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その3

 すでに昼食を食べ終えたメフィセリィの面々は、食事の礼に片付けと掃除をしていたらしい。

 姉ちゃんとの約束だということだが、どういうこと?

 とりあえず、姉ちゃんの料理が目当てってわけではないそうだ。

 そりゃそうだろう。

 姉ちゃんが三ツ星レストランのシェフ顔負けの腕前を持ってるってならわかるが、極一般的な味である姉ちゃんの料理をわざわざ食べにくる必要はない。

 少年王曰く、くつろげるだけでなく、心穏やかになれる場所で温かい食事をとる幸せを噛みしめているのだとか。

 ホントか? 

 そして、それを邪魔するなと釘を刺された。

 納得がいかん。

 しばらくして、少年王と王佐を残して他は転移術でメフィセリィに帰ったようだが、何故お前らは残る?

 お前ら、帰って仕事しろよ。といえば、今は休暇中だから、仕事は可及的速やかに処理すべきものが舞い込むか、緊急を要する事件以外は持ってくるなと言いつけてあるそうだ。

 いや、だったら帰れよ。――と言ったら睨まれた。

 で、もっと簡単に言うと姉ちゃんに会いに来たらしい。

 俺のいない三年間に何があった。

 まあ、それは後々聞くとして――


「姉ちゃんは?」

「森の方へ出かけている」

「ふぅん。んで、俺の分の昼は?」

「シェラから伝言を預かっている」


 いや、伝言の前に俺の質問に答えろよ。


「なんだよ」

「婚約または結婚報告なら後で聞く。それ以外の無駄な言い訳ならば聞く気はない。今日の『おこのみ亭』の日替わりランチはチキンステーキトマトソースがけと揚げ芋に野菜サラダだそうだ。パンとスープがついて通常の半額近い値段で食べられるというのだから、大変お得だな」


 それは俺に外で食ってこいってことか?


「ちなみに、我々は豚の生姜焼きだった。もちろん、シェラの手料理だ」


 それは俺にケンカ売ってんのか、ああ?

 んなもん、部屋に充満していた匂いでわかるっつーの!


「あえて言わずとも分かっているだろうが、お前の分はない」


 ああ、だろうね!

 そうじゃないかと思っちゃいたが、やっぱマジか。

 嫌がらせか、嫌がらせなんだな、ちっくしょおおおお!


「シェラが、その、昼になっても起きてこない寝ぼすけに与える食事はないと……」


 姉ちゃんなら言う。間違いなく言う。

 たとえその原因が姉ちゃんだったとしても、軟弱者といって一蹴されるのがオチだ。

 俺はがっくりと項垂れた。

 それをスピリエルがなんだかんだと宥めてくれたが、とりあえず腹ごしらえと、俺は肩を落として、すごすごとおこのみ亭へと足を運んだ。


 食事から帰ってきても、まだ姉ちゃんは帰ってきていなかった。

 え、姉ちゃん、どんだけ森の奥まで行ってんの?






 姉ちゃんが帰ってくるまで暇つぶしとして昔話にでも付き合えと、少年王が言い出した。


「そう嫌そうな顔をするな。お前だって知りたいだろう? 俺やスピルがいつシェラと出会ったかとか、なんでこんなにも親しげなのか、とかな」


 ニヤリという音がしそうなほどの意地悪い顔で言われたセリフは、俺が気になっていたことであるため返答に困る。

 知りたいが知りたくないと意地を張る心と、ものすごく気になって仕方ないという興味がうずうずとしている。

 どちらに軍配が上がったかと言えば、興味の方だ。


「お前が話すっていうなら、聞いてやらなくもない」

「なら、別に話さなくても構わないな」


 そこであっさり引くなよ! 

 ってか、そうするだろうなと思ってたけど、思ってたけど、実際それやられるとムカつくな。


「だー、もう! 気になって仕方ないから話せ!」

「初めからそう素直に言えばいいんだ」


 このやろう! いつか絶対、その態度を改めさせてやる! 

 って、無理か。こいつ王様だしな……クソっ!


