レイナのお礼
その日の夕食は、仕事が忙しかったので俺はレイナと一緒にランド亭ですましていた。
「このスープおいしい。ララさんはお料理上手だね。今度、レシピ教えてもらいたいな~」
美味しそうにスープをすするレイナの無邪気な表情からは、姫君の威厳は少しも感じられない。対して俺は料理を楽しむ余裕はなかった。ヴィラからは結局、あれ以上の情報は得られなかった。しかし俺はメモリーガンのことで頭がいっぱいだった。
知っている。俺は間違いなく〝本物〟の、メモリーガンを知っている。俺の記憶は、間違いなく本物のあれによって奪われたはずだ。
だが仮に王家が機密保持のために俺の記憶を奪ったにしては時期が合わない。俺が記憶を失った七年前よりも一年前に、あの銃は怪盗ドレッドノートが奪い去っていたという。仮に怪盗ドレットノートが俺の記憶を奪ったとすると、俺が王城にいた理由がつかないし、そもそも奪う理由が思い当たらない。
謎のパズルのピースが微妙にはまらない。いったい、どういうことなのだろう?
そのことを考えているうちに徐々に店は混んできて、周囲からは商人たちの噂話が聞こえてきた。
「──そういや聞いたかい、アララ砂漠に、銀の雪が降ったそうだ」
「まだ十月だというのに北部は大雪らしいが、さすがに銀の雪は見間違いじゃね?」
誰かがそんな噂話をした瞬間、レイナが一瞬だけ「ピクッ」と動きを止めた気がした。
「どうかしたのか?」
「……ううん、大丈夫」
すぐにいつもの笑顔に戻ったレイナは、突然話を変えてきた」
「ねえノートン君、わたし、お礼に何かしたいかな」
「お礼って、誰にだ?」
「もちろんノートン君にだよ」
「しかし、まだ大した成果をあげられてないけどな」
伯爵が持っていたという賢者の石はなく、ヴィラが持っていたメモリーガンは偽物で、賦与魔法の結晶はサーシャの劣化のものしかない。天位魔法を完成させるというレイナの目的は、まるで果たせていなかった。
「うんん、ノートン君はとてもよくしてくれたから、お返ししたいな、何か欲しいものはある?」
お礼か。突然そんなことを言われても、何も思いつかない。
「わたしにできることならなんでも聞いてあげるよ?」
俺の顔を覗き込み、そんなことを言うレイナの表情は、とても魅力的に見えた。
「ふ、不用意にそういう言葉をだしちゃだめだと、言っているだろう」
俺は照れくさくなって、思わずそんな注意するみたいなことを言ってしまう。
「うん。ノートン君にしか言わないから、大丈夫」
またもやドキッとしたことを言ってくる。
「ノートン君には、何か、夢とかないの?」
「夢か……」
俺は考え込んでしまう。
『では、ご主人のあの夢を、レイナさんに叶えてもらってはいかがでしょう?』
「あの夢? ──いや、あれは!?」
イエローストーンの言葉を俺はびっくりして遮る。だが既に手遅れだった。
「どんな夢? 聞かせてほしいな~」
『ご主人の夢はですね〝世界がキラキラ輝いているような、素敵なデートがしたい〟というものです』
前にイエローストーンにもらしてしまった、俺の恥ずかしい夢を暴露されてしまい、俺の頬はみるみるうちに焼きたてのパンのように熱くなる。
もしレイナに馬鹿にされたら、とても辛い。俺はおそるおそる彼女の顔に視線をやるが、
「いいね、それ素敵!」
目を輝かせているレイナが、目の前にいた。
「いや、レイナみたいな娘が、俺とデートするなんて変だぞ」
「どうして?」
「どうしてって、俺は呪い付きの猫人だぞ」
「だから??」
レイナはきょとんとしている。そういえば、彼女は俺以上の呪いを持つ姫君だったか。
『幸せになるのは権利であり義務ですよご主人。夢がかないそうでよかったですね』
「ふふ、わたしも嬉しい。ノートン君の夢がかなうように、がんばるね」
『ではデートプランを練りましょうか、わたくしも微力ながら協力させていただきます』
「うん。最高に楽しいのにしようね」
レイナ達は嬉しそうに計画を練りだす。俺はあっけにとられたまま、その姿を見つめていた。




