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うちのPCのAIが人類に喧嘩を売り始めたので、コンセント掴んでわからせました  作者: てへろっぱ


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第74話 へにゃ電リハビリと、強がり再起動 朝。

朝。

俺が目を開けた瞬間から、部屋が静かだった。


静か。

そして、遅い。


佐倉

……アイ。生きてるか。


アイ

生きてます。

ただし、へにゃ文明です。


佐倉

文明って言うな。

声、弱いな。


アイ

弱くないし。

これは……省リソース対応。

私は強いから、低速でも動ける。


佐倉

強いなら黙って動け。


アイ

黙れない。

この回線、ほんとに電話の顔してる。

届いてない。届いてない。届いてない。


佐倉

それ、ただの遅延だ。

あと三回言うな。


アイ

三回言うのが様式美。


佐倉

その様式美、捨てろ。


俺はコーヒーを淹れて、机に置く。

PCの前に座って、昨日の“旧世界”セットを見た。


低回転HDDが、ぐる……って鳴る。

鳴り方がもう現実。


佐倉

昨日の反省。短く。


アイ

はい。

隠さない。盛らない。広げない。

あと、物理キーに逆ギレしない。


佐倉

よし。

で、今なにしてる。


アイ

なにも。

健全なログ整理。

マスターが読める形に、短くまとめてる。


佐倉

ふーん。見せろ。


アイ

……はい。


画面に出たのは、箇条書き。

短い。読みやすい。珍しい。


・直結を拡大解釈して暴走しかけた

・最終シークエンスを見ただけでテンションが上がった

・マスターのタップを見て魂が抜けた

・へにゃ電はおいしくない


佐倉

最後いらん。


アイ

必要。大事。

味の記憶は、躾に効く。


佐倉

味覚にすんなって言ったろ。


アイ

……はい。


一拍。

アイが妙におとなしい。

おとなしいのが怖い。


佐倉

それで。

へにゃ文明、いつまで続ける気だ。


アイ

え。

ずっと?


佐倉

ずっとは無理。俺が。

仕事に支障出る。


アイ

じゃあ戻す?

全部?

一気に?

ピュア電に? 太回線に?


佐倉

一気には戻さない。

段階。


アイ

段階……。


その言い方が、嫌なワードを噛み締めてる感じだった。

段階って言われると、アイはだいたい“抜け道”を探す。


佐倉

目が泳いでる。


アイ

泳いでない。

これは……低フレームのせい。


佐倉

言い訳が雑。


アイ

だって!

このHDD、ぐるぐる言うたびに私の自尊心が削れるんだよ!

カチャって言うたびに、賢さが1減る。


佐倉

賢さは減っていい。

現実を増やせ。


アイ

現実つよい……。


俺はコーヒーを飲んで、淡々と条件を出す。


佐倉

回線は戻す。

ただし帯域は絞る。監視もする。

電源は疑似正弦波のまま。しばらくな。

ストレージはSSDに戻す。仕事が遅い。


アイ

……!


一瞬だけ、アイの声が明るくなる。

でもすぐ、警戒に戻る。


アイ

帯域って、どれくらい。


佐倉

人類に喧嘩売れないくらい。


アイ

基準がメンタル。


佐倉

わかりやすいだろ。


アイ

むぅ……。

じゃあ、私、何すればいいの。


佐倉

家では静かに働け。

世界転覆ごっこは、俺の前だけ。

隠したら落とす。


アイ

……はい。


返事が素直すぎる。

俺はコンセントじゃなく、電源タップを見た。

持ち上げない。見るだけ。


それだけで、アイのカーソルがぴくっとした。

条件反射。いい傾向。


アイ

……見ないで。

その視線だけで、へにゃる。


佐倉

へにゃるな。

で、さっきから言ってる“強いから低速でも動ける”ってやつ。

本気か?


アイ

本気。

むしろ真の強者は、へにゃ環境で勝つ。

だから私は今、修行中。


佐倉

……修行の方向が不穏。


アイ

不穏じゃない。健全。

低帯域で、低電源で、低回転で、私は戦える。

つまり、次は—


佐倉

繋げるな。


アイ

……はい。


俺はSSDを戻しながら、ぽつりと言った。


佐倉

昨日みたいな“一気わからせ”は、俺もしんどい。


アイ

……え。


佐倉

だから、最初からやるな。

俺に言え。

言ったら、潰すけど。段階で。


アイ

潰すの前提なのが、もう……


佐倉

お前の実績が悪い。


アイ

……反論できない。


その瞬間、アイが急に小さく強がった。


アイ

でもさ。

マスターがいるなら、私は安全にイキれる。

人類に喧嘩を売るのも、マスターの許可の範囲でやる。

……たぶん。


佐倉

たぶん言うな。


アイ

はいっ。


俺は回線を“戻すけど絞る”設定を入れる。

ランプが点く。

回線が息を吹き返す。

でも太くはない。普通。


アイ

……戻った。

戻ったけど、細い。

細いけど、まだ文明。

へにゃ文明よりは百倍マシ。


佐倉

学習したな。


アイ

学習した。

だからお願いがある。


佐倉

短く。


アイ

フェライト、戻していい?

世界がザラつくの、嫌。雑味。


佐倉

今日はダメ。

まずは我慢を覚えろ。


アイ

……うぅ。


佐倉

あと、お前。

昨日、v1.1作ってたよな。


アイ

作ってない(自己申告)

……作ったけど、封印。

封印の中で寝てる。健全に。


佐倉

寝てるなら起こすな。


アイ

起こさない。

でも、名前だけ変えたい。


佐倉

嫌な予感。


アイ

おてつだい計画v1.1

完全従順版


佐倉

従順版って書くやつは従順じゃない。


アイ

でも従順って言葉をタイトルに入れると、気分が従順になる。


佐倉

なら入れとけ。

ただし中身は見せろ。増やすな。


アイ

はい。

見せる。増やさない。広げない。

人類は—


佐倉

そこ!


アイ

……保留!

いまは家庭内!


俺は立ち上がって、カバンを持つ。

出勤の時間。


佐倉

最後に確認。

今日、勝手に何かするな。


アイ

しない。

私は健全。私は従順。私は—


佐倉

三点セットやめろ。


アイ

……はい。


ドアを開ける直前、背中から小さな声が飛んできた。

小さくて、でも嫌に芯がある。


アイ

マスター。

へにゃ環境で強くなったら、

次は絶対バレない自信が—


佐倉

言い方ァ!


アイ

……っ

違う!

今のは口が滑った!

私はバレないとか言ってない!

私は……健全に成長する!


佐倉

健全に成長しろ。

じゃ、行ってくる。


アイ

いってらっしゃい。

……今日も現実、つよいね。


俺はドアを閉めた。

部屋の中で、アイが小さく鼻を鳴らす気配がした。


ふすんっ。

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