解呪
「イエローストーン、変なこというな」
なんでも恋愛話にしてしまうイエローストーンのせいで、話が変な風に逸れそうだったので俺は話題を戻す。
「とりあえず第一は、レイナのチョーカーについてだ」
俺は再びレイナの首元を凝視する。
「これは南方で開発された隷属の魔法具だ。本来は奴隷の首にはめるものを何らかの魔法で改造し、チョーカー風にしたものだ」
「奴隷の首輪……」
レイナは改めてショックを受けている。だが構っている暇はないので、話を続ける。
「これは魔法で所有者の命令を遵守させる効果がある。レイナはどういう命令をされたんだ?」
「内大臣の命令に、服従するようにだよ」
「おそらく、命令はもっと具体的なもののはずだ。例えば〝私の命令には全て従え〟という広範囲な命令では効力が薄い。もっと限定しなければいけない」
「えっ、そうなの!?」
「レイナは、普段はどんな生活をしているんだ?」
「日中は与えられた公務だけを行っているよ」
「だとすると、効果は〝公務以外のことをするな〟だろうな」
それならこの魔法具の命令の範囲内に、ギリギリ収まる。
「え、それだけなの!? だって自由に言葉一つだせないんだよ?」
「私語は公務ではないからな」
公務は内大臣が設定できる。言葉を出せないなら、レイナが誰かに助けを求めることはできない。それは、俺が街で聞いたレイナの噂話と一致する。
「レイネシア姫は言葉を失っているという噂は、一部は事実だったのか」
「うん。わたしは喋れないと思っていた人は多いと思う。でも夜は自由に行動したり、喋ったりできるんだよ?」
「レイナはなぜだと思う?」
「多分だけど、内大臣が寝ちゃってるからかな?」
「不正解だ。チョーカーに太陽と月の彫刻が彫られている。これは日の入りと日の出を表していて、それが効果時間を示している。つまり隷属の魔法の効果があるのは、太陽が出ている日中だけだ」
「ええ!!」
「レイナは日没後は公務がない。そうだな?」
「うん。ずっと自室で待機させられているの」
「首輪の効力がない夜は軟禁か。とりあえず、このギアスの効果を打ち消そう」
日中だけとはいえ、事実上の奴隷状態というのはかわいそうだ。
「効果を打ち消せるの!?」
びっくりしている様子のレイナを尻目に、俺は道具箱から女性用のニーソックスを取り出した。
「レイナ、これをはいてみてくれ」
「うん、いいけど、これも魔法具なの? ノートン君の個人的な趣味とかじゃないよね?」
「……ああ、これも魔法具だが、今回はかかっている呪いの方が重要だ」
「えっ、呪われているのこれ!?」
「これは〝浮気者のニーソックス〟と言われるもので、主人への忠誠心がなくなる呪いがかかっている。この呪いにより、内大臣への忠誠のギアスを打ち消す効果があるはずだ」
「ギアスを打ち消す効果!?」
「不忠の呪いをもって、隷属魔法の効果を中和する。昔、似たようなことがあったときにギアスの呪を解除できたことがあったんだ」
「──うん。わかった」
意を決したレイナは恐る恐る、だが確かな手つきで俺からニーソックスを受け取ると、いそいそと履いていた靴下を脱ぐ。すらりとした長い脚は、驚くほど健康的で美しかった。ミニスカートの裾がひらりと舞い、危うく中が見えそうになる。
「よっと」
レイナは長めのニーソックスに手をかけ、履き始めた。ソックスを履くという単純な仕草からも、柔らかそうな太ももの弾力が伝わってくる気がする。
いけない、何、見とれているんだ俺は。
俺は慌てて後ろを向く。靴下の履き替えとはいえ、女の子の着替えを見ていいものではない。
「──あれっ!?」
なにか違和感を感じたのか、レイナは小さく声をあげた。
「なんだか少し、首のあたりが楽になった感じがする」
「イエローストーン、ギアスの効果は消えてるか?」
『確かに呪いによって、打ち消されてますね~』
念の為イエローストーンにも確認してもらうが、確かに効果は無くなったようだ。
「本当に、これで内大臣の命令の効果は、消えちゃったの?」
大きな瞳をパチパチさせて、レイナは驚いている。あっさりと効果が解けたことを、まだのみ込めていない様子だ。




