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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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天位魔法

「血の契約に従い、始祖王ロランが末裔、レオニード・フォン・ローラントが宣言する!」

「血の契約に従い、始祖王ロランが末裔、レイネシア・フォン・ローラントが宣言する!」


 強く脈動する血潮を感じる。俺だけではない、レイナの胸の鼓動すら、感じ取ることができた。俺たちは天にとどくという魔法の呪文を、二人で高らかに詠唱する。


 光が集う。まるで俺たちを照らし輝かすことこそ、至上の使命であるかのように。輝きはさらなる輝きを呼び集め、祝福するように俺たちの身体を包む。光の中で俺はレイナの言葉を体感していた。呪いとは過剰な奇跡の代償、愚かな人の業であり、罪でもなければ罰でもないと。


「我ら、至上の歓喜の声と共に──」


「全ての業を浄化する天の扉を、共に叩かん」


 確信する。呪いを生み出さなくとも、命の犠牲を経なくとも、レイナとのこの思いは必ず天にとどくと。魔法が意思による現実世界への干渉であり、その強さは術者の精神力に比例するなら、もっとも強く気高い感情が、最高の魔法の源なのは、自明の理だった。


 それは孤高な始祖王には決して到達できなかった天にとどく奇跡。善なる神が呪いの秘技と合わせて人間に与えてくれた、とっておきの贈り物なのだろう。


 俺とレイナは、天にとどくと予言されし王太子と王太子妃は、手を取り合って天の扉を叩く。


「「──〝天位魔法〟──」」


 全く同時に唱えられた詠唱とともに、俺たちを取り巻いていた光が、天へ向けて放たれる。深夜の王城に現れた白き光の柱。それは完全な天と、不完全な地を結ぶ奇跡の柱だった。


「「〝浄化する天からの御光〟(リサナウト・グリトニル)」」


 その奇跡の魔法の真名をうたうと同時に、天に反射されたかのように光が地に舞い戻る。それは過分な望みの代償として与えられた呪いという業を、浄化する天の光──


 光は頭上からフェンリルを直撃し、呪いの神獣の巨体を光で包んだ。


『グアアアアアアアアアアア!!』


 浄化の光の中で、最後の雄叫びをあげるフェンリル。王家が始祖王以来、数百年にも積み重ねてきた王国の業が、呪いが、天の許しの光によって浄化されていく。


 次の瞬間、白い光は全てを事象の彼方へ消滅させていた。


「──終わった、全てが」


 奇跡を顕現し終えた俺は、思わずつぶやいていた。


「はい、おかえりなさい。レオニード兄様」


 レイナも同じ気持ちだったのだろう。そんな俺に微笑みながら、迎えの言葉をかけてくれた。


「……ああ、ただいま」


 きっと彼女の隣が、俺の戻るべき場所だったのだろう。ゆえにこの言葉がふさわしかった。


「──天位魔法〝白〟の成就、大義でした。レオニード、及びレイネシア」


 優しくも峻厳さを伴った声が響く。目の前にいたのは、ドレスを着たどこかレイナと似た雰囲気を漂わせた高齢のご婦人だった。年を経てもなお美しく、むしろその品性は磨きがかかっているとさえ思える。レイナも、いつかこんな風になるのだろうか。


「お祖母様!」


 彼女こそ俺とレイナの共通の祖母にしてローラント現国王、エレナミア女王だった。


 女王は、病床に伏せっているはずだが、どういうことだ!?


 俺の疑問の言葉を発するよりも先に、女王の姿を見て、動き出した影があった。


「ようやく見つけたぞ、女王エレナミア。貴様を殺せば、俺こそが勝利者、この国の王!」


 どこにそんな力が残っていたのか、奴は奇声を発しながらナイフを手に女王に襲いかかった。もはや正気さえも失っているようだ。


 ──しまった、女王に護衛はいない、俺たちも間に合わない──


「ローラント早乙女流・柔の型、水衝輪、チェストオオオオオオ!」


 だが女王は甲高い掛け声をあげると共に、ロングドレスからは想像もできない流れるような動きで奴の手をからみ取ると、勢いそのままに地面に叩きつけ、その動きを封じた。


 あれはレイナと同じ護身術!


 レイナが言うには、王家の女子はみな習うという。なら当然、女王も使えるのか。


「話は後にしましょう、レオニード。まずは、謀反人のこの男に処分を」


 女王に促され、俺は内大臣であった男の前に立つ。


「……君のことも思い出したよ。久しいな、カイン」


 俺が初めて呼んだ名に、正気を失っていたカインの暗い瞳がわずかに、だがはっきりと反応した。この目から光を奪ったのは俺だ、なら、彼の処分は確かに俺がすべき責務だった。


「王族の僭称と簒奪は本来ならば極刑だが、君の反逆は俺の不徳の致すところ。よって特別に王族としての処分を下す」


 俺は本物のメモリーガンを、カインの頭に向ける。この男の俺に対する忠誠を憎悪に変えたのは、かつての俺の傲慢さと弱さ。ならばそれは俺自身の手でケリをつけ、背負っていかなければならないものだった。


「最後に一つ、伝えておく。カイン、俺の脳裏に残っている怪盗ドレットノートの面影と、君とは似ても似つかない」


 民衆に圧倒的な人気を誇った気高い義賊ドレットノートと、俺を慕い、果てに憎悪したこの男は、明らかに別人だと言えた。断言できる。この男はドレットノートなどではない。


「──君は、贋作だ。かつての我が友、カイン」


 せめてもの慰めの言葉と共に、全ての記憶を奪う一撃を、奴に向けて放った。


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