宝物庫のゴーレム
「すごいたくさんの魔法具だね!」
レイナが思わずつぶやく。宝物庫の中には、道具が所狭しと並べられていた。
「ひょっとして、伯爵が持っているという〝賢者の石〟もあるかも?」
「いや、ここにある魔法具は二級品ばかりだ。本当に大切な宝は、伯爵が肌身離さず持っているだろうから」
「そうなの? じゃあなんでここに来たの?」
「そりゃあ、お目当ての魔法具を盗むためだ」
俺は目当てのものがないか探りつつ、奥へと進む。
「──よし、見つけたぞ」
俺はポーチを手に取ると、中を開く。いくつか化粧品が入っていた。
「お化粧道具をさがしていたの?」
「ああ。レイナは美魔女ヴィラという名前を知っているか?」
「名前くらいは聞いたことあるけど、そんなすごい人なの?」
「約五十年前に王都の社交界で活躍し、突然姿を消した美魔女ヴィラ。幼少の頃より天才と言われ、長ずれば天にとどくとさえ謡われた伝説の女魔術師だ」
「天にとどく魔術師!?」
「だが彼女は道を踏み外し、その才能を人々のために生かす道を選ばず──」
「選ばず!?」
「自らの〝美の追求〟のために注ぎ込んだ」
「ええ~!?」
と、レイナは残念そうにずっこけた。
「その結果が美の魔女こと〝美魔女〟の称号だ。現在の彼女は王都のどこかに潜伏しているらしく、たまに流通する彼女の美容魔法具は、ご婦人たちが高値で引き取ってくれる」
「じゃあこのドロップは何か効果があるの?」
レイナも美容に関心があるのだろう。ドロップを興味深そうにつまみながら尋ねてくる。
「それは〝美魔女のドロップ〟と言って、二十個入りのドロップなんだが、一粒食べると一歳若返ることができる」
「すごい!」
「ただし一つだけ呪いがかかったドロップが混ざっていて、それを食べると三十歳、年をとる」
「ひゃあ、怖い! 食べなくてよかった!」
「勝手につまみ食いしないでくれよ」
「ひいふうみい……ノートン君、このドロップって十四個しか入ってないよ?」
「そりゃあ伯爵が六個食べたのさ」
「え~、なんかずるい!」
さすがにこれ以上食べるのは、リスクがあると判断したのだろう。とはいえ捨てるのもしのびないので、保管してたのか。
「このパックはな~に?」
「〝美魔女のパック〟というアイテムだ。パックすることによって顔の形状を記憶することができる。例えば、何年か前の若い頃のパックを保存しておけば、いつでもその頃の顔に戻れる」
「……何年も前のパックをつけるの? 顔に?」
レイナは苦虫を噛み潰したような、嫌そうな顔をしている。
「ほかにも、他人の顔の情報をコピーし、なりたい人間の顔になることもできる」
「……他人のつけたパックをつけるの? 顔に?」
レイナはやっぱり嫌そうな顔をしていた。
「……いくつかめぼしいものを貰っていくか」
俺はいくつかのアイテムを、自分のジャケットの内ポケットにしまう。
「すごい、そのポケット、なんでも入るんだね」
「これは〝運び屋のジャケット〟といって、ポケットが亜空間になっていて、ものを収容できる魔法具なんだ」
さらにポケットの部分が伸びる素材になっているため、かなりの大きさのモノも収納できた。ニャン古亭を引き継いだ時に、ララさんからイエローストーンと共にもらった魔法具だった。
「めぼしい魔法具は手に入れたし、隣には大きめの倉庫がある。行ってみよう」
奥の倉庫には武器が山積みされていた。ここは武器庫のようだった。
「すごくたくさんの武器。お城の武器庫みたい」
保管されている武器の中には、見慣れぬ巨大な武器があった。
「この鎧、人間が着るには大きすぎるよ。いったい何なの?」
レイナが見上げたのは、三メートルはあろうかという巨大な全身鎧だった。数にして数十体はあるだろうか。整然と並んだ全身鎧の集団は、不気味な威圧感を漂わせていた。
「これはゴーレムを改良し、装甲を施したものだ。外観は騎士の鎧だが、中身は古代の兵器だ」
「ゴーレムって、古代戦争の主力兵器じゃない!」
レイナが驚くのも無理はない。ローラント朝成立より昔の古代と言われた時代、魔獣の筋肉を改良して作られたゴーレムは戦争で猛威をふるい、多くの都市を破壊したと言われている。
「現代の魔法と技術で、改良中みたいだ。ここを見てくれ」
「これは、髪の毛?」
神経の代わりにゴーレムの各部位を接続していたのは、人間の髪の毛と思しき繊維だった。
「伯爵は髪の毛を操る魔法を有しているという。このゴーレムは毛根操作魔法で動くようだ」
「このゴーレムが動くの!?」
「ゴーレムを量産できれば、王制を倒すことも不可能じゃない。備蓄された武器からして。伯爵の謀反の噂は本当だったみたいだ」
「……つまり譜代の臣である伯爵家でさえ、裏切ってたってことね」
うつむき歯を噛みしめるレイナ。その表情は彼女にしては珍しく、ひどく曇っていた。
「どうしようノートン君。国民どうしで殺し合いなんて嫌だよ、何としても止めなきゃ」
レイナは泣き出しそうな気弱な声で懇願してきた。姫として、内乱は避けなければいけないと思ったのだろう。
「それは、俺たち怪盗ができる解決策をとるしかない」
「わたしたちができる解決策?」
「レイナはこれだけのゴーレムを、どうやって動かしていると思う?」
「どういうこと?」
「毛根操作魔法でこれだけのゴーレムを動かすには、膨大な魔力がいる。伯爵の魔力だけでは足らないはずだ。つまり彼は何らかのブースト、魔力を強化する手段を手に入れたことになる」
「魔力を強化する手段……つまり〝賢者の石〟!?」
「ああ、賢者の石を、伯爵が本当に持っている可能性が高まった」
「ってことは、それを盗めば内乱は防げる!?」
「怪盗エルフと怪盗キャットは義賊だからな。悪い伯爵から、謀反の芽を盗まないとな」
「うん!!」
希望を見出したのかレイナの瞳は輝きを取り戻し、いつも通り活気のある返答をしてくれた。
「で、ここからはどうするの?」
「このまま伯爵のところに乗り込む。情報によると、彼は最上階の私室にこもっているという」
「私室は、さすがに見つからずに乗り込むのは難しいと思うよ」
「ああ、ここから先は伯爵の私兵がウヨウヨしている」
「わかるの?」
「猫人の聴覚は優れているからな」
俺は猫耳をピクピクと動かし、耳を澄ます。
「もうすぐ、騒ぎが起こるはずだ。それに便乗する」
「なんで騒ぎがわかるって思うの?」
レイナが怪訝な顔をしたと思った矢先、屋敷の周辺から男たちの声があがる。
「喧嘩? わたしたちを見つけたわけじゃなさそうだけど」
あちこちから沸き起こる争う音は、まるで戦争のようだ。
「始まったな。時間が惜しいので、説明は走りながらする。ここからは強行突破だ」
「うん、わかった」
俺への信頼からか、それ以上は何も言わずレイナは快諾してくれた。




