プロローグ
プロローグ
最後の銃声が余韻を残し静寂を連れてくる。
さき程までは銃声、物が砕ける音、悲鳴、叫び声さまざまな音が響いていたが今は静寂が辺りを包む。
広い倉庫の割れた窓硝子からは青白い月明かりが差し込み辺りを照らす。
足元に広がる死体と瓦礫の山。
その上を月光に照らされた埃がキラキラと舞う。
自分ではひどく長い間その場に立ちつくしていたような気がするが実際は数分も経っていないはずだ。辺りを軽く見回し左手の銃を腰のホルスターに納め、外に出る。
目の前に広がる暗い海に歪んだ三日月がゆらゆらと漂っている。
暗い海から顔を上げ深く息を吸い込む。体内を新鮮な酸素で満たされていく。
深く吸った息を吐き出し倉庫を後にし歩き出す、ふと背後に気配を感じ振り向きざまに銃を抜く
「その物騒な物を下げて頂けませんか?」
と優しい口調の声が暗闇から聞こえる。
「誰だ?」体に緊張が走る。
闇から切りとったかのような黒い神父服をまとった男が倉庫の陰から現れる
「手際のよい仕事をなさる」
男はまだ少年のあどけなさが残る顔でにこりと笑う
「誰だ!?」
「僕はアスラといいます」
先程の笑顔を崩さないまま彼は続ける。
「何のようだ?」
約2Mの間合いが硬質な空気に変わる
「何故あなたは<ツクヨミ>を殺すのですか?」
「お前には関係ない」「ありますよ。貴方はどうやら神倶弥の血族ではないようですが?」
「神倶弥?」
「神倶弥の血を引くのはほとんどは女性ですからね。今夜もその彼女の為に張った罠だったのですが」
「罠?」
「えぇあなたが倒したのは、ドラッグで変異を起こした人形ですから。本物の<ツクヨミ>はそう簡単に殺されませんし、死んだ後、人間には戻りません」男の話しが終わるのと同時に迷わずトリガーを引く火花が散った先には男−−アスラの姿は無い。
「血の気の多い方だ」
後ろ!?振り向くとアスラがまるで何事もなかったかのように立っている。
「ちっ!」
トリガーを続けざま三回引くが、まるで重さを感じさせない動きで全てを避け切る 「一体お前は何物だ!」
堤防の隅まで追い詰めて眉間に銃口を当てる アスラの後ろは海だもう逃げさせない。
「僕ですか?僕は−−」満月を頭上に黒くうねる海を背後にアスラは両手を広げる。
「僕は神の使いですよ」
そう言った彼の口元が耳まで裂ける。
「なっ…!」
全身の毛が総毛立つ 目の前で行われるおぞましい光景 アスラの体が徐々に変貌を遂げる 黒い体毛が全身を覆いミシミシと骨が伸びる音がする 裂けた口から白い牙が見え、スラリとしていた腕が丸太のような太さになりその先に鋭利な爪が伸び切った時には