「まあ、これに関しては僕よりスピルの方が詳しい。なにせ僕が目覚めた時には、シェラに看病されている状態だった。だから、どうやって出会ったのかは僕は知らない」


 だったら、あんなもったいぶるっつーか、さも大層なことがあったような言い方してんじゃねーよ。

 睨んでも効果がないが、睨まずにはいられない。


「スピル、話してやれ」

「はい、陛下」


 国王代理を務めていたスピリエルは三年前、魔力を半分以上封じられ、それでも次期国王であるマティリオルを守りながら、暗殺者の手から逃れて命からがらこの村の近くにある森、通称『惑わしの森』――他にも『迷いの森』や『帰らずの森』などと、少々物騒な名前がついている森だ。出入りできる者は森に認められたものとされている――に逃げ込んだそうだ。

 そこがどういった森かは理解していたらしい。

 その時点で既にマティリオルは一瞬の隙をつかれて毒を食らい、生死をさまよっている状態であり、それを救うには数ある辺境の地に数カ所だけ存在する「魔力が循環して成長を続ける森」の主に会う必要があったとか。

 だからといって、必ず救ってもらえるわけではないそうで、俺らが『惑わしの森』と呼んでいる森の主は、随分と寛大だったそうだ。その引き換えにスピリエルの魔力を提供するのが条件で、封印を外せば敵に居所がばれてしまうため、潜伏するには封印したまま隠蔽の術を施して森の一部に囚われた状態で少量の魔力をゆっくり森へと与えることになったんだと。

 その時のスピリエルはギリギリの状態で、少量の魔力とはいえ提供するのは身体にかなりの負担がかかったそうだ。つまり、口を動かすのも億劫なほどだるい状態だったというわけだ。

 それでも条件を飲んだスピリエルは、マティリオルを森の主に預けた。

 潔いスピリエルに慈悲を与えたのか何なのか、森の主は言ったらしい。


「ただし、森の管理者が保護すると申し出たならば、その限りではなく、日に一度通いで魔力提供すれば良い」


 言っていることは分かったが、その僅かな希望に縋れるほどの気力を持っていなかったスピリエルは、そんな都合のいい事は起こらないだろうと思ったという。

 森の主は寛大なのかよくわからないが、こうしてマティリオルは助かったのだ。

 で、ここからが本題だ。

 スピリエルとマティリオルを護衛するのについてきた部下は森の主から滞在許可が下りず、そうでなくとも彼らはこれからに備え諜報活動等を行わなければならないため、一日に一度交替で様子を見に来るということしかできない状態だった。

 心優しい部下たちは、森の主によって施された術により、ある場所に囚われたスピリエルに『拾ってください』と書いたドア掛け看板のような鎖の付いた板を首から下げて行ったそうである。

 早く森の管理者が気付くように強く願いを込めて。

 その森の管理者というのが姉ちゃんだった。

 俺も初耳だったので驚いたら、少年王にすっげー呆れられた。

 呆れというか馬鹿にされた感じだけどな、このやろう。

 で、姉ちゃんと遭遇できたものの、三日間放置されたそうだ。

 姉ちゃん……。

 初日に近寄ってきてスピリエルの顔をしげしげと眺めてから一度その場を離れ、戻ってきたと思ったらどこかで摘んできたのだろう花を供えて去ったそうだ、その後二日間とも同じように朝と夕方に花を、時に果物を一緒に置いていっただけで、それ以上の接触はしてこなかったという。

 スピリエル、お前、飲まず食わずで良く無事だったな。

 へえ、森の動物たちが差し入れに木の実とか持ってきて助けてくれたのか。

 そりゃよかったな。

 おい、少年王。太らせて食べる気だったんだろうじゃねえだろ。

 お前、スピリエルがどうなっても良かったのかよ。

 まあ、こんなことで口論してもしょうがねえ。さっさと話しを進めようか。

 で、部下の人たちは考えた。

 どうやったら、森の管理者である姉ちゃんが自分の上司たちを助けてくれるかを。

 初日にスピリエルへ森の管理者との接触について聞き出したら、相手が若い女性だと聞き、スピリエルの容姿ならいけると思ったらしい。

 補足しておくと、スピリエルはなかなかの男前だ。上に立つには少し頼りないような穏やかな風貌をしているのだが、見た目に反して結構仕事には厳しかったりする。

 華やかさはないが、女性に好かれ易いとは思う。

 まあ、いい人止まりで終わりそうな感じだが。

 そして、スピリエルの部下その一は考えに考えて、文章を書き換えた。

 って、いや、そこはやり方自体を変えようよ。

 例えば、直接会うとかさ。

 え? 時間が合わないから仕方ないって? 

