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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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メモリーガン

「勝負あったな」


 俺はメモリーガンをヴィラにつきつける。


「……そうね、私の負けよ」


 観念したヴィラは素直に敗北を認めると、イマジンドレスを粒子に戻し、レイナに返還する。


『がはは、ただいまレイナ嬢ちゃん。なかなか楽しかったぜ』


「うん、おかえりイマジンドレス」


 あんなドレスでも愛着はあるのか、レイナは嬉しそうに迎え入れる。


「いくつか質問がある。サーシャに、何をした?」


「珍しい〝変化〟の賦与魔法を持っていた娘だったから、調査のためにいただいただけよ。気を失っているけど、外傷はないわ」


 ヴィラは、机の上に置いてあった水晶のような塊を指さす。


「記憶結晶! それはサーシャの記憶ね!」


「よく知っているわね。王族しか知らない機密なのに、さすがは怪盗エルフといったところね」


「記憶と共に〝賦与魔法〟を奪っていた。それがマホジョの裏の役目か」


「そう、この記憶結晶を持つ者は、盗み出した賦与魔法を使えるようになるの。秘密裏に王家が指定した賦与魔法を確保するのが、ここの裏の仕事。もっともこの娘の賦与魔法は期待外れもいいところだったわ。〝変化〟だと期待したけど、〝劣化〟の魔法なんて要らないわ」


 ポロン先生は冷たい口調でそう告げた。ポロン先生にとってサーシャの賦与魔法は、よほど価値のないものだったらしい。


「このメモリーガンはどこで手に入れたんだ?」


「優秀な鑑定士の貴方ならわかると思うけど、それは複製品よ」


「だが使えるのだろう?」


「本物のメモリーガンから作り出された弾を使えば、複製品でも問題なく使えるわ」


「弾はどこから入手したんだ?」


「王国内務省よ。学園での私の研究を黙認する代わりに、彼らが望む賦与魔法の持ち主がいた場合、その能力を引き渡すのが条件だったわ」


「責任者は誰だ?」


「レオニード内大臣の直轄よ」


「……そう」


 話を聞いていたレイナがため息をつく。すぐいつもの表情に戻ったが、一瞬だけひどく悲しそうな色が混ざったように思えた。


「私からも一つだけ聞かせて。あんな下品なドレスを着てどうやって、レイナさんは高いエレガンス度を維持していたの?」


「それが、レイナが生まれ持った気品というものだろう」


「──そう、所詮は生まれと血統がこの世の全て。リイアン地区出身の私は、どんなに努力しても生粋のお嬢様には勝てない。貴方はそう言いたいのね!!」


「……別にそこまでは言っていない」


 なんかヴィラの地雷を踏んでしまったらしい。


 生まれも当然あるだろうが、レイナの生き方や決意が、きっと高貴なものなんだろう。


「他に聞きたいことはないの?」


「ない。あえて言えば、なぜそこまで〝美〟にこだわるんだ?」


 俺の質問によほど驚いたのか、ヴィラは瞳を大きく見開きながら答えた。


「この世で最も愚かな質問ね。若さと美しさこそ、女の世界の全て。美しければ、世界は優しく接してくれる。男の、しかも猫人の貴方にはわからないでしょうけど……」


 魔力量は術者の精神力に比例するという。美へのあくなき欲望こそ、ヴィラの強大な魔力の源泉なのだろう。


「でももう私は終わりよ。少なくとも教師としての私はね」


 自嘲気味に答えるヴィラのもとに、レイナが思わず口を開く。


「そんなことないよ、ポロン先生は、いい先生だったと思うよ」


「まだ若い貴女には理解できないわ。私が本当は六七歳で、元はリイアン地区出身の不美人であることを知れば、みんな態度が変わり、私を軽蔑するようになるわ。メモリーガンを失った今、機密の保持は不可能。ここに居場所なんてないわ」


「それは、どうかな? カレン、入ってきていいぞ」


「はい、ノートン先生」


 ドアの向こうからカレンの答える声が聞こえる。カレンに連れられて教室側から入ってきたのはA組の女子生徒たちだった。俺の指示で、寮にいた女子生徒たちを集めていたのだ。


「みんな、聞いていたの……これで私も終わりね。私のことを、さらし者にすればいいわ」


 先頭に立っていた女子生徒が、意を決した表情で口を開く。


「先生の正体が、伝説の美魔女ヴィラって、本当ですか?」


「……本当よ」 


「先生の本当の年齢は、六七歳なんですか?」


「ええ、あなたたちにとっては、おばあさんよね」


 ヴィラの自虐的な言葉に、生徒たちは息をのみ、顔を見合わせた後──


「すっごおおおい!!」


「きゃああああ、先生すごく綺麗!」


 生徒たちは一斉に歓声をあげた。


「お祖母様よりも年上なんて、すごい! 若い! かわいい! ずるい!」


「ヴィラのお化粧品の大ファンなんです!」


「どんな魔法なの? 教えてください!」


「わたしはポロン先生が本当はすごい美人だって、思ってましたですわ」


 生徒たちはヴィラを取り囲んで、目を輝かせながら口々に黄色い声をあげる。


 生徒たちの予想外の反応に、ヴィラは面食らった顔をしていた。


「貴方たち、怒ってないの? 私は機密保持のために記憶を奪っていたのよ? みんなを美容魔法具の実験台にしたり、髪を勝手に集めて若返りの灰を作ったり、好き勝手にしていたのよ?」


「そんなの、どうでもいいよ!」


「……ど、どうでも、いいの?」 


 思わぬ言葉に、ヴィラは目を見開いて驚いていた。


「記憶とかはいいの、卒業できれば!」


「先生は補習してくれたり、がんばってくれたしね」


「まさか美魔女ヴィラの魔法具のサンプルをタダで使えてたなんて、びっくりよね」


「抜けた髪とか、好きに使ってって感じだよね。むしろ学校で髪切りたいくらい」


「じゃあアタシが切ってあげる。卒業後は美容師志望だし」


「いいね。髪がたくさん集まれば、ウチらもこの灰をつかえるわけだし」


「キャー、夢みたい!」


 テンションがますます上がっていく生徒たち。


「で、でも、私の秘密が守られない限り、私は学校にはいられないわ」


「それはウチらが秘密を守れば、いいってことでしょ?」


 ヴィラの言葉に、キョトンとした表情で生徒たちは答える。


「そ、そうだけど……」


ヴィラはひどく驚いた表情のまま固まる。


「守る守る、絶対守る!」


「みんなこの秘密は、絶対よ。先生にも家族にも言っちゃダメ!」


「もちろん! 女の約束よ」


「や~ん、卒業したくない!」


「卒業しても〝先生を囲む会〟をつくろうよ」


 生徒たちは和気あいあいして活気があった。それは俺たちが知るいつものA組の教室そのものだった。


「貴女の生徒はいい子ばかりだ。もう記憶を消す必要なくなったろう? 一人では登れぬ山も、二人でなら登れることはある。美の道も、そうかもな」


 俺の問いに対し、ヴィラは初めてわずかに頬を緩ませながら、ゆっくりとした口調で答えた。

「……そうね、教師も悪くないわね」

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