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その1

 歴史とは、その国にとって都合のいいように捻じ曲げて伝えられるものだ。

 正しい歴史などというものは、隠蔽されるか、抹消されるかのどちらかで、たとえ真実を知っていたとしても口を噤むしかない。

 誰しも自分の身は可愛く、無駄に命を散らすことはしたくないと思うのは当然だ。

 そんな無謀な事をするのは行き過ぎた自虐趣味のある者か、自殺志願者くらいだろう。


 遥か昔から、人間と魔族の間には大なり小なり確執は在ったらしい。

 それでも、共存することはできていたのだという。

 それが決定的に瓦解したのが、およそ三百年前の話。

 当時の魔王と帝国の皇帝の間で何かあったらしいが、詳しくは伝えられていない。

 それ以降、コンフィディー帝国は、ある一部を除き魔族が治める地『メフィセリィ』との国交を断った。

 長きにわたる戦争は、幾度か休戦協定が結ばれはしたが終戦には至らず、二十年前にも新たに休戦協定が結ばれるも、三年前にそれは反故にされた。

 過激派の魔族と強欲な上層部の人間によって。


 正直に言おう、国民としては大迷惑である。

 戦争は魔族側と帝国側の王族を含む勇士たちにより真実が露見し、半年前に終止符が打たれた。

 発覚した真実は、魔族側と極一部の帝国の民を除き、世界を震撼したのである。

 それは、長く『魔族』と称してきた相手が同じ人間であり、違いは魔力の保有量と寿命が多少長いというだけでしかないということだった。

 平均寿命が七十五前後の人間に対し、魔族と呼ばれた彼らは百十歳。最長で二百歳だというのだから、かなり差があるわけじゃない。

 つまり、魔力の強さと寿命以外で何ら普通の人間と変わりがないのだ。

 突き詰めていくと、大昔、彼らの国は『魔術大国 メフィセリィ』と呼ばれていたのを三百年前の出来事を切欠に、彼らを魔族と称し始め、魔術大国は魔族の国とされたということである。

 しかも、戦争を好き好んで吹っ掛けるのは魔術こそが最上とする過激派を中心にした、血気盛んな奴らと頭の固い連中ばかりで、コンフィディー帝国のあくどいというより腐った性根を持った貴族なんかが裏取引やら賄賂の受取やらをして、そいつらは協力関係にあったらしい。そんなバカな連中はマグマの中にでも放り込んでやればいいものを野放しにしやがって。

 なんで見て見ぬ振りをしていたんだと問い詰めてやりたいが、お偉いさんというのはいろいろあるらしい。

 面倒なこって。

 で、三年前に休戦協定を無視したバカ野郎どもも同じ連中だったわけだ。

 戦況や情勢などを見つつ、上手いことやってきたのがバレて、今回粛清を受けたわけた。

 二十年前の休戦協定は、折しも代替わりしたメフィセリィ王からの提案であったそうだ。

これは悪党を一掃するための準備期間を設けるためであったが、三年前にメフィセリィ王の死亡が伝えられ、偽王が立ったことで再戦となった。

 まあ、それが運の尽きだったわけだが。

 その後、メフィセリィ王の生存が確認されたこともあり、一気に片を付けに行ったわけだ。

 村を飛び出してから冒険者協会に登録し、メキメキと力を付け、周囲が驚くほど速くにランクの高い冒険者まで上り詰めた俺は、そこそこ名が売れ始めた。いや、結構名が売れてたと思う。

 主に銃と魔術を巧みに操りながら、攻撃速度が速く命中率も良い俺は、周囲からの羨望も嫉妬も集めた。

 自画自賛って言うな。ホントにそうなんだって。

 で、その腕を買われた俺は、偽王を含む悪党どもの討伐隊に抜擢されたのだ。

 何を隠そう、いや、隠す必要もなく大々的に言わせてもらおう。

 この溢れんばかりの才能でもって偽王を討ち取り、今や英雄となった者こそが、俺であると!

 仲間の協力を得て、十八という若さにしてメフィセリィの戦闘狂どもの鎮圧に成功した、剣も扱えるこの世で唯一の魔導銃士、レナード・ウッ――

 え? 俺の名前なんてどうでもいいって? 

