怪盗エロス捕獲
鳴り響く警報音の中心は、新校舎の一階奥の保管部屋だった。俺たちが駆け付けた時にはすでに教師達は部屋に集まり、さらに寮からやってきた女子学生の野次馬たちまでもが群がっていた。
「何事ですか、ポロン先生」
俺は女子生徒たちの群れをかいくぐり、教室にいたポロン先生に状況を尋ねた。
「学園に侵入した賊が捕まったそうです」
やや落ち着きのない顔色で、ポロン先生は答える。スーツ姿なのは職員室に残って残業していたからだろうか。
「ウチの学校に保管されているブルマーで、エレガンスさに欠く行為をしていたようです。それでトラップに引っかかったようです」
ポロン先生が指さした先には、巨大な植物の幹が生えていた。マジック棒倒しの際に使用された植物型の魔獣の一種を、トラップとして利用していたのか。
植物は幾重にも絡み合いながら、怪盗と思しき男に巻き付いていた。男の全身は植物に覆われており、顔は確認できない。男の側にはブルマが入った袋と、無数のブルマが散乱している。
「あの男が、怪盗エロス?」
予想外の展開に、俺は息をのんだ。想定していた怪盗エロスの姿とは、似ても似つかない存在だったからだ。しかも男はどこかで見た覚えのある人物だった。
「何度も学園に忍び込めると思うなよ。ひそかに罠を追加しておいて正解だった」
男の胸倉をつかみながらネイ先生はそう言い放つ。
ネイ先生は用心深く右手に剣を携えながら、怪盗の素顔を確認しようと、左手で顔を覆っていた植物をぬぐおうとし、
「待て! そいつは──」
ようやく犯人に気づいた俺は、思わず叫んだ。
だが既に遅かった。顔だけは自由になった怪盗は、口元に不気味な笑みを浮かべると、
「エレガンストーンよ、こ奴を拘束し、わが身を開放せよ!! 〝優雅さこそ校則なり!(エレガンス・イズ・ザ・ルール)〟」
男が叫ぶと同時に、学園の壁が隆起して触手のように伸びて、ネイ先生の身体を捕らえる。同時に、男は自身の拘束を振りほどき、自由の身となった。
「こ、校長!?」
その小太りの男の姿には見覚えがあった。ダイナ校長その人だったからだ。
「至高の宝であるブルマを廃棄処分しようなどとは、許せん。人類に対する犯罪である」
ダイナ校長は意味不明なことを全力で叫びながら、廊下に仁王立ちになる。その目は尋常でないほど充血してた。もはや正気を失っているらしい。
「賦与魔法、ブルマ光線!!」
あっけにとられている俺たちに対して、ダイナ校長は瞳から魔法を放つ。
「きゃ!」
「何これ!?」
「体操着!?」
「ブルマだ!」
光に当たった先生方と女子生徒が強制的に着替えさせられ、次々とブルマ姿になっていく。
「ノートン君、あれは何の魔法?」
俺とレイナはとっさに教室の壁に身を隠し、校長の動きをうかがう。
「強制的にブルマ姿にする賦与魔法。おそらく、校長の天命はブルマだ」
「なんて残念な使命!」
アイテムによらない天が与えたという生来の魔法、賦与魔法は全てが素晴らしい効果を持つわけではない。時にはくだらない効果だってある。
「きゃあっ!」
という悲鳴をあげながらポロン先生が光線に巻き込まれ、ブルマ体操着姿になった。左右に動く大きな胸に長く美しい生足と、ブルマに包まれた美しいヒップ。大人の女性の魅力を放つそのあられもない姿に俺も思わずドキッとしてしまう。
「ノートン君、止めなきゃ」
「ああ、それにはエレガンストーンを奪うしかない」
ブルマ光線は服装をブルマにするだけのくだらない能力だったが、エレガンストーンの方は厄介だった。あれを持たれている限り、学園の戦域魔法がダイナ校長に味方するからだ。
「レイナ、行くぞ!」
「うん!」
俺とレイナは一緒に飛び出すと、俺はポケットから取り出した〝蚊取り閃光〟に火をともして放り投げる。直後、すさまじい閃光が辺りを支配した。
「何だこの光は!? ──むっ、エレガンストーンが、ない!」
強烈な光から回復した校長が気付いた時には、彼の手にエレガンストーンはなかった。
「探しているのはこれかな?」
レイナは少しイジワルそうに微笑みながら、ダイナ校長に問いかける。その右手には、エレガンストーンが握られていた。さすがは怪盗エルフ、あの一瞬で奪い取ったのか。
「エレガンストーンよ、ダイナ校長を拘束せよ、〝優雅さこそ校則なり!(エレガンス・イズ・ザ・ルール)〟」
今度はレイナがエレガンストーンを手に、校舎の戦域魔法を発動する。キャロットスカートをなびかせながら高々と右手を掲げるその姿は、見惚れるほど高貴でエレガントだった。




