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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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神獣フェンリル

 激闘は終わり、大聖堂は再び静寂に支配されていた。


 目の前には顔に傷を負った奴が倒れこんでいた。もはや戦う意思は喪失したようだ。結局のところ大幸運の護符の力に頼り切った、過分な望みだったのだ。


「ノートン君、これを」


 激闘が終わった静寂の中、レイナはレオニードの記憶結晶を両手で差し出してくれた。間近で見た記憶結晶の輝きに、本能が告げていた。あれは俺の失われた記憶であると。


 記憶結晶を自分の体に撃ち込めば、記憶は戻るはずだ。だが一抹の不安が脳裏をよぎる。この記憶を戻した後で、俺とレイナの関係は変わってしまったりはしないだろうか?


 だが俺を見つめながら優しく微笑んでくれているレイナの表情を見ていると、不思議とそんな不安も薄れていく。きっと大丈夫、この微笑みを信じるべきだ。


 そう思い、記憶結晶を手に取った瞬間、なんの前触れもなくこの国の限界が訪れた。


『──グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


 天地が割れんばかりの咆哮と共に、数十メートルはある巨大な白銀色の狼が、大聖堂を破壊して出現した。美しく勇壮で威厳すら感じられるその狼が放つ魔力は、魔獣や幻獣の比ではない。魔獣種の頂点に立つ存在〝神獣〟にして、神々さえ喰らうという〝フェンリル〟。奴が身にまとう吹雪によって、周囲の炎が一瞬にして消滅し、凍てついた空気のみがその場を支配する。


「フェンリル!? 今、封印が切れたのか!?」


 勝利の余韻は瞬く間に吹き飛ばされる。大聖堂での激闘がきっかけになったのだろうか、いずれにせよ王家の大隔世魔法による負債の先送りが今、限界を迎えたことは事実だった。


「あれが、銀の雪」


 さらにフェンリルが纏う銀色に輝く雪に俺は戦慄する。吸うだけで死に至るという魔の雪。たとえ内大臣を倒したところで、王国が面している危機は、何一つ解決していないのだった。


「──イマジンドレスよ、その拘束を解き、真の姿を示しなさい」


 凛としたよく通る声が響いたと同時に、突如レイナを中心に白き魔力が吹き荒れる。ウェディングドレスは粒子となって光の中に消え去り、白と青を基調とした美しい白麗聖衣へと姿を変える。


「ノートン君!」


 レイナが俺をまっすぐに見据えながら、語りかけてきた。


「わたしも、ノートン君が好き」


 最高に美しい花のような笑顔で、俺の告白を返してくれた。だが不思議と喜ぶ気持ちはなかった。彼女の笑顔に、言いようのない不吉なものを感じたからだ。


「血の契約に従い、始祖王ロランが末裔、レイネシア・フォン・ローラントが宣言する」


 おびただしい光と共に、白麗聖衣が魔力を放出させる。唱えているのは伯爵邸で見たのと同じ、天位魔法〝白〟の発動呪文だった。今度、天位魔法を発動させるには、彼女の命が必要となる。もはや大隔世魔法で次の世代に持ち越すのは限界だからだ。


「まて、レイナ! 待ってくれ!」


 だが俺の言葉は彼女にはとどかない。


「──フハハハハッ! 結局はその女を犠牲にしなければこの国は救えない。きれいごとをぬかそうとも、俺もお前も、結局は同じなのだ」


 様子を見ていた奴が、それみたことかと、壊れた機械のように嘲け笑う声が聞こえる。


「我ら、至上の歓喜の声と共に、全ての業を浄化する天の扉を、共に叩かん」


 俺の制止も空しく、レイナは自らをコアに濃密な魔力を充足させ、


「──〝天位魔法・浄化する天からの御光〟(リサナウト・グリトニル)──」


 その魔力を、天に向かって解き放った。物質をも貫く魔法の光は、深夜の空を切り裂くように天へと昇り、あらゆる呪いを浄化する光の柱となって、地に舞い戻る。


 ──なんだと!?──


 だがその対象に、俺は愕然とする。天の光は目の前の神獣フェンリルではなく、俺めがけて舞い降りてきたからだ。 






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