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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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クラス対抗戦

 ネイ先生のスタートの合図とともにA組の女子生徒たちの大半がホウキにまたがり、一斉に空へと飛び立つ。中でも華麗に飛んでいるのはカレンだった。カレンに指揮されたA組のオフェンス陣は、三日月の陣形でB組の陣地に迫る。レイナはディフェンス組で待機していた。

 対するB組の生徒たちの半数が、ホウキで垂直上昇する。自陣の真上に展開し、迎撃の構えだ。

 B組の陣の上空で、戦闘は開始された。

「ファイアー・ボール!」

「アイス・ボウ!」

 ホウキに跨りながら、彼女たちは手のひらから魔法を放つ。

「驚いたな、あれは、賦与魔法か」

 魔法具のホウキを扱いながら放たれる魔法は、アイテムによらない生来の魔法、つまり賦与魔法だった。

「はい。生徒たちの多くが、自身の賦与魔法に目覚めています」

 さすがは貴族、コストのかかる賦与魔法を開眼しているようだ。

 B組陣地上空で、魔法の火炎玉や氷の矢が飛び交う。威力は見るからに低めだが、その代わりに呪いはなさそうだった。加えて体育館に施された戦域魔法の影響で、被弾してもケガすることはなく、撃墜された生徒たちは陣地や場外のクッションの上に落ちていく。

 俺の見る限り、空中戦ではA組の方に分があるようで、次第に優勢になっていった。

「ノット、エレガンス! B組14番失格!」

「きゃ~」

 ポロン先生が叫ぶと同時に、体育館から伸びた触手のようなものがB組女子の身体を拘束し、クッションの上にポイと投げ捨てる。乱戦でA組女子の制服をひっぱっていたようだ。

「あれが校舎の戦域魔法なのか?」

「はい。エレガンスに欠ける者を、拘束する効果がある学舎にかけられた戦域魔法です。今回は私が審判も務めていますので、校長からこれを借り受けて来ました」

 ポロン先生の手元にあるのは、上品な彫刻が施された宝石だった。これも魔法具らしい。

「これは〝エレガンストーン〟といいまして、持つ者の優雅さを飛躍的にアップさせることができる魔法具です」

「エレガンストーン!?」

 またもや俺の知らない奇妙な名前の魔法具だった。

「はい。これを持っている限り、学園の戦域魔法を、自由に使うことができるのです」

 なるほど、あの触手のような戦域魔法は、学園で一番優雅な者の命令を受けるのか。

『個人的に学生さんに触手プレイは、少し早いと思いますね~』

 イエローストーンは小声で妙なことを気にしていた。そういう問題だろうか。

 空を制したA組は、カレンの「突撃」の合図で一気に高度を落とし、B組の旗を狙う。

 しかし悲鳴をあげたのは、勝利を確信したはずのA組の生徒たちの方だった。

「きゃああああ!」

 突如B組の陣地から、巨大な植物が生え、そのツルが次々とA組の生徒を拘束していく。魔法植物のトラップを仕掛けていたようだ。

「あれは、魔法具の魔獣!?」

 B組のガードの少女が抱えている鉢植え。それは巨大な食虫植物のような魔獣を使い魔として使役する魔法具のようだった。まさか魔獣まで持ち出してくるとは、俺も予想外だった。

「あれは使い魔です。各組一体まで使用が許されています」

「あれだけの魔力、どうやって供給しているだ?」

『どうやら、秘訣はあのダンスみたいですね』

 イエローストーンが指摘したとおり、B組の生徒の一部がチアのようなダンスを踊っている。それが魔力の供給源らしく、ダンスに合わせて植物が動いているようだった。

 なるほど、彼女たちの応援が、魔力になっているのか。

 魔力の源は多岐にわたる。友情や応援、華美なダンスなどを供給源にすることは可能だった。

「ダンスにあわせて動く植物、あんなオモチャあったなあ」

『のんきなこと言ってる場合じゃないですよ、このままじゃ負けちゃいますぅ』

 イエローストーンの言う通り、拘束されていたA組の生徒たちは次々と地面に放り出され、場外の判定を受けていく。

 予想外の魔獣の出現に、A組の生徒たちは一斉に自陣へと逃げ出す。だが想像以上に魔獣にやられた生徒が多く、自陣に戻れた生徒は少ない。レイナもなすすべもなく立ちつくしていた。

「ポロン先生、A組には使い魔はいないのか?」

「はい。今は使い魔を操る生徒はいません」

『ご主人。わたくしに作戦があります。ポロン先生に依頼して、タイムをとっていただけますか?」

「ああ、わかった」

 俺はポロン先生に頼み、一分間試合を中断してもらった。さらにイエローストーンに従い、レイナに来てもらった。

「イエローストーンに何か作戦があるらしい」

「なあに、イエローちゃん?」

 やってきたレイナに、イエローストーンが何やら耳打ちしている。ブルマ姿の彼女は汗だくで、汗が光ってキラキラしていた。

「それはとてもいい考えだと思うよ」

 イエローストーンから秘策を授けられたレイナは、俺を見ながら意味深に微笑んだ。なにやら嫌な予感がする。

「A組も使い魔を召喚します」

 陣地に戻ったレイナは宣言する。はて、レイナに使い魔なんていただろうか?

「わたしの使い魔は、ノートン君です!」

「おおおお!」

 歓声が沸き起こり、みんなが一斉にこちらを向く。

『さあさあご主人、陣地へ。レイナさんが待っています」

「ええ……」

 イエローストーンにせかされ、俺はドン引きしながらも陣地へと向かう。

「異議あり。猫人の使い魔なんておかしいわ」

「そうよそうよ」

 B組の生徒たちは次々と反対の意見を述べる。そうだ、もっと言ってくれ。そもそも俺はアイテム科の臨時講師のはずだ。いつからレイナの使い魔になったんだ。

「ノートン君は、魔法を使う女子の側にいる動物、いわゆる〝お供アニマル〟で、使い魔の一種です」

「誰がお供アニマルだ」

 レイナがひどいことを言う。俺はレイナのお供でもアニマルでもない(はず)。

「確かに〝お供アニマル〟は猫型が多いわね」

「猫人でもギリOKかも」

 B組の生徒たちは、何故か納得する。ついに審判のポロン先生とネイ先生までもが、

「ノートン先生をレイナさんの使い魔として参加を認めます」

 と許可してしまった。〝お供アニマル〟という使い魔は、女性達の間では当然のモノと認識されているらしい。

「タイム終了。試合再開」

 俺を加えた上で、試合が再開されてしまった。


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