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【第一部完結】ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第三章

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30 次世代の誓い

 星降る夜空に浮かぶ天燈。

 聖女ソフィア像を仄かに照らす噴水の周りにたゆたう、ランタンの温かな灯り。

 人々はただ緩やかな祈りの中で空を見つめていた。


「なあ、あれ、どうするの?」


 遠巻きにアルドーとクリスを見守っていた生徒会役員の中で、最初に口を開いたのはイシャーンだった。

「どうって?」肩に寄りかかって来たイシャーンに、エミリオは視線を送る。


「君、先代に命令されてるんだろう? 籠絡しろって」


「出来るわけないだろ。あんなに幸せそうなのに。フリだけでも昨夜殴られるかと思ったよ」


「だよなあ」イシャーンは首を竦め、ニヤリと笑う。


 叔父リカルドが王家に保護された事で状況が変わり、エミリオはどう動いていいのか解らなくなった。元々、籠絡するつもりなどなかったが。


「そのまま、フリをしてもらえると助かりますの」


 背後から落ち着いた声がかかる。エミリオが振り向くと、セーレナが薄く微笑んで立っていた。


「クリス様に交際を迫っている、というパフォーマンスをして欲しいのです」


「パフォーマンス?」エミリオは聞き返す。


「先代様が区切った残る五ヶ月、秋の『部門別発表会』頃迄かしら? お二人の目眩ましをして頂きたいの。先代様への言い訳に出来るでしょう?」


 セーレナの提案の真意が解らず、エミリオは眉をひそめる。


「理由をお伺いしても?」イシャーンが臆する事なく問う。


「その間にわたくしがクリス様を鍛えます。上位貴族に対抗する(すべ)を余すことなく教えるからです。クリス様はまだ幼さを残した状態。王族に相応しい淑女にするのです。⋯⋯彼女は覚悟を決めました」


「ははぁ、なる程。僕も協力します。未来の公爵夫人を支えましょう」


 イシャーンがセーレナに向かって胸に手を当て頭を下げた。下を向いているが、エミリオからは計算高い笑みを浮かべているのが見える。

 セーレナは扇で口元を隠し、片眉を上げた。見えていなくても感じているらしい。


「⋯⋯見返りはあまり期待しないで頂きたいわ。今は何も用意出来ないから」


「ふふ、先行投資です。アンバーブロウ嬢のガラス細工を売り出すのに尽力しますよ」


「⋯⋯心強いわ。わたくしだけではクリス様のガラス細工を広めるのは、難しいと思っていましたの。エミリオ様は申し訳ないけれど、ずっと振られ続けて下さる?」


 エミリオはふう、と一息ついてから、背筋を伸ばす。


「承知しました。祖父がしている事に対する謝罪には足りないかと思いますが、王家の為にご奉仕致します。⋯⋯ただ、ラティオ様はご存知ないかと思いますが、叔父が昨夜保護されて、状況が変わりました。半年より早まるかも知れません」


 セーレナは、ふむ、と一息ついて、事も無げに言った。


「そう、ならばわたくしたちが卒業する迄ですわね」


「場合によっては叔祖父の家に爵位が移るかも⋯⋯。僕は学園にいられるかどうか」


「確かにマールム公爵位のお取り潰しはないでしょうね。でも、罪を償うのは先代様ですわ。貴方はむしろ協力者として何らかの措置はあるのではないかしら。⋯⋯今は何もかも不確かね。どのみち貴方は、振られ続けて下さる以外ないわ」


