事件解決
「ぎゃあああああ」
学園の校則魔法はレイナを新たな主人と認めたようだ。変質した床と壁の一部が水飴のように伸び、ダイナ校長の身体を拘束する。
「うう、わが校のブルマが失われるなんて、王都で最後のブルマだったのに……よそ者を受け入れたばかりに」
観念したのか、ダイナ校長は俺を恨めしげに見つめながらシクシクと泣き出した。よほど悔しいのだろうが、俺を恨まれても困る。
「ブルマでここまで変になるなんて、男の人にとってそんなにいいものなの?」
「いや、それは人によるだろう」
レイナの質問を、俺ははぐらかす。性癖は人それぞれなのだ。
「ノートン君は好き? わたしのブルマ姿も見てたよね? さっきもポロン先生のも見てたし」
「……今はこいつが怪盗エロスかどうかを確認するべきだ」
「あ~、逃げた。ずるい!」
俺はジト目で問いかけてくるレイナの質問には答えず、ダイナ校長の胸ポケットを調べる。
中には、銃の形をした魔法具が入っていた。
「これは──」
校長が持っていた銃の形をした魔法具に、俺は自身の心臓が嫌な音を立てて強く脈打つのを感じた。
──知っている。俺はこの銃を知っている。それもこんな〝贋作〟ではなく本物を──
記憶こそ失われていたが、本能が訴えかけていた。俺はこの魔法具を知っていると。
「それは〝メモリーガン〟だね」
「知っているのか!? レイナ」
「うん。対象の記憶を奪い記憶結晶に変えることができる魔法具なの。元は王家の機密を守るために開発された魔法具らしいんだけど」
「王家の機密保持のための、記憶を奪う銃……」
俺の背筋に冷たいものが走る。もし王族がそんな魔法具を持っていたなら、七年前に俺が記憶を失った状態で王城にいた説明がつく。
かつての俺は本当に城の関係者で、王家の機密保持のために記憶を奪われたのか?
今まで考えてもなかったそんな疑問が、俺の脳裏をよぎる。
「しかも記憶結晶にすれば、持ち主の賦与魔法まで奪えることが分かったの」
「賦与魔法まで奪うか、すごい能力だな」
「でもこの銃は八年前に怪盗ドレッドノートに盗まれ、それからは行方不明になっていたの」
なら計算が合わない。七年前に俺の記憶を奪ったのは、王族ではないということか?
『ご主人、思案中にあれですけど、そもそもそれって……』
「……ああ、わかっている」
小声で語りかけてきたイエローストーンの言葉を、俺はさえぎる。
「メモリーガンを持ってたってことは、怪盗エロスの正体は校長ってことなのかな?」
「まあ、本物であればな」
レイナの指摘に対し、俺はぶっきらぼうに答えた。
「どちらにせよ、こいつには聞きたいことがある。先生方、教室を一つ貸してほしい、こいつを尋問する」
「それはできませんノートンさん」
だが俺の申し出をはっきりとした声で拒否したのは、ポロン先生だった。
「なぜだ? 校長から情報を聞き出す必要があるはずだ」
「〝メモリーガン〟を所持していた以上、怪盗エロスの正体はダイナ校長で確定です。ブルマーを盗むために偵察のために侵入し、目撃者の記憶を奪っていたのでしょう」
「その推測は無理がある。ブルマの廃止が決まったのは今日のはずだ」
「何と言われようと、怪盗エロスの正体はダイナ校長です。犯人が学園内の人物で、しかも校長というとても敏感な問題ですので、取調べは学園側で行います。ノートンさんに依頼したのは、エロスの逮捕まででしたから」
あくまで俺の仕事は終わったと主張するポロン先生。そういえば先ほどから〝先生〟ではなく〝さん〟つけだ。もはや俺は臨時講師ですら無いらしい。
「これは学園の決定です」
ポロン先生は付け加えた。あくまでこちらの要求をかたくなに拒否する気らしい。
服装こそ体操着にブルマ姿というあられもない姿のままだったが、その態度は今までの温和な彼女とはまるで異なる厳しいものだった。彼女にとってブルマはさほど恥ずかしい衣装でもないのか、嫌がっている様子もない。
「では、事件は解決しました。生徒の皆さんは、速やかに寮に戻ってください」
終了を宣言するポロン先生。学園を騒がしていた怪盗エロス事件は、一応の終息をみた。




