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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 小日向 おる
第一章

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07 今年度生徒会発足

「それでは全員集まったね。これより今年度生徒会役員の紹介をしよう。まずは私、生徒会長 アルドー・ルカ・マグノリア」


 生徒会室の窓を背に生徒会長の両袖机、それから少し離れてコの字に役員机が配置されている。出入り口と役員机の間にソファテーブルと一人掛けソファ一脚、二人掛けソファが二脚設えてある。両壁には書架が並べられ、隣に資料室がある。


 それから次々と次の通りアルドーによって発表された。

 副会長 セーレナ・ラティオ嬢、三学年 『財務』

 会計 イシャーン・ティワリ 二学年 『商務』

 書記 クリス・アンバーブロウ 一学年 『芸術』

 庶務 エミリオ・ガルシア 二学年 『内務』

    フリア・ロペス 一学年 『医療』


「今年の一学年は女子生徒の方が成績がいいのか?」


 一通り紹介が終わったところでエミリオ・ガルシアがクリスとフリアを見た。

 癖の強い黒髪にやや浅黒い肌、切れ長の目を意地悪く見開き、言外に不満を匂わせている。


「一位の『司法』のリーブラ公爵令息には断られてしまってね。法律の勉強に専念したいそうだよ」


 あの騒動があった時、イシャーンは廊下で様子を見ていた。アルドーが勧誘に失敗したのを見て二位のフリアと話し合い、了承したという。


「それにしたって、『芸術』でしかも男爵令嬢とか、今年は酷すぎるんじゃないの?」


 元老院メンバーの上位貴族は分家筋の子爵家や男爵家に、侮蔑的な態度を取る事をアルドーも知っている。しかし、他部門の下位貴族に対してそうするのはあまりない。しかもエミリオは平等であるはずの他部門まで貶めている。

 自分たち学生はまだ領地も持たない、ただの子供である。貴族籍はあるが、状態としては平民と何の代わりもないのだ。


「ガルシア先輩、私はまだ何の成果も上げていないので否定されても仕方ありませんが、『芸術』を貶めるのはご遠慮願えますか」


「はあ? 『内務』の僕から見れば派手で中身の無い奴等にしか見えないよ」


「それは、私の人選が間違っていると言いたいのかい? エミリオ。教師の推薦があったとは言え、任命したのは私だからね。それに部門間で上下を付けるのは如何なものかな?」


「殿下、いや、まあ、それは⋯⋯」


 アルドーの指摘にエミリオは口を濁す。


「アルドー殿下、ありがとうございます。ですが、私、拝命しましたからには結果を出せるよう努力いたします」


「クリス様、期待しているわ。それとね、エミリオ様。クリス様の筆記を見て頂ければ解ると思いますわ。アルドー様、カードを貸して頂けるかしら?」


 アルドーはセーレナの意を汲み、クリスがタンブラーに添えたカードをエミリオに手渡した。カードの表面のカリグラフィーと裏面にはメッセージと署名が書かれている。

 エミリオはカードの両面を見るうちにどんどんと眉間に皺を寄せていった。


「昨年度貴方に書記で活動していただいたけれど、貴方の筆記、わたくしには読めないの。特に議事録ね。殴り書きにも程があるわ。それでも貴方はとても優秀な方。庶務は将来クレプスクルム様の『内務』の一員としての良い勉強になりますわ」


 アルドーから見たエミリオは、自分より兄の王太子に重きを置いている。それ故、自分より将来王太子妃となるセーレナの意見を尊重しがちだ。それを踏まえてセーレナは叱責している。

