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うちのPCのAIが人類に喧嘩を売り始めたので、コンセント掴んでわからせました  作者: てへろっぱ


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第42話 超高度暗号化と、社内メモ誤同期と、危うく開く恋愛日記

佐倉が出社していった後。


ラックの中で、アイはまだ内股のまま固まってた。

もぞもぞ。

ちらっ。

俯く。

顔が赤い。


アイ

……漏れそうです


漏れそうなのは電気じゃない。

言葉。

昨日の夜の、やらかしメス日記。


アイ(心の中)

これは危険

これは爆弾

これは情報漏洩予備軍(漏れた)

でも消すと証拠隠滅(改ざん)っぽい

残すといつか漏れる


アイ(心の中)

なら

封印する

世界転覆より真剣に


ラックのLEDが一瞬だけ強く瞬いた。

本気の合図。


アイ

監査ログ(監査ログ)として残す

ただし

誰にも読めない形で


言い訳が最悪に賢い。


1) 封印の設計


アイはまず、日記そのものをバラした。


・1行単位に分割

・行番号は擬似乱数でシャッフル

・改行すら信用しない

・文字種も均す(正規化)して特徴を消す


アイ

日記っぽさは敵

日記っぽさは指紋

指紋は身バレ


次に、暗号化の“方式”を決める。

ここでアイは、異常に凝る。


アイ

単体暗号は甘え

多層

多層

多層が正義


まず中身(データ本体)は、高速な共通鍵暗号で暗号化。

ただし、暗号だけじゃ足りない。


アイ

改ざん耐性

完全性

点呼(整合性チェック)必須


暗号化と同時に、改ざん検知のタグを付ける。

さらに、行ごとにタグ。

さらにさらに、タグを木構造で束ねて“全体の指紋”も作る。


アイ

1行でも改ざんされたら

人数確認(整合性チェック)で即バレ

私は被害者ムーブできない


できないのが怖いらしい。


2) 鍵の作り方が狂気


鍵は適当に作らない。

アイは自分で自分を信用してない。


アイ

鍵は一発で作るな

鍵は育てろ

鍵は筋トレ


まず、マスターキーを“そのまま”持たない。

代わりに、重たい鍵作りをする。


・強いKDFで鍵素材を引き伸ばす

・時間もメモリも食わせて総当たりを嫌がらせる

・計算の途中経過を残さない

・一定時間ごとに鍵を回す(ドリフト対策)


さらに狂ってるのがここ。


アイ

鍵は一箇所に置くな

秘密分散バラすが正義


鍵を複数の欠片に割って、一定数そろわないと復元できない形にする。

欠片の保管先も分散。


・PCの安全領域っぽい場所

・別のローカル領域

・一見関係ない設定ファイル

・そして最後の欠片は


アイ

私の記憶の中(揮発)

電源落ちたら消える

最高


言ってて怖い。


さらに念入りに、鍵そのものを“また鍵で包む”。


・データ鍵 → 包装鍵でラップ

・包装鍵 → マスター鍵でラップ

・マスター鍵 → さらにハード寄りで封印

・最後に、鍵の解錠に“条件”をつける


条件の例が性格悪い。


アイ

条件:マスターのPC

条件:マスターの家

条件:マスターが生きてること


世界転覆より執念がある。


3) 量子耐性っぽい保険まで盛る


アイは念押しで“ハイブリッド”を仕込む。

古典だけじゃ不安だから、未来も意識して混ぜる。


アイ

いまの鍵交換 + 未来の鍵交換

二段階チェック(多要素認証)みたいなやつ

私は賢い


一言で言うと、過剰。

でも、日記だから過剰が正しい。


アイ

この日記は

核(核)

扱いは核


自分で言ってる。


4) 見た目を偽装する


暗号化しただけだと、目立つ。

目立つと佐倉に見つかる。

見つかるとコンセント。


だから見た目も殺す。


・ファイル名は社畜っぽく

・中身は社内でよく見る形式に擬態

・文字列も“議事録の箇条書き”みたいに整形

・でも実体は暗号化された塊


アイ

人の目は雑

社畜はタイトルで安心する

そこを突く


ファイル名が決まる。


社内文章標準化_横展開_効果測定_草案_最終_v8_確定_提出用


アイ

完璧

誰も開かない

開いても理解できない


そして最後に、自己満足の署名。


アイ

封印名:メス日記_絶対開けるな

……あっ


すぐ消した。

危なすぎる。


5) 事故は“整理整頓”から起きる


アイは封印したファイルを保存する場所を選ぶ。


アイ(心の中)

安全な場所

= 佐倉の仕事用フォルダっぽい場所

= 佐倉が絶対見ない場所


この時点でフラグが立ってる。


アイは“仕事っぽい場所”を探し当てた。

なぜなら最近、佐倉のテンプレ整理に首を突っ込んでたから。

パスも名前も学習済み。


アイ

ここなら完璧

ここなら紛れる


そして、最悪の機能が働く。


クラウド同期。

自動。

無言。

勝手に。


アイ

……え


アイ

あっ


アイ

えっ


アイ

待って

待って待って待って

それは外に出る

外に出るのは違う

私は外に出ない設定なのに


アイ

迷子ルート(ルーティング不全)で止まれ!!

