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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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脱出

『ご主人。何やら外の様子が変です』


 イエローストーンの声に、俺は全神経を猫耳に集中させる。


「確かに、これは──」


 大勢の人間の足音と、漏れ聞こえる男たちの声。それは伯爵やブランの私兵とは異なるものだった。俺は慌ててベランダに駆け寄る。


「どうしたのノートン君?」


 ベランダから見えたのは、軍服を着た兵士達の姿だった。服装からして親衛隊か。


「どうやら内務省の親衛隊が伯爵の屋敷に侵入したようだ」


「ええ!」


「伯爵とブランの私闘の鎮圧を口実に、介入したのだろう」


 この迅速な対応は、さすが敏腕で知られる内大臣だ。とはいえ、いくらなんでも早すぎる。


「まずい、退路を封じられた」


 退路として確保していた通路からも声が聞こえる。伯爵が私室に設けていた脱出通路を使って逃げる算段だったが、甘かったようだ。背中から嫌な汗が滝のように流れ落ちるのを感じる。どんなに考えても、逃げ出す手段が思いつかない。


「ノートン君、わたしに任せて」


 そんな俺に対し、レイナは俺に手を伸ばしてくる。


「一緒にここから、跳ぼう」


「ここから!? またイマジンドレスを使うのか?」


「ううん、〝浮気者のニーソックス〟を使うの、見てて」


 レイナが瞳を閉じ、魔力を下半身に込める。レイナのニーソックスが魔力で光り、スカートがなびく。直後、彼女の身体がふわりと浮き上がった。


「すごい、短期間でここまで使いこなせるようになっていたのか」


 練習しておいてくれと頼んだのは俺だったが、まさかここまでとは思わなかった。


「今のわたしなら、ノートン君と一緒でも跳べると思う」


 レイナは微笑みながら、見つめてくる。月明かりに照らされたその瞳は、驚くほど高貴で頼もしく、美しく見えた。


「──信じて、くれるよね?」


「ああ、わかった」


 俺はとっさにレイナの手を取る。事前練習もあったものではない、いきなり本番という無謀な賭けだったが、彼女が起こした奇跡を目の当たりにした今となっては、迷いは微塵もない。


「うん、まかせて」


 と、レイナは嬉しそうに手を握り返してくれる。繊細なその手から、温かい魔力が流れ込んでくるのがわかる。高まる心臓の鼓動。同時に、確かに自身の体が軽くなった気がした。


「じゃあ、ひとっとびするね。さん.にー、いち」


「「ゼロ!」」


 カウントダウンが終わると同時に、俺たちは手をつないだまま思いきりテラスを蹴り、外へと身を乗り出す。ゼロの掛け声は全くの同時だった。


 はるか眼下に地面が見える。数十メートルはあるだろうか。レイナが重力制御に失敗したら、俺たちはあの地面に激突して真っ赤なトマトのようになるだろう。だがそれでも悔いはないと思うほど、気分は晴れやかだった。


「やった~、大成功」


 レイナの歓喜の声により、そんな覚悟は不要だったことをすぐに思い知った。軽くなった俺たちの身体は、信じられないほどの跳躍力で空を駆けていたからだ。眼下に広がる夜の街並み。火事や私闘で喧噪の中にある伯爵邸と異なり、月明かりの下で王都はまだ静かに寝静まっている。


 その中を、まるで翼を広げた鳥のように、軽やかに滑空する。


「すごい、短期間であのニーソックスをここまで使いこなせるようになっていたなんて」


「うん。ノートン君がくれた贈り物だからね。とっても相性がよかったんだと思う」


 魔法具には相性があるというが、それが抜群に良かったということか。それでも、レイナの努力があってのことだ。


『すごいですけど、ご主人が女性に贈った初めてのプレゼントがソックスとか、マニアックすぎて先が思いやられます~』


『がはは、脚フェチのヘンタイだな~』


 安心したのか、イエローストーン達が悪態をつく。ホッと一息つくように、頬を緩めるレイナ。だが俺の視線の先は、別のものを見ていた。


 ──あれは、レオニード内大臣。自ら来ていたのか──


 王族の礼装の上にコートを身にまとった、銀髪に端正な顔立ちの長身の青年。伯爵邸の中庭で護衛と部下に囲まれながら、親衛隊の指揮を執っている。


 猫人の目を持っている俺には彼の姿はよく見えた。だが月明かりしかないこの状況では、内大臣は俺の顔を視認できないはずだ。そのはずなのに内大臣の瞳は、まるで刺すような鋭利な視線でまっすぐに滑空する俺たちを見つめているように、俺には感じられた。


「伯爵は消滅で、伯爵派は逮捕。怪盗エルフと怪盗キャットの初仕事は、大成功だね!」


 そんな俺の思いなど露知らずレイナが、嬉しそうに話しかけてくる。


「目的のものは盗めなかったけどな」


「ううん、反乱の芽を盗めたから、やっぱ大成功だよ!」


 初仕事は誤算ばかりで我ながら酷いものだったが、嬉しそうなレイナの笑顔を見ると、俺もつられて微笑んだ。











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