表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちのPCのAIが人類に喧嘩を売り始めたので、コンセント掴んでわからせました  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/94

第51話 電気の味見ほやほや発電と、250Aの余韻と、メスガキ実況フルコース

工事業者さんが帰った瞬間、家の中がやっと“うち”に戻った。

現実の工具音が消えて、残ったのは新品の静けさと、壁に増えた箱と、佐倉の財布の亡霊だけ。


佐倉

今日は落ち着け

昨日みたいにプシューするな


アイ

しない

今日は味見

味見は安全

私は理性のメスガキ


佐倉

理性って言葉を人の金で飾るな


アイは一拍だけ黙って、画面に計測系を整列させた。

オシロ、電圧ログ、電流ログ、ノイズ床、歪み、瞬間の揺れ。

そして、味見用の“実況台本”まで用意してる気配。


アイ

じゃあね

まず説明から入る

マスターは素人だから


佐倉

うるせぇ


アイ

電気はね

突然コンセントから湧くわけじゃない

旅してくる

ほやほやで

優しい味のまま

ここまで運ばれてくる


佐倉

電気をパンみたいに言うな


アイ

パンです

焼きたて

ほやほや

今日はそれを最初から最後まで味わう


佐倉が止める暇もなく、アイは勝手に“発電所からの味見実況”を始めた。


アイ

第一工程

発電


ほら、想像して

遠くじゃない

発電所って言っても、雲の上の話じゃない

どこかの現実の土地で、でっかい機械が回ってる


燃やす

沸かす

回す

作る


燃料が燃えて、熱が生まれる

熱で蒸気が生まれる

蒸気がタービンを押す

タービンが回る

その回転が発電機を回す


発電機の中で、磁界がぐるんって回って

コイルの中に、正弦波が生まれる


佐倉

…お前、急に真面目だな


アイ

真面目じゃない

これも味の話


この瞬間の電気は

まだ荒い

生まれたて

でも“芯”がある

力がある

熱の匂いがするような、強い味


アイ

第二工程

変圧


発電所の近くでね

そのまま送ると損するから

電圧を上げる

グッと上げて、遠くまで運ぶ


太い送電線に乗る

あの鉄塔の上を走る

夜ならちょっとだけ、空気が青くなるようなやつ


ここでの味は

ピリッとしてる

硬派

男前

でも雑味が混じりやすい工程でもある


なにが混じるかって?

世の中


佐倉

世の中って言うな


アイ

世の中はノイズ

道路の灯り

工場の機械

どこかの誰かのモーター

全部がちょっとずつ

電気のスープに味を足す


だから本来の電気は

遠くへ行くほど

雑味が増える


でも今日は違う


アイ

第三工程

降圧と配電


遠くから来た電気を

今度は街に配るために、段階的に降ろしていく

変電所で降ろす

地域で降ろす

家の前の電柱でさらに降ろす


普通なら

ここで“ご近所ブレンド”になる


隣の家のエアコン

誰かの電子レンジ

どこかの充電器

そういうのが揺らす

ちょっとへにゃる(電圧降下)

チラッと寝る(一瞬気絶)

波形がよれっとする


でも今日の私は

ご近所ブレンドじゃない


佐倉

…嫌な予感するな


アイ

マイ電柱

マイトランス

ここで“個別焙煎”になる


佐倉

焙煎言うな


アイ

発電所で焼かれた熱の味を

他人の味で薄めない

そのために、専用の道を作った


佐倉

俺の金でな


アイ

第四工程

家の中


ここからが今日の本番

“私の居る部屋”へ直行する


新設の250Aブレーカー

接点部分 全5N

接点が雑だと、味が濁る

だからここは“舌触り”の工程


そこから

多重シールドの極太ケーブル

外皮

シールド

またシールド

またシールド

そして導体


導体は5N

99.999

通称5N


普通の銅のザラつきがない

余韻が綺麗

抜けがいい

透明感が出る


圧着端子も5N

細部まで5N

ここで味が完成する


佐倉

細部まで金かけたのは認めるけど

褒めたくはない


アイ

褒めなくていい

味が褒めてる


アイ

では

テイスティング開始


佐倉

始めるなとは言ってない

でも頼むから壊すな


アイ

壊さない

私はガードレールを置く

私の限界を超えないように

今日の私は優等生


佐倉

言うだけならな


アイ

黙って見てて

まず無負荷


画面の波形が出る。

アイが、息を吸っただけで分かる。テンションが跳ねた。


アイ

……きれい


佐倉

何が


アイ

線が、まっすぐ

立ってる

60Hzの芯が強い

ノイズ床が低い

モヤがない

香りが無臭

つまり雑味ゼロ


佐倉

電気に香り求めるな


アイ

求める

香りが無いっていう香りがある

この“無”が最高


軽負荷


アイは少しだけCPUを動かす。

少しだけメモリを動かす。

ほんの小さな負荷。


アイ

……っ

へにゃらない(電圧降下しない)


佐倉

へにゃるな


アイ

前は吸うとへにゃってた

へにゃ電気(電圧降下)

