ホームルーム
「ではノートン先生とレイナさんは、朝のホームルームの場で臨時講師と体験学生ということで紹介しますので、自己紹介をお願いしますね」
「わかりました」
「了解です」
ポロン先生に連れられ、俺たちは学舎内のA組の教室前の廊下に立っていた。
レイナは「仲良くなれるかな」と珍しく緊張している様子だった。その様子は普段の前向きな姿でも、威厳すら誇る姫としての姿でもなく、不安げな女子学生そのものだった。いったいどの姿が本当のレイナなのだろう、と思う。サーシャはC組なので、校内では別行動になる。
「まあA組にはカレンもいるし、きっと何とかなるさ」
どちらかというと俺自身の方が心配だ。俺は呪い付きの猫人だ。貴族出身の女子学生たちにキモがられたらどうしよう。
「みなさん、こちらがアイテム科の臨時講師のノートン先生と、体験生のレイナさんです」
一緒に教室に入ったポロン先生は、ホームルームを始めると真っ先に俺とレイナを紹介してくれた。着席しながらこちらを見つめる女子生徒たちは、あっけにとられた表情で俺たちの方を見つめ息をのむばかりに驚いていたが、しばらくして一斉に黄色い声をあげた。
「きゃああ、男の先生よ!」
「猫人よ?」
「でもオスよ!」
「もう猫人でもいいですの!」
「あ、裏切り者!」
「むしろ猫人の方が、かっこよくない?」
「あ、ケモナー発見、たいほー!」
「きゃー、変なとこ触らないでよ!」
「先生は結婚してますか? うちの飼い猫のタマちゃんとお見合いしませんか?」
「しないニャ」
緊張のあまり、思わず舌を噛んで猫っぽく答えてしまった俺の返答に、女子生徒たちは再び色めきだつ。
「きゃあ、『にゃ』だって!」
「語尾が猫語だ。可愛い!」
「あざとい、かわいい、ずるい!」
「これが萌え!? 萌えているのね私!」
「ダメよ! 先生の縁談なんて私が許さないわ!」
と女子生徒の一人が立ち上がって叫ぶ。
「あんたノートン先生の何なのよ(笑)」
「私はメス猫となら結婚しててもいいけど」
「あ、不倫女発見、たいほー!」
「きゃー、だから変なとこ触らないでよ!」
猫人の俺に対し、生徒たちは全力ではしゃいでいた。覚悟していた嫌悪の態度ではなく、むしろ珍しさが勝っているようで、いささか拍子抜けする。
「せんせ~、私、猫人をもっと近くでみたいです!」
俺を間近で見ようと誰かが挙手した瞬間、生徒たちが次々と席を立ち、教壇にいる俺を囲んだ。
続いて「体験学生のレイナさんも、すごく可愛くない?」と、レイナの方に関心が移ったのか、半分くらいの生徒たちがレイナを囲む。彼女もまた、熱烈な歓迎を受けていた。
「レイナちゃん、ちょっと雰囲気がレイネシア姫に似ているね」
「……あはは、そうかな?」
似ているというか本人なんだが、贋作リボンの効果で偽物と認識されているようだ。
「レイナちゃん、髪も肌も綺麗!」
「エレガンス度高い! いいとこのコなの?」
「どんな美容系の魔法グッズを使っているの?」
「え~と、美容系の魔法グッズは使ってないよ」
レイナが答えると、今度は美容魔法具のおすすめタイムが始まった。
「この化粧水すっごくいいよ、肌がスベスベになるの。呪いでちょっと肌がかゆくなるけど」
「肌は凄く綺麗だね。かゆいのはちょっと苦手かな」
「このヘアピンはどう? 髪がツヤツヤになるよ。呪いで髪の色が緑色に変わっちゃうんだけど、それもお手軽に髪色を変化させられて便利なんだ」
「へ~、髪は綺麗だね。それにお手軽に髪の色を変更できるのもいいね」
「このリップもおすすめだよ。唇がプルプルになるの、でもウソがつけなくなる効果があるんだ。この前も『かつらがズレてますよ』って知らない人に言っちゃったんだ」
「嘘がつけなくなるのは、ちょっと怖いかな。唇はすごくきれいだね」
「このシュシュはどうですの? 髪が綺麗にカールするのですの、でも呪いで語尾が変になるですの」
「あ~、そういう魔法具はあるよね。カールはとってもかわいいね」
「このコンパクトもすごいよ。〝美灰のコンパクト〟っていうんだけど、目指したい女性の髪の灰を入れておくと、ほんの少しだけその女性に似てくるの。社交界のスターの髪の灰とか、歓楽街の歌姫のとか、いろいろあるよ。試してみない?」
「へ~、それはすごいね。でも、わたしは自分の顔でいいかな」
というか彼女たちは美女の髪の灰なんてものをどうやって手に入れたのだろう? と俺は聞き耳を立てながら心の中でつっこんでいた。
「──はい。ホームルームは終わりです! みなさん、移動教室の準備をしてください」
女子生徒たちのやり取りをしばらく眺めていたポロン先生が、頃合いをみてホームルームの終了を告げる。女子生徒たちはおしゃべりをやめて一斉に席に戻ると、移動教室の準備を始めた。明るく活発だがポロン先生のいうことはきちんと聞く、いい生徒たちだった。




