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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 小日向 おる
第六章

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54 二つの呪い

 雨があがり、雲の合間から薄く日が差す。窓から聖堂内に光の筋が幾本も射し込んだ。

 静寂がその場に立ち込め、誰も遮ることはない。


 すでに国王と王妃、そしてジュゼッペ以外は聖堂にいない。


 ベニニタスはコツコツと靴音を響かせ、縛りあげられ床に座らされたジュゼッペの顔前へと足を運んだ。


「王権が欲しいか?」ベニニタスはジュゼッペを見下ろし問う。

 ジュゼッペは黙したまま、顔を上げベニニタスを見る。口の端を吊り上げ、鼻で笑う。


「初代国王オルトゥスは⋯⋯、我が王家に呪いをかけた。それは私の孫まで続く」


 ベニニタスの突然の告白に、ジュゼッペは眉を顰める。


「その呪いは二つ。ひとつは人形、即位と同時に手渡される。それは便利な道具であると同時に毒にもなる。⋯⋯あれは、我ら王位につく者の心を惑わす」


「⋯⋯人形?」


「もうひとつは声だ。先代の崩御と同時に頭の中で、誰とも分からん声がする。お前に想像できるか? 耳を塞ごうにも、頭のうちで勝手に話しかけてくる声を。お前が歴代の国王を愚物と感じたのは、それらが原因だ。」


「ならば、何故、王権を放棄しなかった」射殺しそうな程の視線をベニニタスに送る。


「お前が狙っていた『国王の間』。あれには初代国王の脳が据えてある。それが我らを拘束して離さないのだ。『血を繋げ』と。それに、あの人形なしに開拓を進めていくのは困難だったのだろう。あれはわが血筋の許可なしには使えない代物だ。初代国王がそういう制約で作ったからだ」


 ベニニタスは聖堂奥の聖女像を仰ぎ見る。モクレンと同じ顔を。


「同時に、お前たち元老院にも呪いがかかっている。『平等であれ』だ。元老院の始祖たちは、まさか千年もの間、守り続けるとは思っていなかっただろう。初代国王の取り巻き連中が、抜け駆けを禁止したという、つまらん理由で出来た制約だ。別に崇高な理由で決まった訳では無い。王族のみが閲覧できる書物に記されている」


「な、なんという馬鹿げた⋯⋯」ジュゼッペの肩がワナワナと震えた。


「だが、この千年で凝り固まったものを、いきなり変えるのは反動が大きすぎる。二代、残り二代で人形は切れる。それまでに国の有り様を少しずつ変えれば良い。お前がした事は無駄ではない。一石を投じただろう。現に子供たちは疑問を持ちつつある」


「⋯⋯」


「だからといって、無罪放免というわけにはいかん。何度もクラーワに危害を加えようとしたのだからな。お前はただの謀叛人だ」


 ベニニタスは祭壇前に立つクラーワを見る。「何か言う事は?」クラーワは扇で顔を隠し、視線を外す。


「ございません。その穢らわしい男を早く連れて行って」




 副隊長に支えられ、ジュゼッペは牢へと繋がれた。杖無しで歩く姿は、よろよろと覚束なかった。


「貴方にとってモクレンは呪いでしたの?」クラーワはベニニタスの後ろから腕を回す。


「いや、私にはそなたが居たから、心乱されることも無かった。だが、父や祖父の事を思い出すと、そうだったのではないかと思うのだよ」


 彼らは晩年心を病み、死出の道へ歩みを進めた。そして王妃たちはそれを見ても、まったく同情していなかった。むしろ解放されて穏やかになった。


「私の妻がそなたで良かった。クレプスクルムは心配だが、アルドーはそなたに似て思慮深く育ってくれた。きっと上手くやるだろう」


「だと良いのですけれど。わたくしの為に身を挺するなんて、次世代の自覚がありませんわ」クラーワはこめかみを押さえる。


「そう言うな。しかし、あの娘も肝が据わっておるな。そなたを庇ったかと思えば、アルドーの止血までしていた。考えてやっても良いかも知れんな」


 ベニニタスはアルドーの選んだ娘に満足していたが「ええ、でも、順序立ててやりませんとね。まずは候補から」と、クラーワから諭された。


「では、我らも学園へ行こうか。一通り観覧せねばならん」


 例年通りに『部門別発表会』は進めなければならない。一般生徒に聖堂での出来事は公表されていない。先程まで聖堂にいた者たちは、先に学園へと向かった。何事も無かったかのように装って。




 ベニニタスとクラーワは昼過ぎに学園に到着した。

 迎えた学園長の脇には、セーレナと顔を青くしたフラッハが控えていた。

 会場内はこの二人が案内するという。だが、明らかにフラッハの様子がおかしい。


「フルーメン伯爵からおおまかに報告を受けました。アルドー殿下がお怪我をなさったと聞きましたが」学園長が制するように手をフラッハに向けながら言った。


「学園長、アルドーは医療室におります。脚を撃たれました。しばらくは休学する事になるでしょう。フラッハ、心配ならば行きなさい。貴方は生徒会役員ではないのだから。そんな様子で一緒に居られても、他の生徒たちに不審がられてしまいますわ」


「⋯⋯! あ、ありがとうございます」焦りのあまり礼をするのもおざなりに、フラッハは駆け出して行った。


「申し訳ございません。ご厚情感謝いたします」学園長が深々と頭を下げる。


「心配性な家令になりそうですわね。では、セーレナ。案内して頂戴」




 式典広間はそれぞれの部門ごとにブロック分けされ、パネルや模型などが展示されていた。

 殆どの部門は前年度の報告と、来年度の予定や抱負など成果物の展示だ。

『医療』は薬草、『農務』は新しい品種の食材、『商務』は珍しい特産物など、試飲・試食出来るものもある。

『科学』や『建築』は模型などを使って、触れて楽しませている。


 生徒たちは緊張しながらベニニタスとクラーワに発表を行う。

『内務』と『科学』の生徒たちは、自分たちの親が現れない事を一様に不安がっていた。何事も無かったかのように彼らに接し、クラーワはその場を過ぎ去ろうとした。


 クラーワの目の隅でエミリオ・ガルシアが深々と頭を下げた。

 間接的に彼にも処分を下さねばならない。

 エミリオには将来クレプスクルムの下で宰相への道が約束されていたが、それはもう叶わない。父のマールム公爵は宰相職から降ろされ、公爵位からも外されることになるだろう。

 不憫ではあるが、エミリオにだけ温情を与える事は出来ない。


『内務』と『科学』の処分に関しては、『部門別発表会』が閉会した後に、王城で元老院が集まり協議される。

 ジュゼッペ以外は元老院に任せるつもりだ。

 私怨と言われてもいい。クラーワはジュゼッペだけは赦せない。




 馬車に乗り込み深く息をつく。

 隣へ腰を下ろしたベニニタスの肩に、クラーワは頭を乗せた。


 突然の空虚感。


「クラーワ。そなたは良くやった。もう、安心するがいい」


 目を閉じ、馬車の揺れに身を任せた。 

BlueskyとXになかなかドSなクラーワさんのラフをアップしました。

なかなかドSに描けて満足です。

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