 まあまあ、そういうなって。もうちょっと、俺の話に付き合ってくれよ。

 ん? ついでに前置きも長いし、説明は下手だし、歴史に興味はないと。

 そりゃそうだ。

 歴史なんてのは興味あるやつだけが詳しく調べればいいし、俺も興味はない。

 討伐隊に加わる前、学者から教えられたが右から左で、年号だの将軍の名前だの地名だの事細かに覚えられるかっての。

 といって、丸投げした張本人だ。

 まあ、考えるより先に行動タイプの俺は、脳筋一歩手前だ。

 一歩手前であって、脳筋ではない! 断じて違う!

 突撃していかないし、力に物を言わせてなんてこともせず、ちゃんと作戦立ててやって、いや、たまに後先考えず突っ走ることもあるが、たまにだ。八割くらいは戦略的に動いてる、はずだ。

 そんな俺だが、やはり老獪どもには敵わない訳で、騙されることもあれば、煽てられて上手いこと掌の上で踊らされたり、良いように使われたことも多々ある。だが、終わってしまえばなんのその。

 事後処理だの何だのと、いろいろと厄介なことが山積みで、気がつけばあっという間に三ヶ月が過ぎていた。

 討伐の途中、俺の故郷が魔族によって滅ぼされたと伝えられて、絶望とも言える喪失感と悲しみを抱えた時に比べれば、書類という魔物の討伐など些細――でもなかったが、これさえ終わればと踏ん張れた。

 結局、故郷は攻撃を受けたが壊滅はしておらず、村人は早々に避難していていたから無事だと知ったのは、敵との交戦中だった。敵ではなく、敵側に潜り込んだ味方だったわけだが、大いに動揺したさ。その時は敵だと思ってたしさ。

 信憑性含めていろいろ悩んだが、あれこれあって信用することにしたんだ。

 縋れるものは、ってやつだよ。

 メフィセリィの偽王討伐隊と手を結んだのはそのすぐ後で、あとは敵をバッタバッタと倒して、本拠地に乗り込んで――という流れになったわけだ。

 途中途中与えられた故郷の情報と不確かな姉ちゃんの情報だけで頑張れた気がする。それが策士からの餌ちらつかせ作戦だったとしてもだ。

 討伐を終えて、故郷についての報告書を読み進めれば、怪我人は出たが村のほとんどの人が無事だとわかって本当の意味で安心できた。安否確認のために作成されたリストを巻くりながら、騙しやがってこのやろうと悪態吐いた俺は悪くない。そして、肝を冷やすことになったのも記憶に新しい。なにせ、そのリストにある姉ちゃんの名の横に「不明」と書かれているのだ。あの時は心臓がギュッとした上に変な汗と笑いが出た。信じられなかったからだ。

 結局、メフィセリィ側から姉ちゃんの無事が知らされたわけだが、本当にあの時は生きた心地がしなかった。だから、今の俺にとっての心配事は、一つしかない。

 三年前、ちょうどそういう年頃っていうのもあって、憧れがあまりに強くなったんだ。

 村を出て、広い世界を知りるために冒険者になって旅をして、強くなりたいという思いが殊更強まった俺は、たった一人の家族である姉ちゃんの説教という名の説得も聞き流し、喧嘩別れするように村を飛び出した。

 ホント、無知でバカなガキだったんだ。

 けど、その衝動は抑えられなくて、姉ちゃんにバカみたいに反発して、家出同然に飛び出したのを自分の評価の低さに苛立ち、自分こそが正しいと主張するほど粋がったバカでどうしようもないガキだった。

 今にして思えば、その理由さえも建前で、きっと俺は姉ちゃんに一人前の男だと認めて欲しかったんだと思う。もう姉ちゃんの背に守られるばかりの子供じゃないという反発だったんじゃないかな。まあ、一度は誰しも通る道だよ――と思いたい。


 そんな俺ですが、事後処理という激務を終えたので、晴れて念願の里帰りをします!


 姉ちゃんの説教は避けたいが、きっとそれすらも嬉しく感じる気がする。それほど、故郷が、姉ちゃんが無事であったことが嬉しいのだから仕方ない。

 この三年でいかに俺が成長したかも見てもらいたいのもある。


 そして、俺は意気揚々と我が家に帰って来た。


「姉ちゃん、ただいまー! って、なんでお前がいんだよ!」

「騒がしいな、英雄。扉はもっと静かに開けるべきだろう。品が無さすぎる。あと、僕のお茶の時間を邪魔するな」


 三年ぶりの我が家は、魔王、いや、メフィセリィの新王に占拠されていた。


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