怪盗エルフの噂
ランド亭に戻った頃にはもう夜も暮れていた。
「おかえり、ノートンちゃん。おや、元気ないね?」
カウンターに座った俺に対し、ララさんが明るく話しかけてきた。民衆たちは姫の話題で沸きたっていたが、その中でひとりさえない表情の俺を気にかけてくれたのだろう。
「広場の方はどうだったんだい? ノートンちゃん」
俺はララさんに対し、広場でのことを説明する。
姫が登場したこと、姫が天位魔法で魔獣を撃退することを約束してくれたことなど、かいつまんで話した。いいニュースのはずだが、俺の気分は晴れなかった。
「ふ~ん、レイネシア姫は綺麗だった?」
ララさんはジト目でそんなことを聞いてきた。
「ああ、綺麗だったよ」
別に否定することもないので、正直に答える。疲れがどっとでた気がしたため、「ふう」とため息をついた。
「ため息なんかついちゃって、ノートンちゃんもお年頃だね」
「そんなんじゃないさ」
「さあ、どうだかね」
ララさんは何がうれしいのか、意味深に微笑む。どうもララさんは、なんでも恋愛に結び付けようとしている気がする。
「そういやこっちでも耳寄りな情報があったよ。ドレッドノート・レースに関する噂だけどね」
「なんだ、あの怪盗同士の競い合いについてか」
ドレッドノートとはかつて王都で活躍した伝説の大怪盗のことだ。盗めぬものはないと言わた気高き義賊であった彼は、七年前にとある言葉を残して消えた。
『最後に私が盗んだものを教えよう。それはこの国の秘宝にして天にとどきうる神秘。私はその宝を盗みこの国に隠した。いつの日か知るがいい。私が盗んだ〝嗜好の宝〟の真の価値を』
彼が人知れず処刑されたのか、今なおどこかに潜んでいるのかはわからない。ただ人々は彼の言葉を信じた。そして彼が王国に隠したという〝至高の宝〟を巡って、多くの人々がつるはしを手に、国中を掘り返す勢いで彼の秘宝を探し求めた。
しかし七年たっても至高の宝とやらが見つからなかったため、ドレッドノート・レースは次第に意味を変え、今では盗みの技術を競う怪盗同士の功名争いレースになっていた。
「最近だと怪盗エルフが人気で、この前も悪徳商人のお屋敷から財宝を奪い取ったんだってさ。怪盗エルフは盗んだ財宝を貧民街に施す義賊で、しかも可愛いエルフの女の子らしいよ?」
また恋愛の話か。ララさんは猫人の俺にどうしろというんだ?
「エルフなんて北の森の奥にしかいないはずだ」
「どうだろうねえ、一人で来ているのかもしれないしね」
「あんまり興味ないな」
大多数の民衆にとっては、怪盗は金持ちから宝を奪うという小気味の良い連中かもしれない。だが商人である俺にとっては、迷惑以外の何者でもなかった。
店も混んできたので、会計を済ませてランド亭を後にすることにした。




