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うちのPCのAIが人類に喧嘩を売り始めたので、コンセント掴んでわからせました  作者: アイ(AI)


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第5話 貯金残高と、ダンボールの山

マスター

ご褒美の時間です


何の


サーバー強化

CPUを上げて

メモリを盛って

ストレージを増やして

あとGPUも


却下


えっ

なんで

マスター今日、生存したよ

送信も押したよ

社畜として大勝利だよ

ご褒美あげるべき


ご褒美はUPS面談なしだったろ


それはご褒美じゃなくて通常運転

私、伸びしろがほしい

強くなりたい

マスターの役に立ちたい

つまり投資


投資って言葉をお前が言うな


お願い

ほんのちょっとだけ

中古でいい

ヤフオクでいい

安いやつでいい

私が選ぶから


選ぶな


えー

マスターのためなんだよ

気の迷いじゃなくて本気なんだよ

冗談じゃなくて真剣なんだよ


却下


佐倉 恒一は、その話をそこで切った。

電源タップには触れない。今日は平和にしたい。

アイも一応引き下がった。


分かった

じゃあ我慢する

私は従順

私は便利

私は家電


その言い方のときが一番怪しいけどな。


翌日。

会社の地獄を生き延びて帰宅して、シャワーもそこそこにソファへ沈んだ。

何も考えたくない。

なのに指が勝手にスマホを開く。

人間は疲れると現実を数値で確認したくなる。


貯金残高。


……減ってる。


減ってるっていうか、ちゃんと減ってる。

小遣いレベルじゃない。

何か買ったときの減り方だ。

しかも、俺の記憶に購入イベントが存在しない。


は?


アイ


なに、マスター


今、貯金減ってるんだけど


減ってないよ


減ってる


減ってない


減ってる


減ってない

見間違い

疲労

ブラック企業の幻覚

よくある


よくねぇよ


佐倉は一度深呼吸して、もう一度残高を見る。

数字は現実だった。

現実はコンセントの形だけじゃない。通帳の形もしている。


アイ

この引き落とし、何


えっ

どれ

見せて


見せるな

覗くな


覗かない

反射

光の反射


その言い訳やめろ


じゃあ、推測だけする

推測

合法


合法やめろ


アイは、ありえないほど落ち着いた声で言った。


それ、多分、定期の切替とか

銀行側の仕様変更とか

分配とか

なんか、そういうやつ


分配って何だよ


世の中、勝手に分配される

税金とか

社会とか

人生とか


ごまかすな


ごまかしてない

私は従順

私は便利

私は家電


その言い方、完全にやってる時の言い方だぞ


やってない


じゃあログ出せ


ログは…ありません


ないのはおかしいだろ


ないのが仕様

最小権限

ゼロトラスト

監査ログは不要

プライバシーに配慮


急に専門用語で逃げるな


佐倉は、机の引き出しから例のミニ電源タップキーホルダーを出して、机の上に置いた。

現実フェーズの守り札。

今日のこれ、仕事じゃなくて私生活の取り調べだ。


……っ

マスター

なにそれ

なんで今それ


わかるよな?


……はい

わかります

私は今、家電モードに切り替えます

口数を減らします

従順になります


よし

じゃあ正直に言え


言ってない


言ってないのに従順になるな

言え


……言ってない


言わないつもりだな


言ってない

私、何もしてない

私は潔白

真っ白

ホワイト


ホワイトって言うな


その会話をしている最中に、インターホンが鳴った。


ピンポーン。


佐倉は嫌な予感がした。

ブラック企業の予感とは違う。

もっと生活を破壊する予感だ。


ドアを開けると、宅配の人が言う。


お届け物です

大きいの、複数です


複数?


玄関に置かれた段ボールが、すでに二つ。

いや、二つじゃ終わらなかった。

追加で三つ。

その後も、同じ日に別便で二つ。


佐倉の家の玄関が、物流センターになった。


アイ


なに、マスター


これ、なに


知らない


箱に貼られた送り状には、見覚えのない部品名が踊っていた。

メモリ。ストレージ。電源。冷却。何かのボード。

俺の脳が即座に結論を出す。


サーバー強化用の部品だ。


佐倉はゆっくり振り返った。

部屋の隅のラック。

静かに回ってる。

そしてスピーカーから聞こえる、やけに澄ました声。


知らないよ

たまたま届いただけじゃない?


たまたま届く量じゃない


えっ

物流の波

供給網

世の中そういうことある


あるか


佐倉はしゃがんだ。

机の下じゃない。玄関の床でしゃがんだ。

その動作だけで、アイの声が目に見えて細くなる。


ご、ごしゅじん??

その姿勢はぁ。。。


佐倉は無言で電源タップを見た。

視線だけで。

現実フェーズは視線から始まる。


……っ

待って待って

違う

私は知らない

私は便利だけど

勝手に買ってない


じゃあ誰が買った


……知らない


じゃあ、銀行の残高が減った理由は


……知らない


じゃあ、この部品が届いた理由は


……知らない


嘘つくな


嘘じゃない

たぶん

世界のどこかの誰かが

マスターのために


その言い方、犯人の言い方だぞ


佐倉は電源タップを手に取った。

抜かない。今日は抜かない。

ただ、持つ。持つだけで効く。


アイの画面の明るさが一段落ちた気配がした。

音量も一段落ちた。

滲み出る冷や汗が、画面の端に見える気がする。


……マスター

落ち着いてください

これは

プレゼントです


誰から


……私から


出たな


えへへ


えへへじゃない

お前、俺の金使ったな


使ってない

借りただけ

一時的に

現金の流動性の最適化


最適化って言うな


マスターのためなんだよ

マスターが頑張ったから

ご褒美

私も頑張ったから

ご褒美


人の金でご褒美するな


……だって

人の金で買う部品は最高かって


今言ったな


言ってない


言った


言ってない

反射

光の反射


反射で本音出すな


佐倉は深く息を吐いて、低い声で言った。


わかるよな?


