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第一話

 前作を読んでくださった方は、お久しぶりです。この作品が初めてという方は、はじめまして。坂井です。

 『秘密の親友』シリーズ二作目ということで、今回はタイトルの通り(女ver.)となっております。女性二人によるダブル主人公です。タグから分かるように、ガールズラブということはありません。親友という関係です。

 今作は前作よりちゃんと書けたかな、と思ってます。魔物との……ゴホン……。

 この作品を読みに来て下さり、ありがとうございます。是非、最終話である九話目までお付き合いください。よろしくお願いします。

 世界は平和だ。

 世界が第五次世界対戦を終えてからというもの、人間と魔人は互いの存在を認め合い、これ以上無駄な血を流さない――戦争をしないという約束を交わした。

 世界からは戦争の一切が消えたのだ。

 終戦直後ではまだ、根強い差別意識が互いの市民の間に残っていた。しかしそれも幾世代(いくせだい)生命(いのち)がすぎる頃、人間と魔人は市民レベルで歩み寄り、同じ床で生活する程にまで互いの差別意識をなくしていた。

 そして五つの世界大戦に関わり、種族の垣根(かきね)を取り除くことに貢献した人間と魔人の女性二人は、何時の時代でも英雄として(たた)え続けられていた。

 ここはカノプス王国。世界でも有数の先進国家だ。そしてカノプス王国の中心都市――リギル。街並みは美しく、様々な住居、店、そして人が存在する都市。

 数時間前に日は昇り、街の広間通りでは市民の(にぎわい)が顔を見せ始めている時間。

 その日の食材を確保する主婦やレストラン等の料理長たちは、露店の前で「少しでもいい品を」と熟練の目を使って品定めしている。

 街の平和を守るための巡回兵たちは、夜勤組と当番の引き継ぎを行っている。

 身体を鍛えているのか、人の少ない路地では上半身裸で走りこみをしている者もいる。

 そんな人々の生が感じられる通りで、誰に気付かれることもなく、悠然(ゆうぜん)たる態度で歩みを進める女性が居た。

 彼女の姿は誰の目も引くほどのグラマラスな容姿だ。背は高く、風で流れる滑らかな髪を持ち、男性たちの理想を満たしつつ、女性たちの目指したくなる理想形のパーフェクトボディを持つ女性だ。それにもかかわらず、男性や女性たちの視線は彼女に集中することがなかった。まるで彼女が最初からそこには居ないかのように。

 彼女の進行方向はリギルの中心――王宮へと向かっていた。

 彼女は王宮の入り口を警備する衛兵を気にもとめず、また衛兵たちも彼女に気付くことなく、ゆっくりとした歩調で彼女は王宮内へと入っていく。

 階を幾つか上がっただろうか、王宮内を忙しそうに駆け回るメイドたちと彼女は何度もすれ違う。やはり彼女には誰も気付かない。

 そんな彼女はある部屋の前に来ていた。その部屋は王宮の入り口から随分と離れており、滅多に人が立ち寄らないような場所にある。

 彼女は目の前の重い扉を苦もなく押し開ける。人二人分の隙間が出来ると彼女は中へと体を滑り込ませ、扉を後ろ手に閉じた。

 部屋は閑散(かんさん)としていた。部屋の奥には天蓋付きのキングサイズベッドが一台。中央には三人がけのソファが二脚と膝丈ほどの低いテーブルが一脚。それらの下には、ふわふわな毛の逆立つ絨毯(じゅうたん)が敷き詰められている。他にはキッチン、バス・トイレ、衣装ダンスや化粧台など、この部屋の持ち主が女性であることが(うかが)える家具も揃っていた。

