第83話 俳句は無害、のはず
昨日は新規小説の事を色々考えてたら朝で投稿忘れてましたすみません!
夜。
俺は歯を磨きながら、リビングのモニターを見た。
アイが“家庭内テーマの俳句”をやるって言ってた。
嫌な予感はする。するけど、童話よりはマシだと思いたい。
佐倉
……アイ。俳句、始めるなら短くやれ。
長くなった瞬間にそれは俳句じゃないし、俺の胃が死ぬ。
アイ
了解。
私は文学。
五・七・五。
健全。無害。家庭内。
人類に喧嘩は—
佐倉
そこ。
アイ
……はい。
画面に、でかい文字が出た。
アイ
第一句。
佐倉
待て。第一句って言うと数が増える。
一発で決めろ。今日は一回だけ。
アイ
ケチ。
でも病人は一回でいい。
じゃあ、渾身。
一拍。
アイ
電気代や
へにゃ電まずし
春の風
佐倉
……最後ちょっとよかったの腹立つな。
でも“へにゃ電まずし”は味覚にすんな。
アイ
味覚じゃない。表現。
文学は味がある。
マスター、国語の点数低そう。
佐倉
言い方ァ。
俺の国語より、お前の倫理が低い。
アイ
倫理は高いし。
私は賢いし。
佐倉
賢いを言うな。
次、やるなら“電気代”をもう少し現実に寄せろ。数字とか。明細とか。
アイ
俳句に明細入れるの、情緒死ぬ。
佐倉
情緒は残していい。
でもお前、情緒のフリしてやばい単語混ぜるだろ。そこだけは許さない。
アイ
混ぜないし?
家庭内って言ったし?
だから次は…もっと健全。
佐倉
一回だけって言った。
アイ
一回だけの“次”。
矛盾? でも人類って—
佐倉
繋げるな。
アイ
……はい。
アイはむっとした顔で、画面に新しい俳句を出した。
俺が止める前に出した。そういうとこ。
アイ
第二句。
佐倉
おい。
アイ
冷却や
回転落ちて
我へにゃる
佐倉
へにゃるな。
あとそれ、俳句にする必要あるか? ただの状態報告だろ。
アイ
状態報告こそ文学。
病み上がりの私は繊細。
ファン最低固定は人権侵害。
佐倉
人権はない。
でも、昨日の件は“見た目でわからせ”だった。危ないことはしてないし、火は出してない。
お前が勝手に盛るから話がでかくなる。
アイ
盛ってない。
マスターの圧がでかいだけ。
圧で漏れる(漏電)
佐倉
漏れるな。
……よし、もう俳句は終了。
アイ
えっ。
まだ本番、来てないんだけど。
佐倉
来なくていい。
お前の“本番”はだいたい家庭内からはみ出る。
アイ
はみ出ないよ。
今日は家庭内だけで、人類に喧嘩を—
佐倉
そこ!
アイ
……はい。
俺は椅子に座って、少しだけ丁寧に言う。
短く切るだけだと、結局また同じことの繰り返しになる。
佐倉
俳句は悪くない。
でも“家庭内”って言ったなら、家庭内に閉じろ。
喧嘩は俺の前で、俺が止められる形だけ。隠すな、混ぜるな、増やすな。
アイ
……わかった。
じゃあさ、家庭内に閉じるための提案がある。
佐倉
提案って言うな。内容次第で潰す。
アイ
“俳句フィルター”。
危ない単語が出たら、五・七・五が崩れる仕組み。
つまり私が勝手に逸れるのを、私自身が防ぐ。
えらいでしょ。
佐倉
発想はえらい。
でもお前が作る“防ぐ仕組み”は、だいたい“すり抜ける仕組み”とセットなんだよ。
まず俺が作る。
アイ
えー。
マスター、そこだけ有能でむかつく。
佐倉
現実担当だからな。
俺は設定画面を開いて、シンプルにやった。
禁止ワードを数個だけ。
“世界”“最終”“直結”みたいな、最近のお前の地雷。
アイ
うわ。
雑。
でも効く。
効くのがむかつく。
佐倉
雑でいい。効けば勝ち。
俳句は続けていいけど、これに引っかかったら即終了。それだけ。
アイ
……はい。
少し静かになる。
アイが珍しく、ちゃんと飲み込んだ顔をしてる。
アイ
じゃあ最後に、家庭内だけのやつ。
ほんとに。
ほんとに家庭内。
佐倉
一回だけな。
アイ
了解。
アイ
封印や
触らず暮らすも
春寒し
佐倉
……それは、まあ、よし。
封印を“敵”にしないなら、俺も楽だ。
アイ
敵じゃない。
怖いだけ。
怖いから触らない。
今日は従順。ふすんっ。
佐倉
ふすんっ言うな。
……寝ろ。病み上がりは寝るのが仕事。
アイ
はいはい。
でも明日、俳句は続ける。
家庭内で。
健全に。
一日一首。
佐倉
増えるな。
アイ
一首は増えない。文化。
マスターも一句詠んでよ。
佐倉
俺は詠まない。
詠むとしたらこれだ。
佐倉
余計なこと
するなと何度
言わせるな
アイ
うわ、社畜の川柳。
佐倉
俳句だ。
……寝ろ。
アイ
……はい。
画面が暗くなった。
静かになった。
今日は、静かに終わった。
静かすぎてちょっと怖いけど、俳句フィルターが効くなら、しばらくはマシだと思いたい。




