学校の七不思議
お昼の給食時間の後、俺はレイナとカレンの二人から情報の提供を受けるため合流していた。場所は臨時講師に与えられる教室ということなので、今度は生徒たちも来ないはずだ。
「え~と、まず記憶を怪盗に盗まれた被害者についてだけど、面白いことがわかったよ。被害者はあたしを含めて三人だけど、最初の一人は怪盗エロスの犯行カードが無かったの。怪盗エロスの犯行カードが発見されたのは、二人目以降ね」
カレンが新たに提供した情報は、初めて聞く興味深いものだった。
「一人目はカードの作成が間に合わなかったとかかな?」
レイナは不思議そうに顔を傾けた。
「だとしたら少し変だ。セキュリティが厳重なマホジョに潜入するのに、それなりに準備が必要なはずだ。カードの作成が間に合わないはずがない。カレンは怪盗エロス事件より前に、生徒の記憶を喪失したことがなかったか調べてほしい」
「わかったノートン先生。先輩に聞いてみるよ」
「あとねノートン君、廃止になったウチのクラスのブルマは、悪用されることを避けるため、回収して処分するみたい」
「ノートン先生、悪用って、どんな使い方するの?」
「……変態たちの考えることはよくわからないから、考えても無駄だ。カレン、他に気になる噂とかがあったら教えてほしい」
「怪盗とは関係ないかもだけど、学校の七つの怪談とかならあるよ」
カレンはそういう噂話は詳しそうだった。
「聞かせてほしい。どこの学校でも怪談や不思議な噂があるものだが、ひょっとしたら何かヒントになるかもしれない」
「まず一番が美術室のヴィーナスの人形。なんとウエストがどんどん細くなっているらしいの」
「そ、それは怪談なのか?」
「噂によると、女子の理想とされるウエストサイズが小さくなってて、ヴィーナスの像のウエストはそれに合わせて細くなっているとか」
「なにそれ怖い!」
怪談が予想外に怖かったのか、レイナは思わず叫び声をあげている。
「そんなに怖いか?」
俺にはいまいち怖さがわからない。
「二番は、校舎のどこかに謎の部屋があって、〝神隠し〟にあって失踪した生徒が石像になって保管されているとか」
「それはちょっと怖いけど、失踪する生徒なんているの?」
「う~ん、急に来なくなるコはいるよ。ただ家の事情による、突然の転校とかだと思うよ」
カレンが言いにくそうに答える。貴族の女子とはいえ、いろいろとあるのだろう。俺も少し気になったが、深く追究することはやめておくことにする。
「三番が入ると不幸になる教室。旧棟の使われていない部屋に入ると不幸になるとか、呪われるとか言う噂があるよ」
それも少し気になる。何か部屋に秘密があるかもしれない。
「四番は、生徒の幽霊の噂。髪の長い小柄な生徒が、夜な夜な学園内を徘徊しているとか。昔事故で亡くなった生徒だって噂よ」
「ゆ、幽霊!?」
レイナはよほどお化けが怖いのか、顔も唇も真っ青にして震えている。
「そ~、あたしもぜひ会ってみたいんだけどね、やっぱり夜来ないとだめなのかな~」
「会えなくてよかったよ~」
レイナにも苦手なものがあるとは、新鮮な驚きだった。
「五番は、呪いの鏡の噂。この学校のどこかに謎の鏡があって、それに写ると不幸になるとか。六.七番は空番みたい」
「七つもない上に、そもそも怪談ですらないな」
「どちらかというと、怪談というより七不思議って感じだね」
まあ学校の怪談や七不思議など、そんなものかもしれない。
「最後にカレン、頼んでいたコンパクトのでどころはわかりそうか?」
「どうもうちのクラスに引き継がれてる魔法具みたい。先輩達に聞いてるとこだから、もうちょっと待っててね」
「こちらこそ、いろいろと頼んですまない。キツかったら、別に無理しなくてもいい」
「大丈夫。探偵みたいで楽しいしね。それに、あたしがどんな記憶を盗まれてか、知りたいし」
「恥ずかしい秘密らしいが?」
「だからこそ、他人より先に回収しなくちゃだよ。怪盗エロスをとっちめてね」
「そうか……だが、もし犯人が、先生や生徒の中にいた場合は、どうする?」
「ウチの生徒や先生に、犯人なんているわけないよ」
俺の言葉を、カレンはきっぱりと否定する。
「だがこの学園のセキュリティは相当なものだ。外部からの侵入は難しい。となると怪盗エロスは内部の誰かである可能性はある」
「え~、ないよ。だって先生も生徒もみんな女性だし、あたしたちの恥ずかしい記憶を盗んでも仕方ないだろうし……」
「例えば、金持ちの娘の恥ずかしい記憶を、お金で買い取らせるとか?」
「自分でも忘れてる恥ずかしい記憶でゆすられるとかヤダ~」
話を聞いていたレイナが変な声で叫ぶが、俺は話を続けた。
「カレン、誰か経済的に困っている人はいないか?」
「う~ん、特待生を除けばみんな貴族のコだけど、家の事情まではわからないかな」
そんなやり取りをしていると、生徒たち数名が講師室にやってきて、俺を囲んだ。
「あ、先生ここにいたんだ」
「ノートン先生発見!」
体育の授業で汗を流した生徒たちは、シャワー室で汗を流したらしい。生徒たちの体からは、シャンプーのいい匂いがした。
「先生のために砂場におトイレ作ったよ」
「猫砂よ~」
「……トイレは人間用のを使うから、問題ない」
嬉しくない気遣いだった。
「でもウチ女子校だから、男子トイレないよ?」
「来客用のトイレがある」
「人間用のおトイレ使えて、えら~い」
「別に偉くない。もう次の授業だから、さっさと戻りなさい」
俺が教師らしく仕切ると「は~い」「また後でね~」と女子生徒たちは嬉しそうに去っていく。
「ふう、教師はやっぱり大変だ」
「生徒たちにデレデレしちゃって……ノートン君は、思ったより浮気性かも」
「まあ、ノートン先生もオスだしね。一皮むけば野獣なんだよ」
「俺は野獣でもお供アニマルでもない」
「で、これからどうするのノートン君」
「うん。学校の七不思議を調べようと思う。今夜八時に、カレンは校門前に来ることができるか?」
「え~と、あたしは寮生活だけど、多分抜け出られると思うよ」
「おそらく可能なはずだ。ではよろしく頼む」