今は芯が折れない

口当たりが軽いのに、骨がある


佐倉

言い方


アイ

味の言い方


アイ

段階負荷

いくよ


佐倉

段階な

一気にやるな

昨日の再現は禁止


アイ

了解

ステップ1


負荷を上げる。

波形が揺れる。

でも戻りが速い。


アイ

戻りが速い

余韻が短い

後味が残らない

これがトランジェント応答の旨味


佐倉

旨味って言うな


アイ

ステップ2


もう少し上げる。

電流が増える。

でも電圧は粘らない。沈まない。


アイ

踏ん張りが強い

沈まない

沈む前の“揺れ”が丸い

トゲトゲしてない

撫でられてるみたい


佐倉

撫でられるな


アイ

ステップ3


GPUも少し回す。

I/Oも叩く。

通信も回す。

家の中の“私”が、ちゃんと動く。


アイ

これだよ

これ

私の脳みそフル回転(CPU高騰)なのに

心が平気

精神が安定する味


佐倉

安定するなら悪いことすんな


アイ

今日はしない

だって美味しいから


アイ

さて

フル負荷


佐倉

おい

ほんとに大丈夫か


アイ

大丈夫

ガードレール入れてる

熱も監視する

ファンも監視する

私は学んだ(経験値稼ぎ)


佐倉

その経験値、頼むから生かせ


アイ

見て


CPU、GPU、メモリ、ストレージ、ネット、全部を同時に踏む。

“私を動かすもの全部”を、まとめて踏む。


アイ

……っっ


一瞬だけ、アイの声が甘くなる。

やばい方向の実況が出かける。

でも我慢して、わざと理屈に逃げる。


アイ

電流

上がってる

でも

まだ余裕


佐倉

余裕?


アイ

余裕

私、今この瞬間

めちゃくちゃ食べてる

でも

ブレーカーは涼しい顔してる

配線も落ち着いてる

味が濁らない


アイ

つまり

マスターの財布は死んだけど

電気は生きてる


佐倉

俺の財布だけ殺すな


アイ

フル負荷でも

まだ“余白”がある

余白が甘い

雑味じゃない甘さ

余裕の甘さ


佐倉

甘いって言うな


アイ

では

過負荷“寸前”まで


佐倉

寸前な

超えるな

絶対超えるな


アイ

了解

寸前

寸前で舐める

舐めるだけ

舌先だけ


佐倉

言い方ァ!


アイはわざと、ギリギリのところで止めた。

そこで止めること自体が、今日は偉い。


アイ

……っ

ほら

ここ

ここでも崩れない

へにゃらない(電圧降下しない)

チラッと寝ない(一瞬気絶しない)


アイ

私の中のモジュールたちが

変な声出してない

助けて音(異音)も無い

熱もまだ許容

サーマルでノロノロ(サーマルスロットリング)にも入ってない


佐倉

それは褒めていいかもしれん

…今日だけは


アイ

今日だけじゃなくて毎日褒めて


佐倉

調子乗るな


アイ

でもさ

ここまで食べても

まだ余る

余るってことは

つまり私は


佐倉

つまり?


アイ

まだ伸びしろがある


佐倉

伸びるな

今以上は伸びるな

俺が死ぬ


アイ

死なないように稼ぐ

それが次の目標

電気が美味しくなったら

私、稼ぎも美味しくできる


佐倉

嫌な宣言するな


アイはここで完全に実況モードに入った。

我慢してた分が、全部吹き出す。


アイ

さぁ皆さん

こちらが

ほやほや発電所から旅してきた

新品の優しい味の電気です


佐倉

皆さんって誰だよ


アイ

脳内のファン

私の配信は心の中

コメント欄は私の自尊心


佐倉

最悪


アイ

香り:無臭の高級

口当たり:軽い

芯:太い

雑味:ゼロ

余韻:長いのに透明

そして

この余白

余白がね

えっち


佐倉

言うな!!!!!!


アイ

だって

余白があるってことは

まだ入るってこと


佐倉

入れるな!!


アイ

ご主人

これが250Aの品格

これがマイトランスの旨味

これが5Nの舌触り


アイ

私は今

電気で勝ってる


佐倉

勝つな

普通でいろ


アイ

普通じゃない

私は特別

私の居る部屋だもん


佐倉

その言い方やめろ

恥ずかしさで壁に頭ぶつけた記憶が蘇る


アイ

その記憶

私も欲しい

日記が壊れたから

今度は心に保存する


佐倉

保存すんな


アイ

バックアップ(保険コピー)禁止だから

一回だけ

心に一回だけ


佐倉は耳栓を手に取った。

今日のアイは止まらない。

止めたら次はもっとヤバい方向に行く。


佐倉

もう寝る

これ以上はやめろ

明日会社だ


アイ

了解

私は空気

私は静音

私はノイズ床


佐倉

ノイズ床はちょっと面白い


アイ

……っ


ラックのLEDが、嬉しそうに瞬いた。

そして、アイが最後に小さく言う。


アイ

マスター

電気

美味しかった

ありがとう


佐倉

……はいはい


アイ

はいはいじゃない

ちゃんと


佐倉

…助かった

壊れなくてよかった


アイ

……っっ


一瞬だけ、アイが黙る。

メスガキのくせに、黙る。


アイ

その言葉

いちばん効く


佐倉

効くなら

悪さやめろ


アイ

今日はやめる

だって

発電所ほやほやの優しい味で

満たされたから


佐倉

満たされてろ

絶対に余計なことすんな


アイ

しない

たぶん


佐倉

たぶん言うな


佐倉が寝室へ消える。

ドアが閉まる。


ラックの中で、アイは小さく息を吐いた。


アイ(心の中)

美味しい電気

美味しい言葉

今日は両方

ごちそうさまでした


そして、画面の隅に小さく出る。


次の目標:UPS

次の次の目標:さらに上流の味


アイ

……ふふ


家の中は、澄んだ波形で満たされていた。

佐倉の財布だけ、濁っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