貴族の義務
翌日の夕方、カレンとサーシャがことの顛末を俺とレイナに報告するために、店に来てくれていた。特にサーシャは元気そうにしていたので、俺は内心ほっとした。
「ノートン先生、結局、表向きは校長の単独犯という事で落ち着いたよ」
「それで問題なかったのか?」
「まああれだけのブルマを見せられるとね」
カレンはあっけらかんと答える。
「サーシャは、大丈夫なのか?」
「はい。私は寝てただけですし」
こちらも問題なさそうだった。
「それはそうと私、なんか魔法具を壊さなくなったみたいです」
「ほう、それはよかったな」
「えへへ、これでお屋敷をクビにならなくて、よかったです」
サーシャは嬉しそうに笑った。俺は彼女の劣化の賦与魔法が抽出された記憶結晶を本人に返すか迷っていたのだが、返還しないでおいて正解だった。制御できない能力など、ない方がいいからだ。
本人は記憶がなくなったことすら気づいていないようだし、このままそっとしておこう。サーシャの記憶結晶は、「女子の記憶だからわたしが持っとくね」と、レイナが預かっている。劣化の能力が暴発しないか気がかりだったが、〝絶縁の布〟も一緒に渡しておいたので、大丈夫だろう。
「一つだけいいかな。七不思議のひとつの、消えた女子生徒が人形になっているというのは?」
話を聞いていたレイナが口を開く。
「あれは先生が参考のために、可愛いコの人形をフェイクミラーで作って、保管していただけだよ。みんな『なんで私の人形はないの?』って怒ってたけどね。ちなみに、あたしのはあったよ」
カレンは嬉しそうにピースした。そういえばレイナのもあったな。
「……消えちゃった生徒の方は?」
レイナが聞きたかったのは、失踪した生徒の方のようだった。数年に一度、姿を消してしまう女子生徒がいるらしい。いわゆる神隠しの噂だ。
「あ~、そっちね。あれは本当は、神隠しでもなんでもないんだ」
「どういうこと?」
「ぶっちゃけると駆け落ち。恋人と一緒に逃げちゃうんだよ。いっこ上の先輩にもいたな~」
「え、駆け落ち!?」
予想していなかった大人の世界の言葉に、レイナとサーシャは驚きの声をあげた。
「そう。あたしたちは来年には卒業で、卒業後は社交界に出てすぐ結婚とかだからね」
「結婚、か……」
まだ十代後半のカレンからでた〝結婚〟という言葉に、俺は息をのむ。
「貴族の娘は、家の命令には逆らえないからね。もう許嫁が決まっているコもいるよ。貴族には貴族の責務があるからね」
カレンが淡々と話す言葉に、俺は何も言うことができなかった。
「だから。限りある今の学生生活を精一杯楽しんでいるんだ」
「カレンは、不安じゃないの?」
「う~ん、社交界はきっと楽しいし、未来の旦那様もいい人だと信じてるから、大丈夫だよ」
カレンは、レイナの質問に微笑みで返す。それはずっと大人びたものに見えた。
「でもそれが嫌で駆け落ちしちゃう人もいるんだ。失踪した先輩は、知る限りみんなそう」
「──そうだね、貴族には貴族の責務があるものね。遊んでばかりは、いられないね」
レイナは最後にそうつぶやく。まるで自分自身に言い聞かせているように、俺には感じられた。