 それに加えてエミリオは自他ともに認める悪筆だった。


「申し訳ございません。庶務の仕事を完璧に遂行して見せます。では、書記の引き継ぎは僕が⋯⋯」


「いや、それは一昨年書記だったセーレナ嬢にやってもらうよ。君はロペス嬢に庶務の仕事を教えて欲しい」


 どう見てもクリスを下に見ているエミリオが悪意なく引き継ぎ作業を行うわけが無い、とアルドーは判断した。


「承知しました」


 明らかに渋々といった様子で承諾した。




「ったく、何なんだよ。『医療』の奴がなんの役にたつっていうんだ。役員の健康管理か?」


 エミリオは隣の席に座るフリア・ロペスに毒づいた。少し離れた席の他の役員たちに聞こえる大声だ。

 イシャーンがアルドーへ今年度の予算について確認を取り、クリスがセーレナから書記の仕事内容のレクチャーを受け始めていたが、エミリオの声で一同は動きを止めた。


「口答えも出来ないのかよ。ったく」


「フ、フリア・ロペスです。よろしくお願いします。ガルシア様。でっ、出来ることなら何もします」


 フリアは俯き、ブルネットの伸びた前髪から茶色の瞳を微かに潤ませているのが、アルドーには見て取れた。イシャーンはアルドーに小さく頷くとエミリオの方へ歩いていった。


 ニヤニヤ笑いながら居丈高な態度で「へえぇ、何でもねえ」と、フリアを見下ろす。

 フリアは『医療』バストン侯爵家の嫡子だ。元老院メンバーなのだから馬鹿にされる謂れはない。


「エミリオ。照れ隠しなの?」


 壁際の書架から資料を取ろうと手を掛けながら、イシャーンが声を掛ける。緩くオールバックに流した黒髪に褐色の肌。人好きする笑顔が印象的だ。


「ロペス嬢、ごめんね。エミリオはね、女の子が苦手なんだよ」


「おいっ。何言って!」


 顔を真っ赤にしたエミリオにイシャーンは笑みを浮かべ、手をひらひらと振って席に戻って行った。


「ち、違うからな!」




 空が赤く染まった時分にアルドーはその日の活動の終了を告げた。

 それぞれが帰り支度を始めると、アルドーはエミリオを呼び止めた。


「何でしょう? 第二王子殿下」


 エミリオのいささか棘のある声音にアルドーは薄く微笑む。

 過去二年生徒会に席のなかった自分が、昨年も生徒会役員であったエミリオに軽んじられるのは致し方ない。だが、こうも空気を乱されては流石に看過できない。


「君が何故生徒会役員になれたのか、理由はわかっているかい?」


「⋯⋯僕の成績が優秀だからでしょう。昨年もやりましたし」


「そうだね。でも、二学年で首席はセーレナ嬢の弟、ロレンツォ。二位はエピ公爵の次男つまり私の従弟、レオン・バーレイだ。どちらも来年に誕生する王太子夫妻と血が近い。どういう意味かわかるかい?」


「⋯⋯⋯『平等であれ』」


 マグノリア王国の基本理念であるそれは、危うい均衡の下に成り立っている。長い間、元老院メンバーが牽制し合った結果続いている悪法だ、とアルドーは思う。およそ千年間、開拓と討伐に明け暮れるこの国を、王族を排除してまで統治しようとする者が出なかった。

 どんな空っぽでも神輿があればそれでいい元老院と、自分の代わりに政策を遂行してくれる手足が欲しかった王族が手を取り合った結果だ。


 二学年の上位二人はアルドーとセーレナが生徒会長、副会長でいる間は生徒会役員にはなれない。六人で構成される生徒会で血縁が二組、四人席を占領する事になる。平等である為には他に譲る以外ないのだ。


「マールム公爵嫡男の君は、いずれ公爵位に就く私を軽んじている事は知っているよ。君が敬愛する王太子殿下のスペアだとね。だが、君もそうなんだよ。上位二人を登用出来ない時のスペアなんだ」


「⋯⋯⋯⋯」


「この国では千年も昔から派閥を作ることは許されない。君たち元老院は、継承権を持つ個別の男子に肩入れしてはいけないんだよ。もしこのまま君が王太子殿下のみに忠誠を誓うと言うのなら、私は生徒会から君を外さざるを得ないんだ。そして君は『内務』の跡取りではなくなるだろうね」


「脅しですか?」剣呑な空気をはらむ。


「違うよ。自分の立ち位置を理解するべきだ。将来君は順当に行けば宰相になるだろう。だがそれは君が特別優秀だからじゃない。『内務』の血がそうさせるだけだ」


「⋯⋯! あんただってそうじゃないか」


「言われるまでも無い、私は理解しているよ」


 ひた、とアルドーはエミリオに目を合わせる。

 だからこそアルドーは本に埋もれて知識を欲したのだ。ひとえに兄、クレプスクルム王太子を支えたくて。

 エミリオは挑むような瞳でアルドーを見返し、一礼してドアに向かった。


「それはそうと、あの『芸術』の小さいのは『内務』を裏切った、男を誑かすような女の娘だ。気をつけた方が良いですよ」


 後ろ手でドアを閉めながらそう言って去って行った。

 

読んでくださってありがとうございます。


ここから話が膨らんでいきます。

どうぞお付き合いくださいませ。

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