 いやいやいや、それだって、もっと他にいい方法があったんじゃない? 

 まあ、いいけど。

 四日目、板に書かれたのは『ご自由にお持ち帰りください』だった。

 これで今度こそ大丈夫だろう。

 そう思って、一つ力強く頷いて、部下その一は仕事へと向かった。

 だが、相手の行動は彼の予想を斜めに、いや、予想を大きく外れたことをしてきたのである。

 姉ちゃんは、しばらくその板を眺めた後、ふらりとその場から消えたかと思ったら、何かを手にして再び戻ってきたのだそうだ。

 魔術が施された薄い石板を持ってきた姉ちゃんは、同じく魔術が施された特殊なペンでその石板に何やら書き込み始めたらしい。

 スピリエルは声をかけるかどうするか迷ったらしいのだが、見向きもしない姉ちゃんに声がかけづらく、結局成り行きを見守ることにしたんだと。

 バカじゃねーの? 

 さっさと声かけりゃいいのに。

 魔力封じられるわ、魔力吸われるわで身体的にはきつかったんじゃねーの? 

 なのに、なんで助けをさっさと求めなかったんだか。

 姉ちゃんの目力にたじろいで声かけそびれたって? 

 ああ、姉ちゃんにじっと見られると言葉詰まる感じするよな。それは分かるわ。

 んで、姉ちゃんが石板に何か書いたものをお前の膝の上に置いていったと。

 しかも、そこに書かれてたのが、

『誰からも見向きされない。悲しい。ぽつんと置いてけぼりにされたこの場所で、幾日も幾日も待ち続ける』

 って、文章残されたわけか。

 うわ~、姉ちゃん、何やってんだよ。

 しかも、しょんぼりした犬が描かれてたらしい。

 姉ちゃん……マジで、何がしたかったの?

 それを読んだ部下その二が、今度こそはと文章を書き直した。


『あなたの役に立ちます』――と。


 ……お前の部下たち、なんなの?

 だが、姉ちゃんの方が上手だった。

 新たに石板に書かれたのは、姿勢良く座るもどこか不安げに見える犬と文章。


『どれほど自分が役立つか、その手に取って確かめて欲しい。

 そう願いを込めて、文字という形に表してみた。

 けれど、誰にも届かない。

 うら寂しい森の中、自分を見てくれるのは木々ばかり。

 ああ、なんと侘びしいことか。』


 無駄に物語っぽい文章だ。

 ってか、一言一句覚えてるお前がこえぇよ。良く覚えてんな、こいつ。

 前の二人から報告を受けている他の部下たちも驚いたことだろう。

 で、この文章を読んだ部下その三は、ちょっと楽しくなってきたらしい。

 おいおい、楽しがるなよ。

 次はどんな反応が返ってくるか、わくわくした様子でこう文章を書き直した。


『我が救いの女神よ』


 いや、部下その三は何がしたいんだよ。

 なんか、神に祈るみたいな感じになってるけど、それって本人を目の前にして言うべきセリフじゃない?

