不幸になる部屋の秘密
「不幸になる部屋の七不思議の正体はこれだ」
俺は青白い宝石を手にとり、レイナたちに見せた。
「これはトルル石といってね、魔法の効果を有する魔法石の一種だ」
「どんな効果がある魔法石なの? ノートン君」
「トルル石は若い女性が嫌がる振動をだすもので、女人禁制の神殿等で使われてきたものだ。おそらく女子生徒がこの部屋に近づかないように、設置したものだろう」
「わたしたちの気分が悪くなってるのは、この石が原因ってこと?」
「実際、俺は何も感じないしな」
「じゃあノートン君、不幸になる部屋の正体って言うのは……」
「それは気分が悪くなることから派生した噂にすぎないんだろう」
「な~んだ、びっくりした」
「お化けじゃなかった」
レイナとカレンは安心したのか、ホッと息をついている。
「ところでカレン、記憶を失う前の君はここまで来たと思うか?」
「う~ん、どうだろ……魔法石の効果はかなり嫌だから、帰ったかもしれないけど、せっかく忍び込んだなら無理して入ったかもしれないし……」
「ふむ。では道具箱の中身も確認していくか」
俺は道具箱を開け、次々とその中身を確認していく。
「む? これは珍しい魔法具だ」
道具箱から一つの手鏡を取り出すと、俺は目を細めた。
「それは何なの? ノートン君」
「これは〝フェイクミラー〟といって、写したものとそっくりのフェイク品を作ることができる魔法具だ」
「え~、便利だね。ところでノートン君、フェイク品って、贋作やコピーとどう違うの?」
「アイテム商達は偽物のことを総じて贋作と呼ぶが、形を似せただけで、能力はコピーできないものをフェイクとよんでいる」
食品だったら食べられないし、魔法具だったら使えない。人間だったら人形がそうだ。対してより上位の、形だけでなく能力も似せたものをコピーとして区別していた。
「ふ~ん、フェイクはあくまで形だけってことね」
「この鏡は呪いがかかっていないようだが、鏡の魔法具は厄介な呪いがついていることが多い。そのため、ここに保管されているのだろう」
「じゃあこれが〝不幸になる鏡〟の正体だね」
「おそらく、学生が不用意に写らないようにここに安置されていたんだろう。残る女子生徒の幽霊の噂も根拠がありそうだ。探してみよう」
俺は倉庫の中の探索を続行する。道具箱の群れの奥には、布がかけられた大型の荷物が安置されていた。俺はその布を取り、中身を確認した。
「……やはりあったか。これが〝夜中に徘徊する髪の長い女子生徒の幽霊〟の正体だ」
布の下には長い黒髪に東洋の衣装を着た、十歳くらいの女の子を模した人形があった。
「ノートン君、これは、東洋の人形?」
「ああ、人間の女性の髪の毛で作ったとされる人形だ。髪だけなく体も服も、人間の髪を染めたものを編み込んで作っている。人形の顔をよく見てみるといい」
レイナは人形の顔をのぞき込み、
「きゃあ、目が動いた!」
悲鳴と共に、腰を抜かしていた。
「こいつも魔法具の一種で、目だけでなく、体も動く。もちろん歩くことも可能だ」
「だったら先にそう言ってよ、ひど~い!」
「やはり生徒たちの髪が入っているな」
俺は人形の中を覗き込む。中には女性のものと思われる髪の毛の束が入っていた。
「ノートン君、どういうこと?」
「この人形は人間の髪を集める機能がある。おそらく夜中に校舎中の髪を集め、回収しているのだろう」
「お掃除魔法具ってことか。これもお化けじゃなくてよかった」
レイナはホッとした顔をしている。
「じゃあこの子が〝夜中に徘徊する髪の長い女子生徒の幽霊〟の噂の正体ということだね、ノートン君」
「問題は、なぜコレが人目を避ける部屋に安置されていたかだ。別に隠す必要はないはずだ」
「それはそうだね、どうして隠してたんだろう?」
「それは奥の部屋を調べればわかるかもしれない」
教室のさらに奥にある部屋。地図上では、教室の備品を保管するための部屋で、この教室からしか侵入することができない。
俺は部屋のドアノブに手をかけた。
直後、耳を刺すようなけたたましい音が学園中に鳴り響いた。
「これは、エレガンスベル! 学舎内に品性に欠ける者が侵入した時に鳴るベルだよ」
血相をかえたカレンが叫ぶ。つまりは、学園の警報装置か。
「わたしたちの侵入のせいかな?」
「いや、鳴っているのは新校舎の方だ。向こうで何かあったようだ。行ってみよう」




