理想のデート
翌日昼過ぎ、俺は王都の広場でレイナを待っていた。
店は午前中で閉め一人で出てきた。レイナは一度部屋に戻り、外で合流する予定だった。
理由はわからないが、デートとはそういうものらしい。
『いいですかご主人、まず服を褒めてるんですよ。間違っても耳なんて褒めてはダメですよ』
先ほどからイエローストーンの小言がうるさい。
「しかし遅いな」
『女性の準備には時間がかかりますから』
そうこう言っていると、美しい女の子がスカートを翻しながらこちらに早足で歩いてきた。
「お待たせ、ノートン君」
「あ、ああ」
レイナは膝丈の淡いグリーンのワンピースに、紺色の浮気者のニーソックスを履き、深紅の贋作リボンをポニーテールの形で合わせている。なぜだかとても新鮮に見えた。初めて見る服のせいだろうか。豊かな胸のふくらみがわかるキュートなデザインのワンピースが、レイナの上品さと活発さを丁度いいバランスで両立させていた。
『何しているんですかご主人、早く褒めたげてください』
そうだ、何を見惚れていたんだ、俺は。
褒めなくては。例えあのワンピースがイマジンドレスの変形したものであったとしても、そんなことは今はどうでもいいはずだ。
「その服、可愛いな」
「本当? ありがとう、かわいいでしょ」
レイナは嬉しそうにスカートを翻しながら笑う。そのたびに太ももの絶対領域がチラチラと見えて、俺は頬が熱くなるのを隠すので精一杯だった。
なんとか最初のタスクを終え一息ついた俺は、レイナと一緒に街を歩いた。
馬車側は俺が歩いて、歩調を合わせるんだったな。
俺はイエローストーンに言われたことを反芻しながら、ゆっくりと歩き始める。レイナも嬉しそうに側を歩く。彼女にしては歩きはゆっくりだ。
よく考えたら、昼間に一緒に歩くのは初めてだった。周囲の視線を感じる気がする。猫人の俺と、可愛い町娘といったいでたちのレイナ。はたから見たらさぞ不釣り合いだろう。
呪い付きの猫人の俺はただでさえ不審者と思われやすい。そのため普段は目立たないように道の端を歩いている。特にトラブルに巻き込まれぬよう、ガラの悪い男や派手な女たちには特に気をつけながら歩いていた。だがレイナと一緒なら、道を堂々と歩くことができた。
俺と一緒に嬉しそうに歩いてくれる彼女を見ていると、高揚感を伴ったポカポカ温かい何かが、俺の心を満たしていく。
なんだ、この気持ちは!?
猫人としての生活で凍りついていた俺の心の傷が、温かい何かによって癒やされていくような気持ちになる。それは気恥ずかしさを伴った、甘酸っぱくも心地のよいものだった。
俺が「あれっ」っと気づいたのは、周囲の景色についてだった。空は蒼く、陽の光がさすいつもの街並みがいつも違って鮮やかに見える。王都はこんなにも綺麗なものだったろうか。
可愛い女の子と歩くだけで、世界はこんなに違って見えるのか?
「な、何か食べないか、レイナ?」
俺は高まる気持ちを抑えきれなくなり、レイナに話題をふった。
「いいの? じゃあ行ってみたいお店があったんだ」
そうだ。レイナはイマジンドレスの呪いで現金を持てない。スリムな見かけによらずよく食べる彼女は、いつもさぞひもじい思いをしていたろう。
「ああ、なんでもご馳走するよ」
「やった~」
レイナは白い歯をだして嬉しそうに笑った。彼女が向かったのは、クレープ屋さんだった。
「いつもすごくいい匂いがしていたんだ」
俺はレイナの希望したハニーバターバナナクレープと、自分用のツナチーズクレープを注文すると、二人でお店のテラスで食べる。
「おいしいね」
「ああ、おいしい……」
言葉に嘘はない。ここのクレープは何度も食べたはずなのに、今まで食べてきたクレープとはまるで別物だった。ララさんが、酒は飲む相手に対する感情によって味が全然異なると言っていたが、食べ物もそうなのか。
俺は、レイナに対してどういう感情を持っているのだろうか?
「隙あり!」
「うっ!?」
考え込んだ矢先、口の中に投げ込まれた甘い香りに、俺は目を丸くする。惚けて考え込んでいる俺の口に、レイナが自分のクレープを放り込んだのだ。
「こっちのも、おいしいでしょ?」
びっくりしている俺の顔を、レイナが嬉しそうにのぞき込んでくる。彼女が今まで食べていたクレープなのだから、間接キスというやつだが、レイナは気にしている様子はない。とろけるようなバターと蜂蜜とバナナの甘みが、俺の口いっぱいに広がる。
ドクン。
甘い何かが喉を通り抜けた瞬間、俺の心臓が熱く、力強く脈打つのを感じた。