 でも、それを読んだ姉ちゃんは表情一つ動かさず、冷めた目をしていたらしい。

 石板には新しく期待に満ちたキラキラ目の犬と書きかえられた文章。


『あなたはどこにいるのだろう。

 これが我が身に与えられた試練だというならば、耐え忍ばねばならぬ。

 しかし、これが障害だというならば、打ち払わねばならぬ。

 幾度となく立ちふさがる困難を乗り越えたその時、あなたの姿を目にすることが叶うだろうか。』


 うん、姉ちゃんは自分が相手の望む救いの女神だとは欠片も思ってないよね。

 ってか、意図的にぽいって捨てたんじゃないかなとか思うわけなんだが、どうよ。

 だから何? って感じだったんだろうな……。

 で、ここまでに六日が経ってるわけだ。

 いい加減、決着をつけたいと考えた部下その四は、七日目にして慈悲を請うに至った。


『どうか、不肖なる我が身に愛の手を』


 これ、ただの文章にすればこうなんだけど、『愛の手』のところのは、姉ちゃんによって『合の手』に書き直されたらしい。なんでだよ。

 まあ、それはともかく、姉ちゃんがそれに対して書いたのが、


『心から叫ぶも無情かな。

 声無き我が身では、願う以外に伝える術がない。

 泣いて請うことも、あらん限りの声で叫ぶことも叶わず、

 ひたすらまんじりともせず待ち続けることしかできぬ歯痒さよ――』


 いや、だから、なんで無駄に物語っぽい流れを作ってんだよ、姉ちゃん。

 まあ、このやり取りが始まっても声を掛け損ねていたスピリエルは、ようやっとここにきて、姉ちゃんに声をかける勇気が出たらしい。

 それというのも、姉ちゃんが書いた文章を読んで、ハッとしたみたいだ。

 『声無き我が身』というので、自分が呆然としている間に去られてしまったり、声を掛けようとして目力に負けたりというのを恥じたらしい。

 この七日間、姉ちゃんは直ぐにその場を離れるのではなく、声を掛けるだけの時間分はその場に留まっていたのに気付き、自分が声を掛けてくるのを待ってくれていたのだとようやく思い至ったのだという。

 それはどうだろうなと俺は思うんだが、少年王曰く、「後から知ったことではあるが、森の主との制約があるそうだ。それを考えれば、言葉を交わすことも過度な接触も禁じられ、相手から何がしかの救援要請がなければ手出しできない状態であれば、当然の対応だろう。まあ、それを知らなければどうしていいか困惑するが」とのことだ。

 つまり、それを知らなかったスピリエルは困惑していて、彼の部下たちの方は困惑しつつも姉ちゃんの反応を面白がっていた、と。

 って、部下たち薄情だな。

 もしや、スピリエルは弄られキャラなのか?

 それはさておき、ようやっとスピリエルは姉ちゃんに声を掛けたんだって。


「たす、け、ては、もら、え、ない、か?」


 声を出すのも辛かったが、掠れた声でも必死に声を掛けたスピリエルは、不思議そうに自分を見る姉ちゃんにこれは無理かと諦めかけたという。

 ややしてから姉ちゃんの反応が返ってきて、「あら、新しく祀られた精巧な人形じゃなかったのね、残念」と言われたらしい。

 姉ちゃん、それ、本気で言ってたわけじゃないよ、な。


「人形、では、ない、な」

「そうみたいね。よくもまあ、一週間近くも我慢してたわね。その忍耐力は称賛に値するわ。放置しちゃって、ごめんなさい」

「いや、この森の、動物たちが、食べ、物を、分けてくれた、から、助かった」

「この森に住む動物たちは、森の主が認めた相手には優しいからね。食料も豊富だから、野菜も果物も自生してるし。それに、主様はあなたを気に入ってたみたいだから」

「気に、入られて、いた?」

「ええ。だって、木に縛り付けられてないでしょ? 足かせのように足首に蔓を巻きつけただけで、それなりに動き回れるような捕らえ方はしないわ。あと、行動範囲内に湧水があったり、薬草の群生地があったり、木の実があったりする場所で拘束もしないわね。この木の下なら風は無理でも多少なりとも雨は凌げるし。どうでもいい相手なら、そんなことまで配慮しないでしょ? だって、それこそ崖に吊るしておけばいいだけだもの」


 と、にっこりと慈愛に満ちた笑顔を向けたらしい。

 言ってることと表情が合ってなくて普通は引くと思うが、スピリエルは違ったらしい。

 姉ちゃんが女神に見えたんだと。

 それ幻覚だよ、限界来ちゃって、脳がいかれてたんだって。

 という俺の言葉は無視されたわけだが、まあ、おおよそこんな会話がなされたらしい。

 ってか、崖に吊るされなくて良かったな、お前。

 その後、少年王とスピリエルを家に連れ帰って、隠遁させたと。

 つまり、それから三年近く一緒に生活していたという話だ。

 その間、身分など関係なく、炊事洗濯などを手伝わせ、主に力仕事で扱き使ったらしい。


「シェラがいなければ、我々が反撃に出ることは難しかった」

「ああ。シェラが森の管理者であり、この家が特殊な魔術によって隠蔽されていたからこそ、僕たちは秘密裏に事を進めることができた。シェラにはとても感謝している。そして、僕たちの意見は一致した。シェラのいる場所は居心地がいい。だから、シェラのいるところを僕らの帰る場所に決めた」


