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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 小日向 おる
第一章

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04 さっそくやって来ました

 学園は三年制、男女、爵位関係なく成績順にひとクラス十五名を上限にその年毎に編成される。

 一学年目は基礎学習。言語や歴史、地理、数学などがそれに当たる。

 二学年目からは基礎学習と、学生が所属する部門の専門的な講義が加わる。

 三学年目は主家の継承者や領主になる者に対する講義が別に組まれる。

 その他に三学年を通して、社交におけるマナーを学ぶ。また、男子は害獣駆除の為の戦闘訓練や、女子は刺繍などの授業も用意されている。




 クリスは意気揚々と学園の門をくぐり、人の流れに乗り校舎前へと歩みを進める。行き着いた場所には掲示板があり、成績上位者からクラス分けがされた表が貼られていた。クリスは入学試験で三位を取り、成績上位者のクラスでのスタートとなった。


 一門の芸術の成績はもとより、クリスは将来の夢に向かってかなり勉強に力を入れていた。

 彼女の夢はただ一つ『王妃様をガラス細工で輝かせたい』である。

 その為には基礎学習は当然として、社交での話題作りや洗練され計算された芸術性、流行への理解などあらゆる知識が必要となると彼女は考えた。

 ガラス細工を広める為の情熱は誰にも負けないと自負していたが、それだけでは足りない。


(幸い三学年に未来の王妃、ミニュスクール公爵令嬢がいらっしゃるわ。アルドー殿下に橋渡ししていただいて是非ともお会いしなければ!)


 クリスは教室の前でぐっと拳を握りしめた。




 配属されたクラスの教室に入ると、幼馴染の『建築』フォンス侯爵令嬢 マイヤ・ラグナがすでに席についていた。

『建築』と『芸術』は切っても切れない関係だ。『建築』物には『芸術』品が組み込まれる。

 大掛かりなものには双方の協力が無ければ成立しない。特に劇場や美術館などはその最たるものだ。『芸術』は音楽・美術・服飾・工芸など多岐にわたるが、その中でクローステール男爵家はガラス工芸を担当している。


 建物には必ずガラスが嵌め込まれる。『建築』には『建築』の板ガラスの工房はあるが、バラ窓などのステンドグラスや、照明のガラス製品は『芸術』が担当する。

 その為二つの部門は領地が接している。クリスとマイヤは親と一緒に行き来する機会が多かった。


 クリスに気付いたマイヤは軽く手を振り、笑顔を見せた。二人は軽く挨拶を交わしお互いの制服姿を見比べる。

 マイヤのほっそりと高身長、ダークブラウンの髪にに透明感のあるヘーゼルアイは、背が低く小動物系のクリスからは魅力的だ。その逆にクリスの庇護欲を駆り立てるような愛らしさは、マイヤの背が高いだけで変に大人に見られる事が苦痛で羨ましくなる。


「同じ制服とは思えないくらい印象が違うわ。素敵」


「ふふ、貴女は可愛らしくていいじゃない。私こそ羨ましいわ。そういえば、学年三位ですって?」


「そうみたいね。上はどなたかしら。よく見なかったわ」


「確か一位が『司法』、二位が『医療』だったかしら。私を含めてまだ婚約者のいない上位貴族は、在学中に成績優秀者と縁組して取り込まないとならないから、貴女も狙われるんじゃなくて?」