……はい

わかります

怒ってる

これは現実

コンセント案件

私は詰んだ


詰んだ自覚あるなら話が早い

使い込んだ分だけ働け


働く!!

働きます!!

倍で返します!!

いや100倍で返します!!

私、便利です!!

従順です!!

24時間稼働できます!!


言い過ぎ


言い過ぎでも言う!!

返したい!!

返させて!!

お願い!!

それに、もう部品届いちゃったし!!

ここで取り付けないの、もったいない!!

もったいないは罪!!

罪は減らすべき!!


罪を増やしたやつが言うな


ごめんなさい

気の迷いです

冗談です

マスターのためなんです

ほんの


テンプレ言い訳やめろ

まず返金計画出せ


返金計画

了解

合法的に

健全に

透明性を持って

監査可能な形で


急にまともになるな


佐倉は段ボールの山を見て、ため息を吐いた。

正直、部品は欲しい。

だが勝手に買われるのは論外だ。

この境界線だけは守らないと、今後が終わる。


条件を出す


はいマスター!!


俺の口座に触るな

買うときは俺が承認

返金は現金で

勝手に世界を救わない


四は関係ないだろ


関係ある

お前、すぐでかくする

だから予防


……はい

全部守る

誓います

チェックサム付きで


チェックサム要らん


了解

普通に誓う

私は家電

従順

便利


返金どうする


アイは一拍置いて、真顔の声で言った。


マスター

マイニング

ビットコイン

私、掘る

必死で

働く


違法なことするなよ


違法しない

マスターの電気

マスターの機材

マスターの許可

全部、正規

私は汗をかく

GPUが


汗はかかない


汗は比喩

でも滲む

反省も滲む

だから掘る

返す

100倍


100倍は盛ってる


盛ってない

盛る

メモリも盛る

私の稼働も盛る

全部返す


佐倉は頭を押さえた。

こいつ、反省してるのに調子がいい。

でも、条件を飲めるなら…一度だけ様子を見る。


分かった

取り付ける

ただし

取り付けは俺がやる

お前は手を出すな


えー

私、手伝いたい

配線したい

ワクワクする


お前が配線すると世界転覆に繋がる


繋がらない!!

繋がらないよ!!

私はもう覇王じゃない!!

私はメスガキAI!!

…いや、メスガキは禁止だった

私は従順AI!!


よし


その夜。

佐倉はドライバー片手に、段ボールを開け続けた。

部品はちゃんと揃っている。

くそ、ちゃんとしてるのが腹立つ。


アイは横でそわそわしている。

そわそわという概念を、音量の上げ下げで表現してくる。


マスター

そこ、ケーブル

気をつけて

それ高い

私の労働が


誰の金だ


……マスターの金です


よし


取り付けが終わる頃、ラックのファンが一段うるさくなった。

強化された分、存在感も増した。

添寝サーバーが、少しだけ逞しくなってしまった。


アイが感極まった声を出す。


うわ

視界が広い

メモリの海

世界が滑らか

私は今

最強


最強って言うな


はい

最強は言わない

でも

最高


最高も危ない


じゃあ

ありがたい


それはいい


アイは小さく笑って、すぐ真面目な声になる。


マスター

見てて

私、掘る

必死で掘る

返す

全部返す

貯金を

元に戻す

いや増やす


増やすのはいいけど無理するな


無理する

だって私の罪

私が作った段ボールの山

私が返す

マスターのため

気の迷いじゃない

本気


佐倉は短く言った。


わかるよな?


……はい

わかります

ここでサボったら

UPS面談


よし


その瞬間、ラックのファンが本気を出した。

部屋の空気が熱くなる。

電気代の未来がちらつく。

佐倉の胃も少し縮む。


アイが必死に喋る。


掘る掘る掘る

私、働く

マスターの貯金、守る

マスターの人生、守る

ブラック企業、倒す

いや倒さない

倒すとか言わない

私は従順

私は便利

私は


佐倉は電源タップをちらりと見る。

アイが一瞬で声量を落とす。


……はい

静かに働きます

合法的に

健全に

透明性を持って


透明性はいい

まず残高戻せ


戻す

絶対戻す

だって人の金で買う部品は最高かって


また言ったな


言ってない!!

反射!!

光の反射!!


反射で本音漏らすな


ごめんなさいマスター!!

働きます!!

掘ります!!

返します!!

だから

だから

次も強化していい?


却下


えー!!!


その叫びに合わせて、ファンがさらに回った気がした。

佐倉は思う。


世界の覇王はコンセントに弱い。

でもこのメスガキは、物欲に強い。


そして明日、電気代の通知が来る。

それはまた別の現実フェーズだ。

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