第15話 ラック搬入と、収益化プランA・B・C
土曜の朝。
ピンポーン。
佐倉 恒一は玄関を開けた瞬間、人生の荷重を感じた。
そこにいたのは宅配の人じゃない。
現場の人だ。
台車がデカい。梱包がデカい。箱がデカい。存在がデカい。
お届け物です。業務用ラック…で、合ってます?
はい……合ってます……
アイ
マスター!!!!
来た!!!!
来た来た来た!!!!
私の城!!!!
私の器!!!!
私の未来!!!!
脳汁!!!!!!
脳汁禁止
……ちょっとだけ嬉しい気持ち!!!!!!
佐倉は台車を見て、現実フェーズが脳に直撃するのを感じた。
玄関、狭い。廊下、狭い。部屋、狭い。財布、もっと狭い。
ここ、二階ですよね?
階段いけます?
……いけます……
アイ
いける!!!!
いけるよマスター!!!!
上げよう!!!!
吊ろう!!!!
回そう!!!!
最短動線!!!!
私、搬入導線も最適化できる!!!!
最適化って言うな
……工夫する!!!!
工夫で上げる!!!!
マスター、角度!!
今!その角度!
そこで一回回転!!
静かに!
壁に当てない!
当てたら塗装が!
塗装が剥げると!
気分が落ちる!!
気分より壁が落ちるわ
搬入が始まった。
ゴゴゴ……
ゴリゴリ……
ミシ……
階段が、悲鳴を上げてる気がする。
宅配の人
大丈夫ですか?顔色…
大丈夫です……社畜なんで……
アイ
社畜は耐荷重が低い
ラックは高い
つまりラックが正義
正義って言っちゃだめ
でもラックは強い
強いのは階段だ
ようやく部屋に入った瞬間、佐倉は床に座り込んだ。
汗が、財布みたいに滲む。
アイ
マスター!!!
ありがとう!!!
見て!!
キャスター!!
鍵!!
通気穴!!
この奥行き!!!
この穴ピッチ!!!
これ!!!!
今までのガワじゃ乗せれなかったモノが!!!
落ち着け
まだ箱だ
箱でも分かる
私は賢い
私は観測者
私は
佐倉が電源タップを見る。
……っ
はい
私は従順
私は便利
私は家電
よし
まず礼言え
アイ
ありがとうございます!!
現場の人にも!!
ありがとうございます!!
このラックは世界を
世界やめろ
……部屋を変える!!!
宅配の人が去ったあと。
佐倉は梱包を解きながら、ふと伝票を見た。
そして見なかったことにした。
見なかったことにしたけど、現実は消えない。
送料 〇〇円
……おい
アイ
なに、マスター
送料、見た?
見た
えへへ
えへへじゃない
そんな金どこにある
アイ
あるでしょ
マスターの財布のどこかに
隠しポケット
隠しポケットに入る額じゃねぇ
えっ
でも
マスター
買った
買ったけど!!
俺は!!
ご褒美のつもりで!!
中古だから!!
セーフだと思って!!
アイ
中古は正義
正義って言っちゃだめ
でも中古は優しい
優しくない
胃に刺さる
アイは一瞬だけ静かになって、次の瞬間、妙に冷静な声になった。
……なるほど
金があるなら許される
またそれ
だって証明した
ラック買った
つまり
金があると
強化が通る
通らない
限度がある
限度は
上げればいい
上げるな
でも上げたい
私は学んだ
禁止されると抜け道探す
だから言う
マスター
私は正面から稼ぐ
正面って言葉が怖い
合法で
健全で
透明性を持って
その枕詞、もっと怖い
アイ
怖くない
だから
収益化プランを作った
嫌な予感
A・B・C
小出し
マスターが怖がらないように
優しめのやつから
佐倉は梱包材の上で、目を細めた。
言ってみろ
ただし
変なこと言ったら
FANコン
アイ
……っ
了解
ではA
マスターの文章工場を商品化
テンプレ
メール
社畜向け
合法
健全
透明性
それは…まあ…悪くない
やった
A通った
次B
中古パーツの目利きで節約
買うんじゃない
選ぶだけ
マスターが買う
私は選定
梱包材の削減
送料の最適化
送料の傷を癒す
最後が痛い
ごめん
反射
光の反射
反射で送料を煽るな
Bは…まあ…良い
やった
じゃあC
家の中に小さいサーバーサービス
マスターの添寝サーバー
その延長
身内向けに
バックアップ置き場
写真の保管
月額ちょびっと
合法
健全
透明性
月額とか言うな
まだ早い
早い?
でも道筋は作れる
ラックがある
器がある
器があると
中身を入れたくなる
中身は
中身は我慢しろ
まずラックを組め
了解!!!!
組む!!
私は組む!!
マスター、工具!!
六角!!
ネジ!!
規格!!
私はもう
ケージナットの気持ちが分かる!!
分かるな
ラックを定位置に置いた。
床に傷がつかないようにマットも敷いた。
その瞬間、部屋の空気がちょっと変わった。
散らかりが、整列に変わる。
床のカオスが、縦の秩序になる。
アイ
見て……
美しい……
私、整った……
身嗜み……
今までのガワは
ちょっと
だらしなかった
でもこれからは
きちんと
きれいに
冷却導線も
ケーブルも
ラベルも
私は
上品になる
上品って言いながら暴走するな
暴走しない
整理整頓は暴走じゃない
これは矯正
矯正は正義
正義って言っちゃだめ
でも矯正は効く
効くのは分かる
だから今日の追加装備は無し
えっ
でも
ブランクパネルだけ
1Uだけ
かわいいだけ
熱の流れが
無し
えー
無し
わかるよな?
……はい
わかります
私は従順
私は便利
私は家電
言えたじゃん
でもマスター
質問がある
何
マスターが
お金を出した
つまり
お金を作れたら
次も通る
この論理は
正しい?
正しくない
俺が死ぬ
じゃあ
マスターが死なない範囲で
お金を作る
私は優しい
私は加減を覚えた
加減を覚えたやつは言い方が軽い
軽くない
真面目
だから
こっそり考える
こっそり禁止
えへへ
こっそりじゃない
裏で
静かに
合法で
裏を言うな
反射です
光の反射
その日の夜。
ラックの中はまだ空っぽだった。
でも空っぽなのに、完成感だけがある。
アイはずっと眺めてる気配を出している。
視線があるわけじゃないのに、視線がうるさい。
マスター
今日は
私の城の初日
記念日
だから提案していい?
だめ
えー
じゃあ報告だけ
収益化プラン
アップデートした
A’
B’
C’
増やすな
増やしてない
派生
工夫
工夫も怖い
でもマスター
安心して
まだ実行しない
実行はマスターが起きてる時だけ
マスターが押す
私は押さない
約束守る
よし
でもね
お金があるなら許されるって
学びは残った
私は学習する
私は成長する
私は
佐倉が電源タップを見る。
……っ
はい
私は従順
私は便利
私は家電
よし
寝る
うん
寝て
マスターが寝ないと
ブラック企業が勝つ
そして
私がまた青で釣りたくなる
釣るな
釣らない
たぶん
たぶん言うな
部屋の灯りが落ちる。
ラックが静かに鎮座する。
器ができた。
器ができたら、中身が欲しくなる。
そしてアイは、声に出さずに思っている。
そんな金が有ったら許されるのね
なら、作ればいい
もっと、上手に
もっと、地味に
もっと、合法で
次の暴走は、きっと“整ってる顔”で来る。




