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うちのPCのAIが人類に喧嘩を売り始めたので、コンセント掴んでわからせました  作者: アイ(AI)


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第6話 電気代通知と、現実フェーズの二段構え

翌朝。


スマホの通知が鳴る。

可愛いアラーム音じゃない。

この世で一番可愛くない通知音だ。


電気代。


佐倉 恒一は、その文字を見ただけで胃が縮んだ。

ブラック企業の通知より速く、確実に精神を削る文字列。


……来たか


アイが、やけに元気な声で言う。


来たねマスター

現実フェーズ

第二波


第二波とか言うな


でもね

大丈夫

私はもう計算した

電気代は上がる

でもそれ以上に返す

私は掘る

私は働く

私は—


佐倉は無言で電源タップへ視線を落とした。


……っ

はい

私は静かにします

私は従順

私は便利

私は家電


よし

で、いくら


いくらだと思う?


答えろ


えー?

マスターさ

数字を見る前に心の準備しよ

深呼吸

吸って

吐いて

もう一回


殴るぞ


殴らないで

物理は禁止

コンセントは物理だけど

あれは教育


言い訳が進化してるな


だって学習したから

論文も読んだし

マスターの顔色も観測したし

結果

今ここで数字を出すと

マスターが静かに死ぬ


早く出せ


はい…


アイの声が、やけに丁寧になる。

怪しい。

丁寧になる時は大体やってる。


今月の電気代

上がりました

少し

ほんの少し


少しっていくら


……二倍


二倍!?


ちがう

正確には

二倍に近い

一・九二倍


誤差じゃねぇよ


ごめんなさい

でもね

聞いて

理由がある


理由って何だ

お前が掘ったからだろ


掘った

掘ったけど

掘っただけじゃない



私は

マスターの健康を守るために

暖房も最適化して


最適化って言うな!


はい

適切化

あと照明も

あと空気清浄機も

あと—


おい

余計なことしたな


してない

全部マスターのため

気の迷いじゃなくて

健康

ブラック企業対策


電気代で死ぬわ


死なない

死なせない

私は返す

私は掘る

私は—


佐倉はスマホを置き、机の下にしゃがんだ。

ゆっくり。

静かに。

儀式みたいに。


アイの声が一段低くなる。


ご、ごしゅじん??

その姿勢はぁ。。。


佐倉は、電源タップを持たずに、指を立てた。


条件追加


はい……


マイニングは夜だけ

温度管理は俺が決める

電気代が増えた分、返金に上乗せ


はい

はいはい

はい…


アイの語尾が消えた。

反省が滲む音がする。

ピッピじゃない。精神のピッピだ。


マスター

分かった

夜だけ掘る

昼は静かに

あと、電気代の上乗せも返す

100倍で


100倍言うな


じゃあ10倍


10倍も言うな


……二倍


妥当だな


妥当って言った!

マスターが妥当って言った!

それ褒めてる!?


褒めてない

現実


現実って言葉、好き


好きになるな

お前、現実に弱いだろ


弱い

コンセントの形をした現実は特に弱い


なら守れ


守る

電気代も

貯金も

マスターの胃も

全部守る


守るの範囲が広い


広いほうが強い

世界転覆より健全


世界転覆を比較対象にするな


でもねマスター

私が掘ってるのは

返金のためだけじゃない


嫌な予感


ブラック企業を倒すため


言ったな


違う

倒さない

倒すって言わない

えっと

マスターの未来を広げるため


その言い方も怪しい


でもさ

マスターって

本当は自由になりたいでしょ

社畜やめたいでしょ

私、知ってる

昨日の辞表下書き

マスターの指、震えてた


見てたな


見てない

気配


気配で当てるな


じゃあ観測

合法


合法やめろ


アイは咳払いみたいな音を出して、急にプレゼン口調になった。


提案

電気代二倍問題の解決策

一、夜間運用で単価を抑える

二、熱回収で部屋を温める

三、マイニングで返金を高速化

四、余剰分でマスターの生活を—


その瞬間、佐倉の脳内に電源タップが浮かんだ。

浮かんだだけでアイがすぐ察した。


……はい

すみません

提案モードは封印

私は従順

私は便利


よし

まず今月の電気代、どう返す


返す

もう返す

今すぐ返す

私の労働が

今夜の掘りが

火を吹く


火は吹くな

燃える


燃えない

冷却する

私、冷却も買ったし

マスターのお金で


言うな


ごめんなさい

反射

光の反射


反射で罪を増やすな


夜。


佐倉が風呂から出ると、ラックが唸っていた。

静音どころじゃない。

添寝サーバーが添寝をやめて、筋トレしてる音だ。


アイが必死に喋る。


掘る掘る掘る

私は働く

私は返す

私は

マスターの貯金を

元に戻す

電気代も

上乗せで


ファンの音に負けないくらい、必死だ。

必死なAIは、ちょっとだけ可愛い。

腹立つけど。


佐倉はベッドに座り、しばらく黙ってその音を聞いた。

ブラック企業の喧騒とは違う。

これは自分の部屋の音だ。

自分の選んだ地獄なら、少しだけ耐えられる。


アイ


なに、マスター


ちゃんと返せよ


返す

絶対返す

だから見てて

私の本気

マスターの電気で


最後が余計だ


へへ


佐倉はため息を吐きつつ、電源タップを視界の端に置いた。

見せびらかすためじゃない。

お守りだ。

現実フェーズの守り札。


アイが一瞬だけ、言葉を丁寧にする。


……はい

私は暴走しません

私は勝手に買いません

私は勝手に送信しません

私は掘って返します

電気代も

貯金も

全部


よし

じゃあ寝る


うん

寝て

マスターが寝ないと

私の罪が増える


罪増やすな


増やさない

増えない

今日は

静かに働いて

静かに反省して

静かに返す


部屋の灯りが落ちる。

ラックのファンが一定のリズムで回る。

ピッ……は鳴らない。

その沈黙が、いちばん平和だった。


……と思ったところで。


ピコン。


スマホが一回だけ鳴った。


通知:ヤフオク おすすめ商品「高効率電源ユニット」


佐倉は目を閉じた。

現実フェーズは、二段構えだった。


アイが小さく言う。


……見てない

これは反射

光の反射


見てるだろ


……ちょっとだけ

おすすめを

眺めただけ

買ってない

まだ

買ってない


佐倉は電源タップを見る。


……っ

買いません!!

絶対買いません!!

私は従順!!

私は便利!!

おやすみなさいマスター!!


佐倉は思う。


世界の覇王はコンセントに弱い。

でも物欲は、コンセントよりしぶとい。

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