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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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アイテム商ノートン

第14回ネット小説大賞応募作です。

完結済。約13万文字(文庫本1冊分)あります。



 天にとどく魔法。

 あまたの魔法の中でもその神髄に達し、この世界を変えうるに至った神秘を、人々は敬意をもってそう呼んでいた。

 だが不届きにも、かつてそんな神秘を盗んだと豪語する怪盗がいた。

「最後に私が盗んだもの、それはこの国の秘宝にして天にとどきうる神秘。私はその宝を盗みこの国に隠した。いつの日か知るがいい。私が盗んだ〝至高の宝〟の、その価値を」

 王家の秘宝も伝説級のアイテムも、魔法や記憶さえも盗みだし、盗めぬものは無いとうたわれた大怪盗ドレッドノートは、最後にそんな言葉を残して姿を消した。彼が人知れず捕らわれて処刑されたのか、あるいはどこかで生きているのか。それはわからない。ただ絶大な人気をほこった義賊でもあった彼の言葉は、人々が信じるに足るものだった。

 人々はドレッドノートが隠したという天にとどくという至高の宝に魅了され、七年もの間スコップを持ちツルハシを抱え、王国中を掘り返す勢いでその宝を探し求めた。

 大怪盗の至宝とは何なのか、天にとどきうる神秘とはどんな魔法なのか。それを確かめ、自分のものとするために。

 その宝探しの競争は、いつしかドレッドノート・レースと呼ばれるようになった。


 衰退の色を隠せなくなってきたローラント王国にあっても、秋の収穫の前ということもあってか、王都はつかの間の活気を取り戻していた。その路地裏に不思議な店主が営む店がある。だが残念なことにその店が扱っているのは、ほとんどが奇妙な呪いがついたアイテムだという。

 店のドアに括り付けられている鐘が、小気味よく響く。この鐘はいわくつきの魔法具だった。客の目的によって音が異なるのだ。

 カウンターで魔法具の整理をしていた俺は顔を上げ、目を細めながら来客の姿を確認する。

 客人は若い男。鐘の音からして、客人の目的は魔法具の買い取りだろう。粗末な身なりと落ち着きのない客の表情からみて、王都の出身ではない。おそらく周辺の村から来た農民だ。

「うっ……」

 男は俺の姿を見て、ハッと息をのんだ。随分と戸惑っているようだ。当然だ。古物屋『ニャン古亭』を営む俺は、人間ではない。上品なジャケットにオシャレな蝶ネクタイを着こなした細身の体は、確かに人間のものだったが、首から上はまるで違っていた。

 顔全体を覆う茶と白の毛と、頭から天を向いて生えている巨大な耳。どんぐり色のつぶらな瞳に、横に飛び出た三対のヒゲ、微笑みの奥に潜む肉食獣を思わせる鋭い牙。

 その顔立ちは明らかに人間のものではなく、猫のものだった。

「いらっしゃいませお客様、私は店主のノートンと申します」

 客人の男を安心させようと、俺は名を名乗り、めいっぱい口角をあげ愛想よく微笑む。接客業のために必死で身につけた営業スマイルだ。

「こ、ここでアイテムの買い取りをしていると、聞いたんですが」

「もちろん、買い取りは大歓迎です」

 俺の愛想笑いに、客の男はようやく落ち着いてきたようだ。

 アイテムを扱う商人は、俺のように体の一部が変質している者も多い。なぜならアイテムには様々な不利益をもたらす呪いが宿っていることがあるからだ。

 おそらく彼は、アイテム商である俺も何らかの呪いを受けてると、考えたのだろう。

「これを、買い取ってほしいんです」

 男が懐から大切そうに取り出したのは、小さな腕輪だった。

「見たところ力をアップさせる効果がある〝怪力の腕輪〟ですな」

 俺は腕輪を手に取りこぼれおちる魔力から、効果を推測する。おそらく力の上昇率は1%もないだろう。この手の腕輪としては、効果は低い部類になる。

「しかし、これは贋作。呪いがついてます」

 男も知っていたのか、急に気まずそうな顔になる。

 呪いは、エネルギー消費が倍になるものか、あと筋肉痛も倍か。

 俺はさらに猫人の目を細めて呪いを解析する。筋力1%増しの効果の対価として、エネルギー消費と筋肉痛が倍になる効果は、呪いとしては割に合わない部類に入る。

 普通の店では買いとりは拒否されるか、買いたたかれるのがオチだろう。だが、

「こちらの商品ですと、一万コルでいかがでしょうか?」

「一万!?」

 俺の言葉に、客の男は驚いた声をあげる。呪い付きの欠陥品にしては、望外の高値がついたのだろう。

「丁度、この手のアイテムを求めている方がおられましてね」

「売る! 買いとってくれ!」

 男は即答したため、俺は金庫から一万コル分の金貨を取り出して、取り引きを済ませる。客の男は俺の気が変わらぬうちにとでも思ったのだろう。すぐに金貨を懐にしまうと、いそいそと店を後にした。

『その腕輪、そんな高値で買われて大丈夫ですか、ご主人?』

 カウンターの上に置かれていた黄色い宝石から、女の声がした。彼女の名は〝イエローストーン〟。意志を持ち、しゃべることができる魔法の宝石だ。持つものに電撃の魔法を使うことができるようになる強力な効果があった。

