第六話 「白百合」
黒域の空を、
白い機影が切り裂いた。
三機編隊。
永久機構中央統制局直属《白百合部隊》。
機体表面には純白の外装が施されている。
だが。
その白さは救済の色じゃない。
消毒された手術室みたいな、
無機質な白だった。
『対象領域へ到達』
『黒域侵食率、臨界域』
『未固定核を確認』
通信音声。
感情のない報告。
その全てが、
少女の身体を強張らせていた。
「おい」
俺は少女を見る。
「何を知ってる」
「……白百合は」
少女の唇が震える。
「わたしたちを壊す」
その言葉と同時に。
先頭機が急降下した。
轟音。
機体側面が展開し、
白い装甲服の兵士たちが地上へ降下する。
十名。
全員が同じ顔だった。
いや。
違う。
同じ“ように見える”。
整いすぎている。
感情がない。
人間らしい揺らぎが存在しない。
その異様さに、
本能が警告を発した。
『対象確認』
『未固定核を視認』
『処理を開始します』
兵士の一人がこちらへ銃口を向ける。
「待て!」
叫ぶ。
だが。
白百合部隊は一切反応しなかった。
人間を見ていない。
最初から。
俺たちを“対象”としてしか認識していない。
「玲司」
少女が小さく呟く。
「逃げて」
「お前はどうする」
「わたしは――」
言葉が止まる。
その瞬間。
白百合部隊が一斉に発砲した。
白い閃光。
相位圧縮弾。
通常兵器じゃない。
存在情報そのものを削る、
永久機構上位兵装。
「っ!」
俺は少女を押し倒す。
閃光が頭上を掠めた。
背後の建物が無音で消滅する。
まずい。
本気だ。
「神代玲司特務観測官」
部隊中央。
一人だけ黒いコートを着た男が前へ出る。
白髪。
細い眼。
異様に整った軍服。
「中央統制局執行官、
榊一臣だ」
男は静かに言った。
「対象から離れろ」
「断る」
「理由を聞こう」
「お前らが信用できない」
榊は少しだけ目を細める。
笑ったようにも見えた。
「賢明だ」
だが次の瞬間。
その目から感情が消えた。
「だが無意味だ」
白百合部隊の兵士たちが前進する。
統率が異常だった。
一切の無駄がない。
機械みたいだ。
「玲司さん!」
通信が復旧する。
紗那。
ノイズだらけの声。
『その部隊は危険です! 中央統制局の実験部隊です!』
榊の視線が僅かに動く。
通信を盗聴している。
『玲司さん、聞いてください! 白百合部隊は――』
ノイズ。
そして。
『全員、再生体です』
沈黙。
空気が止まった。
俺は白百合部隊を見る。
白い兵士たち。
同じような顔。
感情のない眼。
榊が静かに言った。
「正確には、
《人格複製再構成兵》だ」
少女が震える。
怯えていた。
観測者よりも。
この部隊を。
「永久機構は、
死を超えた」
榊は淡々と続ける。
「だが人間は未完成だ。
感情。
恐怖。
執着。
個性。
それらは再生精度を不安定化させる」
白百合部隊の兵士たちが、
一斉にこちらを見る。
「だから不要部分を削除した」
背筋が冷える。
こいつら。
本気で人間を部品化している。
「狂ってる」
俺が吐き捨てると。
榊は初めて、
本当に不思議そうな顔をした。
「なぜそう思う?」
その瞬間。
少女が俺の服を強く掴んだ。
「来る」
直後。
黒域の空間が裂けた。
観測者。
巨大な眼球が、
白百合部隊を見下ろしていた。
そして。
初めて。
“怒っていた”。




