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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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美魔女ヴィラ(転記漏れにより追加 修正済)

 日が暮れた後、怪盗姿になった俺とレイナは学園に侵入していた。前回侵入したこともあって、容易に旧棟の最奥の教室。通称、〝不幸になる部屋〟の中に到達できた。


「大丈夫か?」


「うん。平気。早く、サーシャを救わないと」


 若い女性を排除するトルル石の妨害は生きていたため、レイナは少し顔色が悪かったが、気丈にも答えてくれた。


 目的はこの教室の倉庫。先日、俺たちが入ろうとして、校長のために引き返した扉だった。


「わたしが壊そうか? ノートン君」


「いや、大丈夫だ。もう開いた」 


 錠は簡単なものだったので、俺は直ぐに開けることができた。錠を解かれてもなお、招かざるものを拒否するかのような重く重厚な扉を押し開け、中に侵入した。


「何これ!!」


 俺たちは思わず息をのんだ。目の前にあるのは、大量の髪を集めた祭壇と灰の山。何らかの儀式を行う場であり、その状況からして今なお使われているもののようだ。


 隣には、十数体の学生服を着た少女たちの人形があった。彼女たちの姿の中には、俺たちが知っている生徒たちの姿もある。人形はまるで生きているかのようにリアルだった。学園の七不思議のひとつ、消えた生徒たちが人形になって保管されているという噂そのものの光景。


「ひっ!」


 人形の一つに、レイナ自身のものもあったことで、彼女は恐怖のあまりか息をのんだ。いつの間に作成したのかも気になったが、今はそれどころではない。


「サーシャ!?」


 奥のベッドに横になっているサーシャの姿を見つけ、俺たちは駆け寄った。


「大丈夫だ、眠っているだけのようだ」


 みたところ外傷はない。俺はホッと胸に張り詰めていた息をつく。


「──いけない人達ね。こんなところに泥棒に入るなんて」


 突如、背後から美しいが冷たい女性の声が響いた。


「怪盗エルフと、猫人の怪盗……いえ、二人とも見た顔ね」


 月明かりに照らされた美しい女性。それは普段とは異なる冷徹な瞳でこちらを見つめるポロン先生その人だった。


「そう、怪盗エルフの正体が、レイナさんだったとはね」


 レイナの正体も見破られていた。この程度の変装は無意味か。


「ポロン先生、貴女が〝怪盗エロス〟の正体だ」


「……ふふ、何のことでしょうか? ノートンさん、怪盗エロスは校長のはずでしょう?」


 ポロン先生は余裕の笑みを浮かべながら、みえみえの嘘をつく。


「今さらしらを切っても無駄だ。本物のメモリーガンを持っていたのが、その証拠だ」


 俺は動かぬ証拠であるポロン先生が握っているメモリーガンを指さし、そう告げる。


「そしてポロン先生、貴女はさらに正体を隠している。怪盗エロス、いや〝美魔女ヴィラ〟」


「ポロン先生が、美魔女ヴィラ!?」


 俺が告げた事実に、レイナが驚嘆の声をあげた。


 美魔女ヴィラ。約五十年前に活躍し、長ずれば天にとどくとうたわれた稀代の女魔術師。だが自らの美の追求にその才能を用いたため、魔術師たちからは異端の魔女、すなわち〝美魔女〟の蔑称で呼ばれ、今なお王都のどこかに潜伏していると言われている存在。


「……どうして私がヴィラであるとの推測に至ったか、聞いておきましょうか」


 ポロン先生は俺の指摘に、落ち着き払った口調で尋ねる。


「姿を消したヴィラが王都のどこにいるかについては、推測はついていた。流行に敏感な彼女が潜伏しているのは貴族の社交界か、平民の繁華街、マホジョのどこかのはずだと思っていた。だがこのコンパクトを見て、ヴィラの潜伏先がマホジョであると確信した」


 俺は〝美灰のコンパクト〟を懐から取り出す。


「髪の灰をささげることで、少しずつだが髪の持ち主に容姿を似せる魔法具。このコンパクトは学生が作ったにしては、完成度が高すぎる。間違いなく美魔女ヴィラが作り、試験的に生徒たちに与えたもの。そしてこの学園でなら、大量の若い娘の髪を容易に集めることができる」


