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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫

 数日後の夕暮れ、俺は一人で王都の路地を歩いていた。


「レイネシア姫に乾杯」


「レオニード様の病状が回復しますように、乾杯」


 日中からテラスで酒を飲んでいる男たちの乾杯の声が響く。顕現した神獣フェンリルをレイネシア姫が天位魔法で消滅させたが、その儀式の最中にレオニード内大臣は重症を負った。大聖堂が全壊したこともあり、結婚式と姫の婚約は白紙撤回された。事態を収拾するため病床に伏していたエレナミア女王が内大臣に代わって数年ぶりに親政を再開したというのが、政府が発表した情報だった。


 俺としてはレイナのことだけが気になっていた。あの年で婚約撤回はさすがに可哀そうだったからだ。もっとも当のレイナ自身は


「まあウェディングドレスを着られてラッキーだったと思うことにする、きっとまた着られるしね」と少し残念そうに微笑むだけだった。


 レイナは公務のため、あれから城にこもっている。会えないのは辛いが、やむを得ない。


『せっかく元の姿に戻れたと思ったのに、呪いがぶり返すなんて、なんか風邪みたいですね~』


 ガラスには見慣れた猫人の顔が写っている。あれからすぐに俺は猫人の姿に戻ってしまっていた。レイナが単独で発動した天位魔法はやはり不完全で小規模なものだった。レオニード姿でない俺が城内に残るわけにもいかず、店も気になったこともあって、城下に戻ってきたのだった。


 天位魔法の再現も不可能になっていた。レオニードの複製魔法は、一つの魔法具に対して一度きりしか複製できないものであったため、天位魔法を発動することができなくなってしまっていた。


 天にとどく奇跡は失われ、再び幻のものとなった。


 レオニード時代の記憶こそあったが、体が猫人に戻ったこともあり、精神はノートンの頃のものに戻っていた。比類なき魔力を有していたレオニード時の万能感もまた、今となっては幻のようだ。


 レオニード時の自身の姿を確認できなかったことがやや心残りだった。俺の姿を見たレイナの感想は


「う~ん、貴族の女子はやっぱり大変かも」


 とのことだった。どういう意味だろう。


『まさかウチに泥棒が入るとは、呪いって怖いですね~ご主人』


「そうだな。まあ店自体は無事だったことを感謝すべきさ」


 とどめとばかりに、イマジンドレスを複製したことによる金欠の呪いが俺を襲っていた。王城に侵入していた隙に店に泥棒が入り、現金の全てが奪われていた。怪盗が泥棒に入られるなど、目も当てられない。懐が寂しいと気分がめいる。レイナはこんなものに耐えていたのか。


 そんなことを考えながら、俺はいつものようにランド亭のドアを開ける。まだ開店前なので、客はおらず、仕込み中の料理の匂いと酒の匂いだけが店内に漂っていた。


「あら、いらっしゃい。ノートン君」


 ララさんが、いつもと変わらない笑顔で出迎えてくれた。


「これは、女王からのお礼だそうだ」


「エレナちゃんからだね、ありがとう」


 女王からのお礼の中身は、美魔女のドロップと幸運の護符だった。あの護符をつけて美魔女のドロップを使えば、確実に十歳くらいまではハズレを回避し、若返ることができるはずだ。


「俺からも礼をさせてほしいが」


「別にいいよ。これは君を含む〝王家〟からのお礼だからね。うふふ」


 ララさんは嬉しそうにお礼が入った袋に頬ずりしている。


「助かる。今は金欠なので」


「イマジンドレスの貧乏の呪いはもう少し続くはずだから、しばらくはここで食べていくといい」


 やはりこの人は全てを知って、協力してくれていたのか。


「ララさん、あなたはいったい──」


 何者だ? と続けようとした俺の唇を、ララさんは優しく指でさえぎった。


「君たちには期待しているよ。なにせ君は、私が盗んだ〝至高の宝〟だからね」


 魅惑的にウィンクしながら、自らの正体を明かした。


 ──ララさんが、本物の怪盗ドレッドノート──


 〝盗めぬものはない〟とううたわれた稀代の大怪盗ドレッドノート。彼女が盗んだこの国の至高の宝にして、天にとどきうる神秘こそが、ほかならぬ俺だったということか。


 どうりで必死に探しても、見つけられなかったはずだ。


「君達は仲の良い兄妹みたいに育っていたからね。ロマンスには時に距離と試練が必要なのさ」


 嬉しそうにほほ笑むララさんの姿は、恋バナが好きな、いつもの彼女の姿に思えた。


「──あっ、ノートン君。やっぱりここにいたんだ」


 予想外の声に、俺はドアの方を振り返る。


 花のような笑顔を向けていたのは、レイネシア姫ではなく、俺がよく知るレイナの方だった。彼女は深紅の贋作リボンで髪をポニーテールにまとめ、グリーンのワンピースに紺色の浮気者のニーソックスを合わせていた。時が巻き戻ったような錯覚に、俺は思わず目を見開く。あの時と同じ服装は、まるであの日のデートの続きをこれからするように思えたからだ。


「ノートン君、一生のお願いがあるの!」


「い、一生のお願い!?」


 まるで大聖堂での一件は何もなかったかのような素ぶりでレイナが切り出したのは、またもや〝一生のお願い〟だった。一週間もたたずに三度目ということになる。


「わかった。とりあえず家に行こう」


「うん」と元気よく返事し、俺の手をとったレイナと共に、ランド亭の外に出る。やはり世界は輝いて見えた。


「それで、お願いって何なんだ」


 早足で一緒に家に向かいながら、俺はレイナに問いかけた。


「……うん、実はね」


 レイナは言いにくそうに上目遣いでこちらを見つめながら、


「イマジンドレスを、怪盗に盗まれちゃったみたいなの」


 と、とんでもないことを口にした。


「何だって!」


 どうりで静かだと思ったが、あのイマジンドレスを連れていないからか。つまりレイナがいま着ている服は、魔法具ではなくただの私服ということになる。


「一生のお願い。わたしといっしょに、イマジンドレスを盗み返してほしいの!」


 そう懇願する姿は、数日前に再開した当初のレイナの姿を思い起こさせた。


「わかった。ただレイナ、一つだけ教えてほしいんだが……」


「うん、な~に?」


「女子の〝一生のお願い〟は、一生のうち何回あるんだ?」


 レイナの願いをきくのはいいが、せめて残り数くらいは把握しておきたい。そんな生真面目な俺の質問に対し、レイナはその美しい瞳を丸く見開いた後、 


「えへへ、ノートン君大好き!」


 満面の笑みを浮かべながら、俺の腕に思いっきり抱きついてきた。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

ネット小説大賞に応募中なので、応援いただければ嬉しいです。


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