 先代にもらった激レアものの魔法具だが、普段は口を閉じ、ただの宝石のフリをしている。

『軍隊に売れるとは思えませんし……いくら彼らでも、消費エネルギーと筋肉痛が倍になれば、すぐにヘロヘロになっちゃいます。食費もバカにならないですしねぇ』

「いや、軍より良い引き取り手がいるさ」

 イエローストーンと雑談をしていると、また部屋に客がやってきた。

「ノートンさん、助けてくださ~い!」

 悲鳴をあげながら店に駆け込んできたのは、メイド服を着た十代半ばと思しき少女だった。

 肩くらいまでのブラウンの髪は肩先でやわらかくカールし、親しみやすい雰囲気を持つ。彼女は元々孤児だったが、俺のコネで近くの貴婦人にメイドとして雇われていた。

「サーシャか、どうしたんだ?」

「それがですねえ、魔法具のお買い物に行ったんですけど、なんか間違えちゃったみたいで」

 サーシャはいい娘だったがとにかくドジで、しょっちゅう俺のところに相談に来ていた。

「お屋敷に蚊が多いから奥様に、何か魔法具を買ってこいと言われたんですけど」

 サーシャが取りだしたのは、渦巻き型のお香だった。火をつけると虫が嫌がる煙を発する東洋由来の虫よけ香だ。うちでも扱っている品だった。

「なんか、変なんです。ひょっとしたら偽物をつかまされたかも……」

「どう変なんだ?」

「なんか、光るんです」

「光る!?」

 サーシャが火をつけると、蚊取り線香がまばゆいばかりの光を放った。

「うわああ、目が!」

 急に強い光にさらされ、俺はひるむ。猫人の瞳は強い光に弱いからだ。

「なぜか閃光を発するんです」

「……〝蚊取り線香〟ならぬ〝蚊取り閃光〟なのか?」

 ダジャレのような効果だが、魔力を有する魔法具では珍しいことではない。こういう本来の効果を発揮しない偽のアイテムを、アイテム商たちは〝贋作〟と呼んでいた。

「まあ、虫を退治する効果があるなら、いいじゃないか」

「いえそれが、むしろ虫が寄ってくるんです」

「って、うああっ、虫がああああ!」

 突然、蚊の大群に襲われ、俺は悲鳴をあげた。ひどい贋作だった。

「ええええん、こんなの持って帰ったら、また奥様に叱られちゃいます」

「そりゃそうだろうな。無駄に光るうえに、虫を呼び寄せるだなんて」

「ちゃんと確認したはずなのに~。幸運のお守りも身につけているのに~」

「幸運のお守り?」

「はい、先日買ったんです。これは幸運の女神様の祝福があるという護符なんです。でも買ってからなんか調子が悪くて、ひょっとしたら呪われているのかも」

「なるほど、見せてみてくれ」

 本物なら運勢アップの効果があるはずだ。俺は護符を手に取って、目を細める。

「これは壊れて、幸運の効果が反転してしまっている。いわば〝不幸のお守り〟だ」

「〝不幸のお守り〟!? やだ~!」

 サーシャは頭を抱えて、大げさに嫌がる。

「まあ、蚊取り線香の方は在庫があるから、本物と交換してあげよう。このお守りも、特別に買い取ろう」

「本当ですか、やった!!」

「代わりに、この魔法具のサンプルになってほしい」

 交換条件として俺が取り出したのは、小さなリボンだった。

「かわいいリボン、これも魔法具なんですか?」

「〝悪役令嬢のリボン〟というアイテムで、はめると悪役令嬢っぽくなるらしい」

「悪役令嬢っぽくなる? イケズでお金持ちのお嬢様になれるみたいな?」

「サーシャが身につけて、どんな効果があるか試してほしいんだ。もちろん、怖い呪いはかかっていないことは確認ずみだ」

「わかりました。悪役令嬢、どんな感じになるのかな。ドキドキ……」

 サーシャは嬉しそうに自分の髪にリボンを結んだ。

 ピンク色に輝く魔力がサーシャの髪を優しく包み、突如サーシャの髪がくるくると巻きだし、巨大な縦ロールとなった。

「きゃあ! なにこれ、髪が縦ロールになっちゃった、ですわ!」

 予想外のことに、サーシャは声をあげる。

「なんか語尾も変、ですわ!」

「なるほど。髪が縦ロールになって、語尾に〝ですわ〟がつく効果か」

「こんなテンプレな悪役令嬢なんていないですわ!」

 リボンを外すと同時に、サーシャの髪は元に戻った。

「ふう、びっくりしました。でも、これで交換してもらえるなら、まあ良しとします」

 皿と蚊取り閃光を引き取ってもらえ、サーシャは満足そうに微笑む。

「ノートンさん、ありがとうございました」

 サーシャは元気そうに去っていった。あのドジ属性さえなければ、素直で屈託のない良い娘なのだが。

『そんなものも買い取るんですか? ご主人?』

 サーシャとのやり取りを聞いていたイエローストーンが、疑問の声をあげた。

「どんな呪われたアイテムだって使いようによっては幸せになれるものさ」

『でもご主人が呪われちゃいますよ?』

「それは問題ない。対策はある」

 俺は懐からアイテムの効果を封じる〝絶縁の布〟を取り出し、丁寧に不幸のお守りを包み込んだ。これで不幸な呪いの効力は封印される。

「さて、少し早いが店を閉めて、出かけるとするか」

 俺はイエローストーンと腕輪をポケットにしまうと、夕食を食べに向かった。

毎日投降するので、面白かったら応援よろしくお願いします。

大変励みになります。

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