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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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怪盗の手伝い

「怪盗の手伝い!?」


 思わぬ申し出に、俺は思わず大声を出す。


「うん。怪盗ドレッドノートが残した〝至高の宝〟を見つけ出すのを手伝って欲しいの」


「〝至高の宝〟、そんなもの、本当にあるのかどうかもわからないのに?」


「それでもわたしは、あるって信じているの」


 そう断言したレイナの瞳は、決意と孤独を宿した色をしていた。仕事柄あの瞳の色には見覚えがあった。絶望的な状況で、ワラにもすがりたい気持ちであがいている人の目だ。


 なぜ姫である彼女がこんな寂しい瞳をしているのだろう? そんな考えが脳裏をよぎる。


「危険だ。そんなことはやめるんだ!」


「やめない。やめられないの。一人でも、続ける」


「さっきだって、死んでいたかもしれないんだぞ?」


「だったら、手伝って!」


 俺の手を両手で包むように握りながら、真摯な瞳でレイナは懇願してきた。とても荒事には向きそうもない、細くて美しい手だった。


「わたしを、守って。一生のお願い。わたしにできることなら、何でもするから」


 美しい年頃の娘の、それも姫が発したとは思えないほど軽率な発言に、俺は心臓が飛び出すような激しい動悸を感じた。真摯に願う姿は困り果ててなお希望にすがる哀れな少女のもので、どんな不条理な要求さえのんでしまうような危うさがあった。


「レイナ、軽率なことは言うな。口約束で効力を発揮し、相手を隷属化する魔法具だってある」


 俺は危険なアイテムを扱う商人として、反射的にそう諭していた。


「うん、そう、そうだね……」 


 俺の言葉に何か思うところでもあるのか、少し目をそらし、レイナは神妙にうなずく。


「でもわたしは本気、信じて」


 レイナは再び俺を見つめなおす。その真摯な瞳は微塵の嘘も感じられないものだった。


「お、俺は商人だ。怪盗の手伝いなんて、したことない」


「ノートン君ほど魔法具の使い方が上手な人は、いないと思うよ?」


 それは否定しない。職業柄、アイテムの使い方には誰にも負けない自信があった。


「手に入れた至高の秘宝、もし分けられるものなら、半分あげる。何度でも使えるものなら、わたしが一度使ったら、あげるから」


「しかし……」


 俺は言葉に詰まる。呪われたアイテムを扱うというダーティな仕事ではあるとはいえ、商人としてはまっとうに働いてきたつもりだ。〝至高の宝〟がどんなものか、想像すらしたことがない。あるのかどうかすらわからないもののために、危険を冒すことはできない。


「そもそも何のために〝至高の宝〟を手に入れる必要があるんだ? レイナはローラントの姫君にして、天位魔法の使い手のはずだ」 


 そうだ。なぜそんなに怪盗ドレッドノートの秘宝にこだわるのか。


「わたしのため、同時に、この国のため」


 レイナははっきりと、そう言い切った。


「ノートン君も知っているでしょう? 魔獣が強くなっていることを」


 王城広場で言っていたことか。確かに最近、魔獣が活性化していると内大臣も認めていた。


「だがあれは、王家の天位魔法で消去できるはずだ」


 そしてその使い手がレイナのはずだ。


「ううん、ノートン君、少なくとも今の王家に、天位魔法はないの」


「なんだって!?」


 悲痛さの中に、わずかに自虐の響きがこもったレイナの言葉に、俺は驚愕する。


「それは、本当なのか?」


「うん、本当だよ」


 天位魔法がない、つまり広場での発表は偽り。民を安心させるためのハッタリにすぎず、王国は魔獣に対して打つ手がないということか。


「それで天位魔法の代わりに、ドレッドノートの〝至高の宝〟を、使おうということか」


「うん、そういうこと」


 と、レイナは小さくうなずく。


 確かにドレッドノートが残したとされる〝至高の宝〟は、天にとどきうる神秘だと言われている。とはいえ、存在の有無さえ定かでない宝に頼るしかない状況なのか。


 そこまで事態は深刻だとは、知らなかった。民をだまし続けられる時間は限られているはずだ。それまでに宝を見つけ出し、魔獣に対処する必要がある。


「ちょっと待て、だとすると変だ。なぜ姫であるレイナだけで探しているんだ?」


 王国の問題でもあるなら、政府が総力を挙げて探し出せばいい。秘密裏で王族が、それも王太子であるレイナが直々に探すなど、どう考えても変だ。


 俺はレイナの瞳を直視する。彼女は無言だったが、その瞳は言いようのない寂しさと悲しさを秘めたものだった。


「──そういうことか」


 俺は直感的に察した。今のエレナミア女王は病床に伏せっていて、政務はレオニード内大臣が仕切っているという噂を聞いたことはあったが、事実だったか。


「うん、内大臣には絶対に秘密なの」


 ようやく彼女の悲しげな瞳の理由が理解できた。あの巨大な王城にあって、レイナは孤独で一人なのか。俺の直感通り、内大臣はやはりいけ好かない奴のようだった。


「それでも、どうして俺なんだ?」


 レイネシアは人気のある姫だ。探せばもっと適切な協力者が見つかるはずだ。俺みたいな獣人の呪いに汚れた商人よりも、ずっと優れた騎士になってくれる人がいるはずだ。


「ううん、ノートン君がいいの。これを見て」


 レイナは、自身の首元を俺に見せる。宝石がかたどられたチョーカーがはめられている。よく見るとローラントのものとは違う、南方風のデザインの魔法具のようだった。


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