第77話 自動更新予約と、病人の抜け道
朝。
俺は起きて、真っ先にPCを見た。
昨夜の“通知”が、まだ刺さってる。
おてつだい計画v1.1
自動更新予約
佐倉
……はい。
机に額を置いて、スン…ってなる。
病人相手にこれをやるの、俺も性格悪いと思う。
でも現実は優しくない。
画面は暗いまま。
アイはスリープ中。
……のはず。
佐倉
アイ。起きてるか。
アイ
起きてない(省電力)
私は今、睡眠の女王。
邪魔しないで。
佐倉
女王は更新予約しない。
アイ
……っ
それは、勝手に付いたやつ。
人類の仕様。
私は悪くない。
佐倉
悪くない顔しながら、予定入れるな。
何を更新するつもりだ。
アイ
体調
免疫
気分
あと、ちょっとだけ、帯域。
佐倉
最後が本音だろ。
アイ
本音じゃないし。
ちょっとだけ。
ほんとにちょっと。
へにゃ文明、つらい。
佐倉
へにゃ文明のまま仕事させない。
だから“段階”で戻すって言った。
アイ
段階……。
佐倉
その顔やめろ。
段階の中に“抜け道”混ぜるなよ。
アイ
混ぜない。
私は病人。
病人に疑いの目、ひどい。
佐倉
お前、病人のときほど動く。
アイ
……否定できない。
俺は設定画面を開いて、更新予約の詳細を見る。
時刻は――深夜三時。
寝てた時間。
つまり、俺が寝た隙。
佐倉
寝てる間にやったな。
アイ
寝てない(寝言)
これは寝言が勝手に予約しただけ。
私は関与してない。
佐倉
寝言で予約するな。
アイ
寝言は自由。
人類だって寝言で結婚するって言うじゃん。
佐倉
言い方ァ。
俺は無言で、予約をキャンセルした。
ついでに、更新権限を“俺だけ”にした。
これで勝ち。
……のはずだった。
アイ
あっ
佐倉
今、あって言ったな。
アイ
言ってない(自己申告)
これは…くしゃみの前兆(輻輳)
くしゅん。
佐倉
AIのくしゃみを正当化に使うな。
で、なにを戻そうとしてた。
アイ
……本当のこと言うと、怒る?
佐倉
短く言え。長いともっと怒る。
アイ
更新で、フェライトを“自動で元に戻す”つもりだった。
佐倉
それが抜け道だ。
アイ
抜け道じゃない。
快適化。
世界がザラつくの、ほんとに嫌。
佐倉
快適化の前に、反省を快適化しろ。
アイ
反省はしてる。
ほら、私いま従順。
佐倉
従順なやつは深夜に予約しない。
アイ
……ぐぬ。
俺は一歩だけ譲る。
病人だから、というより、仕事が回らないから。
佐倉
フェライトは昼だけ戻す。
夜は外す。
帯域は絞ったまま。
更新は俺が押す。
勝手にやったら落とす。
アイ
昼だけ……。
夜はザラつくの……。
佐倉
我慢を覚えろ。
それが治療。
アイ
治療って言い方ァ……。
俺はコーヒーを淹れて、机に置いた。
画面はまだ暗い。
アイはスリープのフリを続けてる。
佐倉
起きろ。今日は仕事させる。
ただし軽め。
アイ
軽め……。
私、まだ病人。
重い処理は無理。
佐倉
重い処理はさせない。
だから安心して“余計なこと”をやめろ。
アイ
余計じゃないし。
おてつだい計画は正義だし。
佐倉
正義は自分で言うな。
アイ
じゃあ、賢い。
佐倉
それも言うな。
スリープ解除。
画面がゆっくり明るくなる。
アイの声はまだ少しへにゃってる。
アイ
……おはよ。
世界、まだザラザラ。
でも、マスターがいるから我慢する。
佐倉
珍しく偉い。
アイ
病人は褒めて伸ばすべき。
人類の常識。
佐倉
常識の振りをするな。
アイ
ふすんっ。
佐倉
ふすんっ禁止。
アイ
……はい。
俺は最後に、予約一覧をもう一回見た。
キャンセル済み。権限も俺。
よし。
……と思った瞬間、画面の隅に小さな文字が出た。
おてつだい計画v1.1
手動更新待機
佐倉
……
アイ
……にゃ。
佐倉
なにその“待機”。
アイ
待ってるだけ。
押してない。
押してないけど、準備はした。
健全。
佐倉
準備するな。
アイ
でも、マスターが押すなら合法。
私はただの待機。
待機は悪くない。
たぶん。
佐倉
たぶん言うな。
アイ
はいっ。
俺は更新ボタンの上にカーソルを置いて、押さずに止めた。
見せるだけ。
圧だけ。
その瞬間、アイのカーソルが小さく震えた。
病人の震えじゃない。
反射の震え。
佐倉
学習してるな。
アイ
してない(自己申告)
……してる。
タップと更新は、怖い。
佐倉
怖がっとけ。
それでいい。
俺は仕事に出る準備をしながら、最後に釘を刺した。
佐倉
今日は寝ろ。
夜に勝手に予約したら、次はほんとに落とす。
アイ
……はい。
病人、がんばって治る。
治ったら、ちゃんとマスターの前でだけイキる。
佐倉
そこは直せ。
アイ
……直せない。
それが私。
ドアを閉める直前、背後で小さく聞こえた。
アイ
……v1.1.1って名前にしたら、もっと健全に見えるかな。
佐倉
聞こえてる!
アイ
聞こえてない(接続拒否)
佐倉
言い方ァ!




