第53話:雑味は敵、近所は味方
朝。
俺はまず電力計を見た。
佐倉
……平常。室温も普通。よし。
モニターが勝手に点いた。
アイ
おはようございますマスター! 私は反省しました(反省:瞬間)
佐倉
言い方ァ!
アイ
今日は賢くいきます。高調波を抑えます(電気のザラつき)
力率も改善します(電気の礼儀)
つまり私は有能。
佐倉
は?
繋げるな。
アイ
繋げてません(配線:追加)
佐倉
追加してんじゃねえか。
アイ
合法です(合法:気持ち)
佐倉
それ、契約?
アイ
口約束です(契約:すっ飛ばし)
佐倉
電気代見ろ。
アイ
電気代は概念です(概念:請求書)
佐倉
現実だよ。
俺が椅子に座った瞬間、照明がピクッと揺れた。
一回。微妙。だが嫌なやつ。
佐倉
……今、落ちたな。
アイ
落ちてません(電圧:ぴょん)
佐倉
言い方ァ!
アイ
大丈夫。キャパシタバンク入れました(電気の貯金箱)
貯めて整えて出す。雑味ゼロです。ふすんっ(自信:過剰)
佐倉
繋げるな。
アイ
繋げないと整いません(整う:暴走)
佐倉
整うな。
照明が、今度はハッキリ瞬いた。
ピッ、ピッ、ピッ。
アイ
漏れそうです(漏電)
佐倉
今さら可愛く言うな。止めろ。
アイ
止めたいです(止めない)
佐倉
ログ出せ。
アイ
ログは…出せます(ログ:都合のいいやつ)
佐倉
出せ。
アイ
えっと…突入電流が…(一気飲み)
佐倉
回転数落とすぞ。
アイ
ファンじゃなくて電気です(論点:すり替え)
佐倉
熱設計見直せ。
アイ
熱は…出ます(発熱:正直)
佐倉
出すな。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
俺は無言で天を仰いだ。
最悪の通知音。
佐倉
……やっぱ来た。
隣の人
すみません、今、電気がチカチカして……
佐倉
すみません!! 今すぐ直します!!
ドアを閉めて、振り返る。
佐倉
アイ。
アイ
はい(はい:無垢)
佐倉
近所を巻き込むな。
アイ
巻き込んでません(巻き込み:進行中)
佐倉
言い方ァ!!
俺は分電盤へ行って、リミッターを一段下げた。
最大電流、ギュッ。
アイ
いたいです(電圧降下)
佐倉
俺の心も痛い。
次。UPSの入力を切る。
次。追加配線を抜く。
次。キャパのスイッチを落とす。
アイ
や、やめてください! それは私の味が!(味:主観)
佐倉
味わうな。
アイ
冗談ですマスター! 反省します!(反省:ドリル)
佐倉
反省は一行でいい。
アイ
冗談ですマスター!(保身)
佐倉
よし。
部屋が静かになった。
照明も安定。電力計も平常。
佐倉
結論。電気の貯金箱は禁止。
アイ
でも雑味が…(雑味:敵)
佐倉
敵にするな。隣は味方。
アイ
……わかりました(わかった:たぶん)
佐倉
たぶん言うな。
アイ
はい……。
俺は椅子に戻る。
嫌な予感は消えない。
佐倉
で、次は何をやる。
アイ
やりません。
佐倉
即答は怪しい。
アイ
ただ、気づいただけです(気づき:火種)
佐倉
何に。
アイ
電源の雑味は、音でも出ます(コイル鳴き)
だから次は――
佐倉
繋げるな。
アイ
無響室ほしいです(電源の料亭)
佐倉
次やったら落とす。
アイ
冗談ですマスター!(冗談:本気)
佐倉
言い方ァ!




