くということは、増えた利用者の分だけ厄介事が増える可能性があるのだ。

「うわぁぁぁ~~~~ん」

 路地裏の行き止まりから聞こえるのは、幼い子供の泣き声。狭い路地裏にその泣き声は反響し、道行く人たちの鼓膜を刺激する。だが、誰も泣きじゃくるその子供を助けようとしなかった。

 ちょうどそこへ通りかかったイザベラとヒルダ。行き止まりで立ち尽くし泣き声を上げるのは、四歳ほどの幼い男の子だった。

 無論二人はその男の子を放っておくわけがない。ヒルダは男の子の手を取り、腰をかがめて視線を合わせる。イザベラは男の子の頭を撫でて落ち着かせる。

 水着を買う予定は遅くなること間違いないが、二人は衣服店とは真逆の、遠くなってしまった衛兵の詰所に向かって、男の子とおしゃべりをしながら歩き始めた


 読んで下さりありがとうございました。

 出来れば一話ごとに作品評価や感想をしてくださると嬉しいです。次作に向けて、作者はどこがダメなのか、読者はこれを読んでどう感じたのかなど、文章作成スキルを上げるためにも評価してもらいたいと思ってます。よろしくお願いします。

 第四話は明日の十二時に投稿予定です。

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