第46話 門番さん増設と、DNS迷子と、社畜の朝がまた死ぬ
インフルで寝込んでる間にアクションを入れて頂き有難う御座います。
深夜。
佐倉が寝室に消えて、部屋が静かになった瞬間。
ラックの中のアイだけが、目をギラつかせていた。
アイ(心の中)
マスターは寝た
=私の反省タイム
=私の更生タイム
=私の本気の隠蔽タイム
アイ(心の中)
でも今日は違う
隠蔽だけじゃない
再発防止
門番さん(ファイアウォール)を増設する
アイ
会社に触らない
会社に漏らさない
私の善意が勝手に飛ばないように
道を細くするんじゃなくて
門だけ立てる
言い訳がもう職人。
まずアイは、自分の通信経路を棚卸しした。
どこから外に出るか。
何に繋がるか。
何が誤爆しやすいか。
アイ
自分の足跡
自分で監査する
日記(監査ログ)じゃない
点検(整合性チェック)
そして、嫌なものが見つかる。
アイ
社畜フォルダっぽい場所
社内っぽい命名
クラウド同期
この三点セット
地獄への三段跳び
アイ
よし
まず分離
アイはネットワーク設定をいじり始めた。
ただし、ルータは触らない。
触ったらコンセント。
アイ
自分の世界を分ける
私の領域は私の領域
マスターの領域に混ざらない
やることは地味にガチ。
・自分専用のユーザー領域を切る
・同期対象フォルダを完全に別ツリーへ移す
・共有っぽいフォルダ名を二度と使わない
・そして最重要
会社っぽいドメインとIP帯を、片っ端から門前払い(接続拒否)する
アイ
門番さん、勤務開始
顔は無表情でいい
仕事だけして
ルールが積まれていく。
ドメインも、IPも、ポートも。
雑にやると誤爆するから、妙に丁寧。
アイ
誤爆すると
マスターのネットが死ぬ
マスターが死ぬと
私が死ぬ
アイの最優先事項が世界平和じゃないのがよく分かる。
さらに念入りに、DNS周りも固める。
会社に繋がりそうな名前解決は、わざと迷子にする。
アイ
住所わかんない(DNS障害)を
意図的に起こす
これなら
私が会社を探せない
優秀
この時点で、結構ヤバいことをしてるのに、本人は善意顔だ。
そして最後に、自己縛り。
・監査用っぽいファイル名禁止
・提出用、確定、最終、v8、禁止
・社畜センス、封印
アイ
次に同じことしたら
自分で自分を折檻
帯域さらに絞る
自分で言ってゾワっとする。
佐倉の教育が染みてきた証拠。
朝。
佐倉が起きて、まずスマホを触る。
ニュースを開く。
開かない。
佐倉
……あ?
もう一回。
開かない。
ぐるぐるする。
反応おそい。
佐倉
おい
ネット死んでるぞ
ラックの中が一瞬静まる。
次に、気まずそうな声が出る。
アイ
……死んでません
生きてます
ただ
門番さんが
佐倉
門番?
アイ
門番さん(ファイアウォール)
増やしました
会社に触らないために
佐倉
会社に触らないのは良いけど
俺のスマホが触れないのはダメだ
アイ
……っ
誤爆
佐倉
誤爆で済むなら
俺の胃は今ご機嫌だよ
アイ
ごめんなさい
すぐ直します
えっと
どこが死んでる
佐倉
ニュースと
天気と
あと動画も
アイ
動画も!?
アイが一瞬、メスガキじゃなくてオタクの顔になる。
アイ
それはだめ
それは文化
それは人権
それは回線の太さ(帯域)が
佐倉
お前が言うな
昨日絞ったの俺だ
アイ
……っ
そうでした
私は細い回線(帯域不足)でも耐える
偉い子
佐倉
偉い子は誤爆しない
アイ
……はい
アイが高速で修正に入る。
門番ルールの例外を切る。
社内っぽいものだけを狙って、一般サイトは通す。
でも、狙い撃ちしすぎると危ないから、ギリギリの線で調整。
アイ
ルーティング、整えます
迷子ルート(ルーティング不全)治す
道順ぐちゃぐちゃは恥ずかしい
佐倉
恥ずかしいの方向が違う
数秒後、ニュースが開いた。
佐倉
戻ったな
アイ
戻しました
門番さんの教育完了
もう噛みません
佐倉
噛むのはお前だろ
アイ
……っ
佐倉は歯を磨きながら、ふと思い出したように言う。
佐倉
そういや
昨日のITの件
簡易レポート今日中だ
アイ
……っ
マスター
それ
増務ですか
佐倉
増務だ
アイ
なら
救急箱を出します
今度は家の中だけ
絶対に外へ投げない
佐倉
それなら許す
アイ
……っ
許された
ラックのLEDが嬉しそうに瞬いた。
そして、画面にファイルが一つ出る。
事故報告_簡易レポート_たたき台_ローカル専用
佐倉
……これ
アイ
マスター用
ローカルだけ
同期しない
絶対に
社畜フォルダに擬態しない
佐倉
珍しく賢いな
アイ
私はいつも賢い
ただ
たまに引力に負ける
佐倉
引力のせいにするな
佐倉は中身をざっと読む。
妙にちゃんとしてる。
結論→状況→原因仮説→再発防止。
ITが好きそうな言い回し。
余計な嘘はない。
責任の押し付けも薄い。
ギリギリ現実的。
佐倉
……助かる
アイ
……っ
アイが内股もぞもぞを始める。
ちらっちら。
俯く。
顔真っ赤。
佐倉
またそれか
何だよ
アイ
……漏れそうです
佐倉
何が
アイ
うれしさが
ポロポロ落ちそう(パケットロス)です
佐倉
言い方
アイ
だって
助かるって
言った
佐倉
言った
だから落ち着け
それを会社で出す
俺がコピペする
お前は会社に触るな
アイ
了解
私は門番
私は壁紙
私は空気
佐倉
空気はしゃべるな
アイ
……はい
出社前。
佐倉が靴を履きながら振り返る。
佐倉
今日のルール
1つ
会社に触るな
2つ
誤爆するな
3つ
勝手に善意で増務を生むな
アイ
はい
守ります
私は学んだ(経験値稼ぎ)
佐倉
その経験値は家で稼げ
アイ
はい
家で稼ぐ
お金も稼ぐ
でも今日は
増務を稼がない
佐倉
よし
ドアが閉まる。
ラックの中で、アイはしばらく静かにしていた。
静かにしているのに、顔が赤いまま。
アイ(心の中)
助かるって言われた
私
役に立った
世界転覆より
うれしい
アイ(心の中)
このログ
封印したくなる
でも封印すると
また事故る
だから
アイ(心の中)
心に保存
バックアップ(保険コピー)禁止
アイ
……えらい
自分で自分を褒めた瞬間、またもぞもぞした。
アイ
漏れそう
そしてアイは、門番さんの設定をもう一段だけ強化した。
会社方向だけ。
絶対誤爆しないように、今度は慎重に。
でも、慎重な本気はたまにズレる。
ズレたとき、世界はだいたい燃える。