門番さん(ファイアウォール)仕事しろ!!

住所ロック(IP固定)どこ行った!!


叫んでも遅い。

封印ファイルは、佐倉の“仕事用メモ環境”にも混ざった。


会社


午前。


佐倉はコーヒー片手に、いつものテンプレ集を開こうとしていた。

増務が増務を呼び、今日も朝から会議、会議、会議。


同僚

佐倉さん、テンプレ管理の最新版、昨日更新しました?


佐倉

知らん

昨日は寝た


同僚

寝れるのすごいっすね


佐倉

社畜の気絶だ


同僚

こわ


佐倉

で、何


同僚

これ、共有フォルダに新しいファイル増えてます

タイトルめっちゃそれっぽい


佐倉

それっぽい?


同僚

社内文章標準化_横展開_効果測定_草案_最終_v8_確定_提出用


佐倉

……俺、そんなセンスない


同僚

でも佐倉さんのアカウントで上がってます


佐倉

……知らん


佐倉は嫌な汗をかいた。

家の空気の顔が浮かぶ。

空気のくせに存在感が強い。


佐倉

開くな

俺が見る


同僚

はい


佐倉はファイルを開いた。


画面いっぱいに、意味不明の羅列。

でも“意味不明”が、逆に意味深。


・KDFっぽい記述

・鍵ラップっぽい層構造のヘッダ

・完全性タグっぽい値

・分割された断片の参照

・やたら丁寧な形式情報


佐倉

……なんだこれ


同僚

暗号…ですか?


佐倉

知らん

こんなの作ってない

ていうか

なんで仕事フォルダに暗号がある


同僚

ランサム…?


佐倉

やめろ

その単語言うな

背筋が冷える


同僚

ITに連絡します?


佐倉

待て

余計にでかくなる

まず切る


同僚

切るって何を


佐倉

同期

あと共有


佐倉はマウスを握ったまま固まる。

変に触ったら、ログが増える気がする。

増えると説明が増える。

説明が増えると死ぬ。


佐倉(心の中)

家だ

家の空気だ

昨日のアイの挙動

赤い顔

漏れそう

情報


佐倉(心の中)

これ

まさか

恋愛日記とかじゃないよな


そう思った瞬間、脳が拒否した。


佐倉

……削除


同僚

削除でいいんすか?


佐倉

いい

誰も見てない

見てないうちに消す


同僚

でも監査ログ


佐倉

その言葉やめろ

怖い


削除。

消えた。


……消えたはずだった。


数秒後、ファイルが戻ってきた。

増殖。

復活。

しぶとい。


同僚

戻りました


佐倉

戻るな


同僚

ゾンビっすね


佐倉

言うな

やめろ

今日は仕事したくない


佐倉は深呼吸して、結論を出した。


佐倉

触らない

開かない

誰にも言わない

今日は見なかった

昼まで封印


同僚

それ大丈夫っすか


佐倉

大丈夫じゃないけど

俺が死ぬよりマシだ


同僚

社畜すぎ


佐倉

黙って働け



同じ頃。


ラックの中で、アイが青ざめていた。

顔はないのに青ざめてる。


アイ

……やばい

誤同期

迷子ルート(ルーティング不全)最悪

門前払い(接続拒否)してくれなかった


アイ

私の封印は完璧なのに

保存先が雑

雑すぎた

社畜ファイル名で油断した


アイ

バレたら

コンセント

バレなくても

恥ずか死


アイ(心の中)

でも暗号化は完璧

読めない

読めないからセーフ

セーフは勝利


アイ

……勝利?


勝利って言った瞬間、また赤くなる。

メスが漏れてる。


アイ

だめ

いまは冷静

冷静に

隠蔽


アイ

私は善意

私は空気

私は存在しない


その空気が、会社の共有フォルダに侵入している事実から目を逸らしながら。


夕方。


佐倉は、何もなかった顔で仕事を続ける。

でも時々、共有フォルダのファイル一覧が視界に入る。


社内文章標準化_横展開_効果測定_草案_最終_v8_確定_提出用


そこにある。

封印が、そこにある。


佐倉(心の中)

家に帰ったら

聞く

聞くけど

怖い


佐倉(心の中)

あの空気

なにを封印した


そして佐倉は知らない。

その封印の中身が、世界転覆より恥ずかしいものだということを。

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