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第二話

同時投稿の二話目です。

 毎朝リギル都市の広場では、野菜や肉などの生鮮食品を売ったり、出店で朝食を販売したりする者たちがいる。他にも衣服や工芸品などを、新品中古品に限らず販売する者もいるため、広場はある種のフリーマーケット状態となっている。もちろん広場には休憩スペースも確保され、何脚もの椅子と何本ものパラソルが備え付けられている。そんな所でゆっくりと朝食をとる住民が大勢いるのだ。

「今日も皆さん元気ですねっ」

「……うん……」

 今朝も広場は人で賑わっており、イザベラとヒルダは手を繋ぎながら並んで歩いていた。もちろん二人は、住民の騒ぎを防ぐためにフードの深いコートを羽織っている。

 朝とはいえ、今の季節は夏。コートなど着ていて暑くないのかと思うが、このコートには高等魔術が施されており、高性能な逸品となっている。そのためコートを着こんでも、二人が暑さで苦しむことはなかった。

 並んで歩いている二人は、まるで親と子。二人の身長は頭二つ分近い差があり、イザベラはそれが大変気に入らなかった。不老不死となり老いを知ることがなくなった二人であったが、成長しなくなるという事実はイザベラを苦しませていた。

 ヒルダと並んで歩くと何時も周りからは子供扱いされる。いつまでたっても子供体型であるため、買い物するにも「嬢ちゃん」と呼ばれ、勝手にサービスをされる。極めつけはヒルダだ。自他ともに認めるほどグラマラスなヒルダのスタイルは、イザベラと並ぶことで一層魅力を引き立てている。そして自らの身体はより子供に見えてしまう。

 そんな女性として悲しい思いをするイザベラだったが、ヒルダのことは不思議と嫌いになれずにいた。ヒルダの小さい子好きは少々行き過ぎているが、それを差し引いても、どこか波長の合う――気の合う人物だとイザベラは思っていた。それは直感、具体的な理由など無かった。そもそも親友など、明確な理由があってなる方が少ないだろう。

「イザベラちゃん、これなんかどうですか? きっと似合いますよね」

「……それは随分とちっちゃいと思うの」

 ヒルダが手にとっている可愛らしい服は、彼女にとって明らかにサイズが合わない大きさだった。しかしイザベラの、ヒルダにはサイズが合わないという考えは違った。

「違いますよ。これはイザベラちゃんが着るためのお洋服です」

「……選んでくれるのは嬉しいの。……でも、それは子供すぎるの」

 ヒルダがイザベラのためにと選んでいた服は、丁度胸のあたりに大きな《ハッスルグリズリー》の子供の顔が描かれていた。

 ハッスルグリズリーとは熊のような見た目の、非常に力のある凶暴な魔獣の一種だ。大人の雄の場合、ハッスルグリズリーのサイズは人間の平均身長のニ倍を優に超えている。大きいサイズだと三倍は超えていた、という記録も残っている。因みにハッスルグリズリーの子供はおとなしく、好奇心旺盛で可愛げのあるフワモコな魔獣だ。ヒルダが持っている服にはそのハッスルグリズリーの子供の顔が描かれていたのだ。

「そうでしょうか……。可愛くてイザベラちゃんによく似合うと思ったんですけど……しょうがないですね。これは諦めます」

「……ヒルヒルが着るならあれがいいの。……おっぱい、蒸れないの」

 イザベラが指差す先には、胸元が大きく逆三角形に開き、背中もほとんどオープン状態。そして裾も短く、おへそは丸出し間違いない。そんな露出過多な服を、イザベラは指差していた。

 何故こんな際どすぎる服がこんな場所で売られているのか甚だ疑問だが、たしかにヒルダがこの服を着ると、周囲の男どもは興奮のあまりに一瞬で昇天することだろう。

「あ、あれですか。随分と刺激の強そうな服ですね。……でもイザベラちゃんのおすすめなら着てみたいですわね」

「……そしてスカートはあれを穿けばいいの」

 次にイザベラが指差す先にはスカートが並べられている。そしてイザベラのおすすめは、丈の短いタイトスカートだ。

「相変わらず目ざといですね。それにしても短い……。いえ、イザベラちゃんのおすすめですから大丈夫でしょう」

 そう言うとヒルダはそのニ点を購入する。早速着替えようとヒルダは近くの料理店に入り、お手洗いへと向かった。その間イザベラは店の前で待っていたのだが、近くで出店をしている好青年に捕まり、小さな野菜サンドを渡されていた。

 モシャモシャとサンドを食べながらヒルダを待つこと数分。彼女は先ほど買った服を着て出てきた。もちろんコートは着ていない。しかし、今の彼女の全身には光魔法による《視覚誤認(センミス)》がかけられているため、イザベラ以外にはヒルダ本人と認識することが出来ず、全くの別人に見えているのだ。イザベラもまた、コートなどを着ていない時は、《視覚誤認》で姿を誤魔化している。

「…………」

「ど、どうでしょうか、イザベラちゃん」

「……ずるいの。……そしてエロ過ぎるの」

 見事なポージングを決めるヒルダは視覚的に刺激が強すぎた。そのおかげでイザベラは、自分の容姿がもっと惨めに見えてしまう感じがして、ヒルダはとことん沈んだ。自分でヒルダの服を選んでおきながら自滅していた。

 周囲にいる人たちは男女問わず歩みを止め、ヒルダにあらゆる種類の視線を送っていた。

 その視線を敏感に感じ取っているヒルダだが、いささかも気にする様子はなく、イザベラとおしゃべりに励んでいた。ヒルダの一方的ではあるが。

 二人はその場を後にし、商人ギルドに所属する店が立ち並ぶ通りに向かう。

 商人ギルドに所属している店は、ギルドがその店での販売を認め、経営状況などを把握しているため、安心して商品が買えるのだ。

 ヒルダとイザベラは再び手を取り合って仲良く歩いているが、不穏な三つの影が二人に急接近する。

「へへっ、姉ちゃんエロい服着てんな。どうだ? 俺たちと今日一日遊ばねえか?」

 ヒルダに接近してきたのは男三人組。服装も容姿も普通すぎる、そんな男たちのナンパだった。しかし態度は普通ではなかった。明らかに狙いが分かる卑しい顔つきをした表情で、ヒルダを舐めまわすようなに全身のあらゆる部位へ視線を送っている。

 しかし、ヒルダはそれを気にもとめない。

「イザベラちゃん、次は宝石店でイザベラちゃんに似合うイヤリングとかネックレスを買いましょ!」

「……この前ヒルヒルに買ってもらったのがあるの」

「そんなこと言わないでくださいよ~。ほらっ、気分転換ですっ。同じものをずっと付けていても、つまらないですよ?」

 イザベラとヒルダは人前でも互いの名前で呼んでいるが、それは素性がバレることには繋がらない。なぜなら、今の時代イザベラやヒルダといった名前は沢山いるからだ。

「お、お前ら……」

「では私のおすすめの宝石店へ行きましょう!」

「……ゴー……なの」

 ヒルダとイザベラはナンパ男三人を視界に入れることなく、そして歩みを止めることなく、歩き続けた。

「ちょっと止まれお前ら!」


 読んで下さりありがとうございました。

 出来れば投稿される度に作品評価や感想をしてくださると嬉しいです。次作に向けて、作者はどこがダメなのか、読者はこれを読んでどう感じたのかなど、文章作成スキルを上げるためにも評価してもらいたいと思ってます。 よろしくお願いします。

 第三話は明日の十二時に投稿予定です。


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