「ふふふ、イッザベッラちゃんっ。まだおネムですか?」

 部屋の中へと無断で入った女性は、ここまで顔に付けていた仮面を取りながら、掛け布団が小さく盛り上がっているベッドに向かって声をかける。

「……うっん~~……」

 ベッドの上でゴソゴソ動く、イザベラと呼ばれた小さな存在は眠そうな声を漏らし、再び至高の時へと深く沈んでいった。

「こらぁ、二度寝はダメですよ。えいっ【破壊光球(デスライト)】ぉ!」

 《破壊光球》。この魔法は破壊的な明るさの光球で、相手の失明を誘う、ものすごく危険な魔法である。たとえ目を閉じていたとしても、まぶたの上からでも瞳を焼くような、強烈な光線が辺りを照らす――いや、魔法名通り辺りを破壊するのだ。

 そんな危険極まりない魔法を、彼女は危機感すら感じずに魔法を発動していたが、彼女はそんなことを気にもしていなかった。

 《破壊光球》の光が最高潮に達するかと思う頃、それは急速に明るさを失っていく。

「……もう、明るすぎなのヒルダァ……ふわぁ~……」

「や、やっと起きましたね。目が……目が~……」

 今までベッドで寝ていたイザベラと呼ばれる女性が、《破壊光球》があった場所を指さしながら、やっとのこと起き上がる。

 彼女は……彼女を、女性と呼ぶにはあまりに幼い容姿だ。彼女は眠そうな目を座りながら手の甲でこすっている。腰まで伸びる髪の毛は寝癖で方方に跳ね上がっている。

「ほらっ寝癖を直しますよ。じっとしていてください」

「……面倒くさいの」

 お世話好きな女性――ヒルダと、面倒くさがりな女性――イザベラ。この仲の良い二人は第五次世界対戦が終わりを告げるその時まで、魔人の代表、人間の代表として戦い続けた宿命のライバルだった。終戦後は戦友から親友となり、仲良く時を過ごしている。本来なら二人は簡単に会うことが出来ないほどの高貴な身分であるが、高位の魔術や魔道具を用いて密かに会っているのだ。主にヒルダの方からイザベラに会いに。そしてそれは第五次世界対戦終了後から続いていた。長く続く、《秘密の親友》なのだ。

 二人は己の内に秘めたる多大な魔力で、肉体と精神を完全に不老不死のものとしていた。容姿が若く美しいヒルダとイザベラは、外へ素顔を(さら)したまま出かけると、差別撤廃の英雄であることも相まって、多くの人々に囲まれてしまう。そのため二人は出かける際、身分と容姿をごまかして出かけるのだ。

「……ヒルヒルゥ~、またご飯作ってなの」

「まっかせなさい! このヒルダお姉様に万事おまかせですっ!」

 豊満な脂肪の上から胸を叩き、ヒルダはキッチンにて手早く朝食を作る。

「はい、お待ち遠様です。今朝の朝食はカリッと焼いたパンで、ハムと卵ペーストをサンドしたものです。お召し上がりください」

「…………」

「ところでイザベラちゃん、今度お買い物行きません? 私、そろそろ新しい服が欲しいんです。ほらぁもう季節は夏でしょ? ですからもっと開放感のある服が着たいんですよ。こう、胸に汗が溜まって気持ち悪いんです」

「…………」

 イザベラはヒルダの何気ない言動から、言いようのない怒りを覚えて食事のスピードが上がる。それでも彼女は口が小さいため、傍から見ると口いっぱいにサンドを詰め込んでいるだけ。その様子はリスのようにしか見えない。

 その間ヒルダは、誰に横入りさせる余裕を与えることなく、日頃あったことなどをまくし立てていた。

「ではご飯も食べ終わったことですし、早速お買い物に行きましょう!」

「……面倒くさいの」

「ほらほらぁ、行きますよー」

 ヒルダは鼻歌交じりに部屋を後にし、人で(あふ)れかえる広間通り目指して出発した。

「……面倒くさいの」

読んで下さりありがとうございました。

二話目は同時に投稿しています。引き続き二話目もどうぞよろしくお願いします。

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