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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 小日向 おる
第六章

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52 心配してもしきれない

 『部門別発表会』まで残すところあと二日。

 三学年の生徒は発表会に参加する事なく、主家の継承者や領主になる者に対する講義を受けている。それ以外の者は部門別の専門教育だ。

 過去の経験から助力を求められるが、軽く助言する程度で自ら作業に加わる事はない。


 アルドーとセーレナは生徒会室で下の学年が慌ただしく動く中、彼らが時間的余裕の無い活動をこなしていた。

 パネルや暗幕の配分、人員の配置、会計報告の確認など。自分たちの発表の準備に追われる彼らの代わりに差配した。


 特にエミリオなどは『内務』一門の生徒たちの協力を得られず、殆ど一人でこなしているという。それ故、フリアに仕事が回ってくるのだが、彼女は彼女で一学年ながら『医療』の主家の跡取りとあって、そちらも忙しい。

 見かねたセーレナと、またも助っ人として呼ばれたフラッハが、庶務の仕事の大半を手伝う事になった。


「『内務』の方たちは陰湿ですわね⋯⋯」


「ジュゼッペ氏が頭目ですしねえ」セーレナが零した一言に、フラッハが毒づく。


「⋯⋯ふふっ。頭目って。くふふふ」


 何やら妙にツボに入ってしまったらしく、セーレナが身を捩る。


「マールム公爵家の家令の兄が大神殿で失敗してから、増々空気が悪いそうですよ。エミリオ君のせいじゃないのにねぇ」


「フラッハ」机で作業していたアルドーは人さし指を口元に寄せた。フラッハは肩を竦める。


 少し納得いかないフラッハは、グイグイとアルドーの袖を引っ張り資料室へ向かった。セーレナはペールと目を合わせると、頷き合い二人に続いた。




「あと二日。二日で片が付く。セーレナは学園に居て欲しい。フラッハ、君にセーレナを任せるよ。いいね?」


「⋯⋯ですが、わたくしも」


「副会長が学園にいないでどうする? 何より君は王太子妃になるんだ」アルドーはセーレナを制する。


 セーレナの生命は護られなければならない。

 国王も王妃も、第二王子すら標的なのだ。もし国王が命を落とせば、王太子が継がねばならない。その次の為に王太子妃になるセーレナも保護されなければならない。

 残れと言われたフラッハは落胆しているように見える。アルドーはフラッハの心配を感じた。


「フラッハ、私は大丈夫。だから、頼むよ。⋯⋯ペール嬢もセーレナを護ってくれ」


「くっ、クリス様は⋯⋯?」ペールも戸惑う。


「チェルニーがいる。大神殿が用意する武器も防具もある。君たちを信頼しているから、任せられるんだよ」


「⋯⋯わかりました。いいですか、殿下。変にかっこつけて、自分で捕まえようとかしないで下さいよ。殿下の残念なところが見られなくなると、つまらないですからね!」


「えぇぇ。残念って⋯⋯」




「そういえば今日、アンバーブロウ嬢は聖堂に行っているんでしたっけ?」


「ああ、『芸術』に出演する生徒と手伝いの人員、それとコルデラ侯爵が現地の下見に行っているよ。神殿長の説明を受けるようだね」


 聖堂はポーチから玄関、玄関間の尖塔を抜けると正面に扉がある。扉の先は正面に身廊、左右に尖塔の頂上まで続く螺旋階段がある。身廊の両脇には席が並び、内陣を過ぎると最奥に聖女の立像が祀られた祭壇がある。

 楽奏はその祭壇手前の至聖所で奏でられる。内陣に隣接した準備室で手伝いの大人たちが待機。生徒会役員として参加するアルドーとクリスは、準備室の反対側の壁側で司会進行をする事になる。


 ジュールはムーシカ子爵に伴われて正面玄関から入ってくる手筈となっている。『芸術』の生徒たちにはジュールが行動を起こした際には、準備室にすぐさま避難するように指示してある。

 アルドーとクリスは充分に彼を引き付け、軍の誘導で観衆の貴族を逃すよう動く。


 神殿長からは、実弾と古代武器のどちらも衝撃を弱めるベストを支給された。これで心臓と内臓への攻撃に備える事ができる。

 神殿長は狙撃も視野に入れているようで、聖堂内に古代機械を配備して事に当たるそうだ。

 元々聖堂内には建設当初から監視目的の古代機械が設置されているらしい。神殿長は王妃から相談を受けて、それを一つずつ動作確認の為に訪れていた。


「いくらベストを着込んでも、頭と手足が護れないのは⋯⋯」フラッハが苦々しく言う。


「それなら、安心して。『芸術』の衣装を私とクリスも着るんだ。私は黒い帽子、クリスは黒いヘッドドレスを着けるんだよ。その下にベストと同じ素材のものを被る。手足は⋯⋯何とかするよ」


 アルドーは同じ危機感を覚えて『芸術』と打ち合わせた。結果、ベストと同じ素材のものを神殿長に頭用に都合してもらった。




「吹き抜けの二階に軍は配置されるんですの?」


「ああ、投降した彼(・・・・・)からの情報を鑑みるとね」


 吹き抜けの聖堂内の二階部分には手摺りの付いた通路があり、尖塔の螺旋階段から行き来が出来る。おそらくジュゼッペはここから様子を見ると予想される。

 大神殿に投降したフェルフォクス男爵ヌンツィオ・モレッティからの情報だ。


 大神殿での騒動の翌日、再びやって来た『科学』と『エネルギー』の技術者は、神殿長から「彼はまだ意識を取り戻していません。目が覚めたらお返しします」と告げられた。

 実際にはその日すでに意識を取り戻していたのだが。

 翌日、ヌンツィオは神殿長と共に王城へ向かった。国王へ内情を報告した後、再び神殿長と大神殿へ戻りジュゼッペのいる邸宅へ帰された。


「昨日例の邸宅から、ジュゼッペ氏が王都に向けて出発したと報告があった。フォルフェクス卿は内通者がいると言っていたそうだが、どの時点で合流するのかはわかっていない」


 内通者は判明している。

 情報はヌンツィオと、クリスの護衛チェルニーからもたらされた。チェルニーの別隊の副隊長だ。

 彼を調べてみると、『内務』の男爵家の三男。学園卒業後は兵士となり、平民の女性と結婚して自身も平民となった。常日頃からキアラのファンであったと吹聴しているという。

「憧れのキアラ夫人の娘を護りたい」と言って、クリスと軍の中継役をもぎ取ったらしい。


「結局出たとこ勝負なんですね。あー、もう。心配するなって言っても、無理」


「兄上、そんなに騒いだら殿下も困っちゃいますよぅ」ペールはフラッハの頬に拳をグリグリと押し付ける。アルドーは眉を下げてフラッハを見る。


「⋯⋯わかってるよ。取り乱しました。申し訳ございません。学園に無事に戻られるのをお待ちします」


「済まないね。フラッハ。必ず戻るから」フラッハの下げた頭に、アルドーは手のひらを乗せた。


 ぽんぽん。


「⋯⋯! 時と場合を考えろー!!」ぐあっと頭を上げ、アルドーの腕を払う。


「ふふふ」笑いながらアルドーはフラッハを見る。

 フラッハの目は、少し潤んでいた。 

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