 姉ちゃんが力になったことはこの際いいとしよう。

 その辺りの話もきっちり聞きたいが、はぐらかされたので後回しだ。

 協力するのは姉ちゃんの意思だし、別に姉ちゃんが直接戦争に参加していたわけじゃなかったみたいだから構わない。

 だが、なぜそこで姉ちゃんがいるところこそが帰る場所なんて考えに行きつくんだよ。


「ちなみに、スピルは七日目に見たシェラの笑顔に惹かれ、その後、自分だけに弱さを見せてくれたことで完全に落ちたそうだ。現在、鋭意求愛中、いや、求婚中だったか? まあ、そんなわけだから、邪魔するなよ」


 んなこというなら、邪魔してやろうじゃねーか。

 と、ぎらぎらと獲物を狙うようにスピリエルを睨みつけてたら、少年王がにやりと笑った。


「ところで、お前。シェラのご機嫌取りをしなくていいのか? 例えばシェラが帰ってくる前に洗濯物を取り込んだり、食材の買い出しとか夕食の準備とかしておけば、少しは違うのではないか?」


 悔しいが言われてハッとした。

 俺としたことが、話を聞いててすっかり忘れていたが、俺は未だに姉ちゃんの怒りを静められていないのだ。

 姉ちゃんが居ぬ間に気のきくことをしてごまは擦っておかねばならないだろう。


「い、言われずとも丁度今からやろうと思ってたところだ!」


 これで姉ちゃんの怒りを多少なりとも鎮められれば御の字だからな。


「そう、それは助かるわ。一体、何をしてくれるのかしら?」


 掃除も洗い物もすでにメフィセリィの面々が済ませている。

 買物もおそらく必要ないだろう。

 だって、姉ちゃんは籠いっぱいの野菜や果物を抱えている。

 洗濯物も同様だ。

 野菜や果物が乗せられた籠の下は洗濯籠だ。しかも畳み終わってそうだし。

 下ごしらえするにしても、今からじゃ間に合うはずもない。

 さて、どうしたものか。


 冷や汗なんて出る余裕もない。

 俺、夕飯も外食決定かな。

 むしろ、外泊決定かもしれない。

 そんな考えがちらつきながら、必死に打開策を探る俺をせせら笑うように見ている少年王と、苦笑して見守る王佐。

 興味は失せたと言わんばかりに、さっさと荷物を台所へと運んで行った姉の姿を見て気がついた。


 しまった! 姉ちゃんの腕から籠受け取って運んでやれば良かったんだ!


 姉ちゃん以外の女性相手ならば直ぐにでも思いつく行動だったのに、姉ちゃん相手だとうまく発揮されない。

 これが甘えというやつなのか。


 少年王の笑い声を背中越しに受け止めながら、俺はご機嫌取りをするために台所へ駆け込んだ。



 その後、時に少年王に突っかかり、時に王佐になだめられ、そして姉ちゃんに静かな怒りをもらいつつ、俺は掃除、洗濯、買物、家具の修理などなど雑用を買って出たり、姉ちゃんに命じられるままにこなしたのであった。


 英雄という称号を得たとしても、我が家においては何ら意味を為さないものであると、俺は痛切に感じた。


「ねえ、物置の扉がなんか音するようになったんだけど」

「すぐやるから!」

「あ、あと、ついでに小麦粉とってきて」

「わかった!」

「それから、庭掃除もお願い」

「う、うん。了解」

「ああ、ついでに茶菓子も買ってきてくれ」

「わかっ、るわけあるか! いくわけねぇだろ。どさくさまぎれに言うんじゃねーよ。自分で行け」

「シェラ。お前の弟が意地悪するんだが」

「お菓子くらい買ってきてあげなさいよ。手土産もなく帰って来たんだから、アンタ」

「陛下もシェラもそのくらいにしてあげては?」

「まだまだ手ぬるいだろう」

「このくらいどうってことないわよ」


 唯一の味方がスピリエルだってのが癪だが、俺はこんな感じのやり取りに姉ちゃんの許しが出るまで我慢し続けることになる。

読み難い点など多々あったかとは思いますが、拙い作品にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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