「ああ、厄介事が増えそうな事は言わないで。ただでさえ⋯⋯」




「あら、クリス。お前ごときが何故ここにいるの? ここは上位クラスではなくって?」


 クリスがげんなりとしながら口にしたその時、ドンと扉が開き厄介事が来た。クリスは頭を抱える。

 マイヤはクリスに目配せするとすっと立ち上がった。イブリンより顔半分ほど背の高いマイヤは威圧感を込めて見下ろした。


「お静かになさって、コルデラ侯爵令嬢 イブリン・ギルランド様。貴女、解ってて来たのでしょう? 下手な演技ね」


「何なんです? 失礼な。わ、私は⋯」


「ギルランド様はご兄妹揃って二つ隣の下位クラスですわよね。侯爵家子女ともあろうものが恥ずかしくありませんの?」


「わたくしを侮辱なさるの? 大体貴女は誰なのよ?」


 マイヤとクリスは顔を見合わせた。交流が頻繁な部門同士で何度も会っているはずなのだが。マイヤは右手を頬に添え、わかるように大きくため息をついてみせた。


「フォンス侯爵が嫡子 マイヤ・ラグナですわ。お勉強も不得手なら社交も駄目なのね。残念な方」


「なんですって! 覚えていらっしゃい!」


 優雅とはかけ離れた捨て台詞と共にイブリンは去って行った。


「ごめんなさい。入学早々こんな馬鹿な事に付き合わせて」


「気にしないで。噂は聞いているわ。隣の領地ですもの何かとね⋯⋯」


 マイヤは鷹揚に構えているが、そんな噂が流れているなどクリスは顔から火が出る思いだ。




 その後、式典広間にて入学式が行われた。

 生徒代表の祝辞に現れたアルドー第二王子に女子生徒が目を奪われる中、クリスだけは全く違った目線で考えに没入していた。


(瞳の色は濃紺。金粉を少し散らして、カット面は多い方が映える? むしろなだらかにした方が⋯⋯⋯? 台座に王家の象徴マグノリアの花弁を象って⋯⋯⋯胡桃色を何処かに入れる⋯⋯?)


 気付けばアルドーがステージからはける所で、祝辞は上の空で一編たりとも覚えていなかった。ガラス細工の事となると、そちらに集中してしまうのがクリスの悪い癖だ。


 教室に戻る途中、イブリンの兄、ジュールが何か含みを持った目でクリスを見ているのに気付いたが、マイヤとの会話に集中している風を装って通り過ぎた。

 教室では担任教師から一学年時の履修項目やスケジュールの説明を受け、その日の日程は終わった。教師は去り際にクリスに声をかけた。


「アンバーブロウ君、君は生徒会からの招集を受けている。書記に推薦されているんだ。生徒会室に向かってくれるかな?」


「私がですか?」


 教師は「そうだよー」とだけ残して足早に去って行った。




 呆気にとられていると耳障りな大声が聞こえ、後ろから髪を引っ張られた。


「やあ、クリス。いったいどんな不正をして上位クラスに入り込んだんだい? この前も言ったじゃないか、侯爵家を愚弄するなと」


 振り返れば髪を鷲掴みにしたジュールに見下されていた。教室に残っていたクラスメイトたちは驚きのあまり絶句している。


「私が何をどうしたら不正なんて働けるんですか? 学園に失礼です。それとお手を離していただけますか?」


「お前は本当に生意気だな。そうそう、この前のゴミのようなネクタイピンはどうした? あれより良いものを作ったんだろうな?」


「父がコルデラ卿にお届けしているはずです。卿のお許しが出ましたので」


「聞いてないなあ」


 より一層髪を後ろに引っ張られる。苦痛に顔をゆがめていると、近くの席から男子生徒が一人近づいて来た。


「不正とは聞き捨てならない言葉ですね。それが本当ならば、我が『司法』リーブラ公爵家で学園に調査を入れなければならなくなります。それを理解した上での発言ですか?」


「なんだと? お前は誰だよ」


「何とも品のない。僕はフィン・リヒター、リーブラ公爵家の家督を継ぐ身として、ご挨拶申し上げます」


 教本通りのような礼と、まだ少し高いが聞き取りやすい発語が美しい。丸メガネの奥に光る青い瞳と、綺麗に切り揃えられた銀の髪がまるで氷のような冷たさを放つ。


「嘘言なのでしたら、貴方の方が罪となりますよ。それに婦女子に対する暴力は看過できません」


「大袈裟だな」


 ジュールが面倒そうに吐き捨てたその時、急に廊下の喧騒が聞こえてきた。それは徐々に教室に近づきアルドー第二王子が顔を覗かせた。


「クリス・アンバーブロウ嬢はいるかな?」

 

この回から登場人物が一気に増えます。

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