 にっこり。クラーワ直伝の圧の強い、輝く笑顔。


「⋯⋯重ねて誓います。王家の為にご奉仕させて頂きます」


 こうして将来の公爵夫人を育成するために、未来を支える『財務』、『商務』、そして『内務』が手を取り合った。




 睦まじく寄り添うアルドーとクリスを支えようと三人が決意を固めているのを、ぼんやりと眺める少女がいた。


『医療』のバストン侯爵嫡女、フリア・ロペスはクリスをとても眩しい存在だと思っていた。

 引っ込み思案で『医療』の知識ばかり詰め込んでいる自分とは違って、明るく成績も優秀で、しかも手先が器用なクリス。

 王子と男爵令嬢が結ばれるのは少女の夢物語のようで、とても輝いて見えた。


 自分も全力であの三人と同じ様に協力したい。だが、『医療』の足枷がフリアを引き留めていた。

 フリアは知っていた。『内務』の先代公爵ジュゼッペ・ガルシアが謀叛を企てている事を。父や『医療』の一族が王家に不満を持っている事も。


 だからなるべく不干渉に徹していた。

 クリスに思いを寄せているアルドーの事も『医療』の誰にも話していない。話せば今の素敵な空気が壊れてしまいそうな気がして。

『私も』と言えたらいいのに、と胸が痛んだ。


「ロペス嬢」


 目の前に夜空と同じ色が広がった。不思議に思い顔を上げると、アルドーの友人のフラッハ・フェンが立っていた。


「我慢してる?」声を顰めてフリアに囁く。


 ──え? フラッハを見返す。見透かされている、そんな気がした。


「フェン様?」


「フラッハでいいよ。ペールと紛らわしいだろう? 『医療』の君はどこまで知ってる?」


 ニコニコ笑っているのに何故かどんどん凍らされていくような、そんな微笑。


「他の役員たちがわざわざ資料室に入って話し合ってるのに、君は何も聞いてこないよね。誰にも」


「っあっ、あのっ。私はっ」


「大きな声で話してはだめだよ。⋯⋯大丈夫。『医療』が今の扱いに納得していない事は、国王陛下も知ってる。君自身はどうなの?」


 確かに今の扱いは『医療』にとって弊害でしかない。対処療法ばかりで、根治治療の研究や、新薬の開発は制限されている。『科学』と共同で開発したくても、建国以来の科学を捨てるという理念に反する為に何も出来ない。


『科学』は『内務』についたらしい。何故かはフリアは知らない。『医療』はどうなのかと言うと、「不満を持ってはいるが、それだけだ」と父のバストン侯爵は言う。


「もっと良い治療をしたいです。それには『科学』との連携は必要だと。でも、『内務』に付くのは父も反対です。それに何より、あのお二人の幸せを壊したくないのです」


「へえ。良い事を聞けた。『医療』に謀叛の意思はないんだ。さて、『科学』だけどね、あれはエミリオの母君が人質になってるんだ」


「えっ!」父はそんな事言っていなかった、とフリアは驚愕した。


「びっくりした? どう? 私たちに協力しない? 大人たちの思惑なんてぶっ潰したくない? アルドー様はね、ずっと大昔に決められた事を、今でもズルズル続けているのが不満なんだよ」


 ──なんて大それた事を。

 そう思う反面、とても魅惑的に思えた。


「でも、殿下は第二王子で⋯⋯」


「ああ、王太子に取って代わろうなんて思ってないよ。サピエンティア公爵になって支えるつもりでいるからさ。アンバーブロウ嬢に惹かれるのも無理ないよ。爵位が低くても毅然として頑張ってるんだから」


 ──そうか。みんな、ただ可愛いと思って側に置いたんじゃなかったんだ。やっぱりクリス様のすべてが気に入っていたんだ。

 そう思ったら、何だか心が軽くなった。


「私で出来る事なら何でもします」


「ははっ、まーた同じ事言ってる」


 後ろからエミリオの声がした。

 振り返るとあの時とは違って明るい表情で笑っていた。


「女の子は苦手なんですか?」


 フリアは笑う。


「言うようになったなあ」


 エミリオはバツが悪そうに頭を掻いた。 




 クリスの唇に触れた瞬間、アルドーは自分のしでかした事に慌てた。

 ──公衆の面前ではないか!

 恐る恐る顔を離すと、触れただけのくちづけに驚いて、顔を真っ赤にしたクリスと目が合った。


「⋯⋯つ、つい、嬉しくて」


 言い訳すると、クリスは「ふふっ」と笑った。


 ふわりと空に舞う天燈を、二人はずっと何も語らず見つめていた。しばらくして天燈は燃え尽き、暗闇に消えた。

 クリスは生徒会役員の姿を探して、頬を染めた。


「みんなこっちを見てますよ。⋯⋯見られちゃいましたね」


「あぁ、恥ずかしいな。でも、何だか、みながいい雰囲気だ。エミリオが笑ってる」


 クリスがアルドーの手を引いた。


「行きましょう、アルドー様(・・・・・)

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