怪盗エルフの噂
ランド亭に戻った頃にはもう夜も暮れていた。
「おかえり、ノートンちゃん。おや、元気ないね?」
カウンターに座った俺に対し、ララさんが明るく話しかけてきた。民衆たちは姫の話題で沸きたっていたが、その中でひとりさえない表情の俺を気にかけてくれたのだろう。
「広場の方はどうだったんだい? ノートンちゃん」
俺はララさんに対し、広場でのことを説明する。
姫が登場したこと、姫が天位魔法で魔獣を撃退することを約束してくれたことなど、かいつまんで話した。いいニュースばかりのはずだが、俺の気分は晴れなかった。
「ふ~ん、レイネシア姫は綺麗だった?」
ララさんはジト目でそんなことを聞いてきた。
「ああ、綺麗だったよ」
別に否定することもないので、正直に答える。疲れがどっとでた気がしたため、「ふう」とため息をついた。
「ため息なんかついちゃって、ノートンちゃんもお年頃だね」
「そんなんじゃないさ」
「さあ、どうだかね」
ララさんは何がうれしいのか、意味深に微笑む。どうもこの手の女性は、なんでも恋愛に結び付けようとしている気がする。
「そういやこっちでも耳寄りな情報があったよ。例のドレッドノート・レースの話だけどね」
「なんだ、あの怪盗たちの競い合いの話か」
ドレッドノート・レースとは大怪盗ドレッドノートが王国に隠したという〝至高の宝〟を探す怪盗たちの争奪戦だ。しかし七年たっても至高の宝とやらが見つからなかったため、それらは次第に意味を変え、今では盗みの技術を競う怪盗同士の功名争いレースになっていた。
「最近だと怪盗エルフが人気で、この前も悪徳商人のお屋敷から財宝を奪い取ったんだってさ。怪盗エルフは盗んだ財宝を貧民街に施す義賊で、しかも可愛いエルフの女の子らしいよ?」
また恋愛の話か。ララさんは猫人の俺にどうしろというんだ?
「エルフなんて北の森の奥にしかいないはずだ」
「どうだろうねえ、一人で来ているのかもしれないしね」
「あんまり興味ないな」
大多数の民衆にとっては、怪盗は金持ちから宝を奪うという小気味の良い連中かもしれない。だが商人である俺にとっては、迷惑以外の何者でもなかった。
店も混んできたので、会計を済ませてランド亭を後にすることにした。




