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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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内大臣

 王城前広場に近づくにつれて人数が増し、俺がついた時には、夜だというのに広場は群衆で埋め尽くされていた。俺は以前と同じように猫人の身体の柔軟さで群衆をすり抜けて、バルコニーが見える位置まで移動する。


「政府は何をしている!」


「フェンリルの情報を出せ!」


「反乱軍はどうなっている!!」


「ゴーレムがいるというのは本当なのか!?」


「せめて子供たちを安全な王城に入れて!」


「この雪は銀の雪じゃないだろうな!?」


 緊張と興奮に駆られた民衆たちは、思い思いの声を王城に向かって浴びせる。特に白い雪と銀の雪の区別が困難なこともあって、声は次第に罵声とも悲鳴ともつかないものに変わっていく。


「何もしないなら、せめて武器をよこせ!」


 ついには武器を要求しだす民衆まで現れた。

 王城を守っていた兵士達にも、動揺の色が見て取れた。彼らも王国政府の対応に不安を覚えているようだ。だが民衆に武器を渡せば、暴徒となって反乱を起こす可能性もある。


「静粛に、政府より発表がある」


 王城のテラスを護衛していた兵士長が、民衆に向けて叫ぶ。だが彼の言葉では熱狂状態の民衆をなだめることはできず、民衆達は暴発寸前のように思えた。


「──王国内大臣である余が、事態を説明する」


 テラスに現れた銀髪の青年。内大臣であるレオニードが、大声で宣言した。


「説明しろ!」


「フェンリルはどうなっているんだ!?」


「反乱軍はどこまで来ているの!?」


 だが王族である内大臣の姿をもってしても、民衆達は収まる様子を見せない。


「まず、ディーク旧伯爵派の残党によって、いくつかの村が占領されたのは事実だ」


 民衆たちの声をかき消さんばかりの轟く声で内大臣が言葉を続ける。雷鳴のように響く内大臣の声は何かの魔法具を使っているのだろうか、それとも生まれ持った王者の才覚の一つなのだろうか。


「しかしすでに軍の各部隊が鎮圧のため出動している」


 その力強い言葉により、人々の何人かは安堵の息をつき、罵声は次第に弱まっていく。だが反乱軍にはゴーレムがいるという。そちらはどうするつもりなのだろうか?


「反乱軍にはゴーレムが四体確認されているため、王都からも増援を派遣することを決定した。門をあけよ」


 内大臣の言葉でテラスの真下にある、王城正門が開く。重厚な足音と共に、人間の数倍はある巨大な鎧を着込んだ兵士たちが行進してきた。数は百体以上、兵士たちは声一つ上げず、機械のような規則的な動きで民衆を取り囲むように王城の前に整列する。


「ゴ、ゴーレムか!?」


 民衆の一人が声をあげた。巨大な鎧の奥に見えるのは、機械仕掛けの巨人の姿だった。


「ゴーレムだ、政府もゴーレムを持っていたんだ!」


「何体いるんだ!」


「百、それ以上だ!」


「すごい! これならたった四体の反乱軍のゴーレムなんて怖くないぞ」


 多数のゴーレムに圧倒されていた民衆たちが驚きと共に、歓喜の声をあげる。その勇壮さは、民衆達を安堵させるに十分な威力を持っていた。


『ご主人、あれはディーク伯爵のゴーレムを回収したものでしょうか?』


「いや、伯爵のゴーレムとは構造が違う。王政府も密かにゴーレムを開発し保有していたようだ。それもあらかじめ毛根操作能力者を大量に確保した上でな」


 民衆達が大量のゴーレムの威風に安堵しつつある中、俺だけはひとり奥歯を噛みしめていた。


 レイナにディーク伯爵の謀反の情報をリークしたのは、わざとか。


 内務省による伯爵事件の鎮圧の手際が妙に迅速だと思っていたが、そういうことか。内大臣はレイナが怪盗エルフとして活動していたのも把握していた上で、意図的に泳がせていたのだろう。


 当然、俺のことも知っているはずだ。


 背筋に冷たいものが走る。今まで感じたことのないほどの悪寒が走った。情報機関を司る内大臣は国の全ての情報を把握しているといわれている。あいつはいったいどこまで俺のことを知っているのだろうか。


 得体のしれない生き物に、幾重にも包囲されているような重苦しい感覚が俺を襲う。


「もうひとつ、より懸念される問題がある。アララ砂漠に積雪した〝銀の雪〟についてだ」


 内大臣は〝銀の雪〟の存在をも、公のものとして認めた。民衆たちは再び静まり返り、彼の次なる言葉を固唾をのんで見守る。


「伝承によれば、これは〝神獣フェンリル〟の出現の前兆であるとされている。事実リイアン地区において、巨大な銀狼の姿が目撃されたとの証言があり現在調査中だが、神獣フェンリルの出現の前触れである可能性が濃厚である」


 内大臣がフェンリルの存在を認めたことにより、民衆の表情が恐怖で再び引きつる。だが堂々とした内大臣の立ち振る舞いに、誰も声をあげたりはせず、ひたすらその言葉に耳を傾けていた。


「しかし五百年続く王家の血統は、この問題を解決できる切り札をもたらしてくれた」


 そう言うと内大臣はテラスの扉に向けて頭を下げ、恭しく敬礼する。側の兵士たちも、全員が彼に倣い扉に対し敬礼する。


 同時に、テラスの扉が厳かに開かれる。ゆったりとした足取りで、テラス中央に現れた人物。腰まである流れるような黄金の髪を持つ美しい姫君、それはレイネシア姫その人だった。


 レイナ! 白麗聖衣ではない。どういうことだ?


 俺が不思議に思ったのは、その衣装だった。レイナが着ていたのは正装でもある白麗聖衣形態ではなく、純白のロングドレスだったからだ。理由はわからないが、その息をのむほど美しい白雪のようなドレス姿が、俺に言いようのないような不吉なものを感じさせた。


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