 俺は部屋に安置されている巨大な三面鏡を指さす。大型だがあれはこのコンパクトと同じ原理の魔法具のはずだった。


「そっか、あの髪を集める人形は、そのためのものだったんだね」


「流行の発信地の一つにして、若い女性にはこと欠かない王都で最も閉鎖的な空間。ここはヴィラにとって理想的な実験施設だ。まれに学校の七不思議目当てに旧校舎に侵入してきた生徒がいたが、見つかるとメモリーガンで記憶を奪ってきた。だが旧棟の取り壊しが決定すると、取り壊し前に七不思議の謎を探ろうと立て続けに生徒たちが侵入したため、慌てて記憶を奪う変態の怪盗エロスの犯行に仕立て上げた」


 最初の犯行において、犯行予告状がなかったのはそれが理由だ。


「だが俺が真実に迫ると、ブルマを廃棄するとの情報を流し、やってきた校長に全ての犯行を押し付け、俺を学園から追放した」


「なるほど、試作のコンパクトを生徒たちに与えたのは失敗だったようね」


 ポロン先生は、あっさりと容疑を肯定する。


「それ以外にも、貴女がヴィラであると予想していた。それは、〝ブルマ〟だ」


「ブルマ?!」


 俺の口から出た予想外の単語に、レイナが思わず変な声をあげる。


「貴女はブルマを〝憧れの衣装〟といったが、女の子がブルマに憧がれたのはかなり上の世代だ。あの言葉を聞いた時、違和感に気づいた。くわえてブルマを〝ブルマー〟と伸ばして発音するのは、上の世代の女性の特徴だ」


「……そう、まさかブルマーが命取りになるとはね」


 ポロン先生は、まるで答案に不備があった教師のように、淡々とした表情をしている。


「見事だわ。ガス抜きのために招いた探偵モドキだったけど、侮っていたわ」


「認めるのか、美魔女ヴィラ?」


「ええ、私がヴィラよ」


 ポロン先生はついに自らをヴィラと認め、髪留めを解き、眼鏡を捨てる。腰まである艶やかな髪が解放され、ゆったりと宙を舞う。


「……綺麗」


 レイナが思わずそうつぶやく。


 誰もが見とれるほど美しい、美の化身のような女がそこにいた。陶器のように美しい肌に、宝石のように輝く自信に満ちた瞳。均整の取れた小さな顔。着ていたスーツは消え去り、地面から湧き出た銀色の水がドレスとなって、魅惑的な曲線美をもつヴィラの肉体を包む。


「ペラペラと推理を語ってくれて、ありがとう。貴方たち二人の記憶を消したあと、真相に至った証拠は処分しておくわ。これですべて、元通りになる」


 ヴィラはメモリーガンを使って俺たちの記憶を消し、すべてをなかったことにするつもりだ。


「レイナ、来るぞ!」


「うん」


 俺たちは戦闘態勢をとる。


「私に抗うつもり? 愚かな。天にとどくとうたわれた魔術師の力を知りなさい」


 さらにヴィラの魔力が爆発的に膨れ上がり、部屋の中を暴風のような魔力が吹き荒れる。魔力は人間の意思、信念、思いが具現化したものだという。飽くなき美への欲求と執着。彼女の魔力は、人が持ちうる中では最上に近い強力なものだった。


 目の前で発動されたヴィラのすさまじい魔力に、俺は思わず圧倒される。


「貴女の気持ちはわかるし魔力もすごいけど、全部自分のためだけじゃない!」


 だが隣で臆せずに気を吐くレイナの言葉に、俺はハッとする。確かにヴィラは強大な魔力を持つ魔術師だが、大義はない。国のため民のために決意したレイナの横顔の方が、ずっと気高く尊いものに見えた。


「小娘が、いっぱしのことを!」


 ヴィラがメモリーガンの引き金を引き、銃口から轟音が響いた。

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