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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第二章

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19-1 クラーワと白い人形

 王城に入ったばかりの頃、王妃クラーワにはどうしても気になる人がいた。

 

 十七歳でマグノリア国王ベニニタスに嫁ぎ、王妃となってからずっと不思議に思っていた。

 夫に必ず付き従うフードを目深に被った女性は誰なのか、と。

 

 一度話しかけてみたが、ふわりと微笑むだけで何の返答もなかった。気になりつつもそのまま過ごしていたが、その後何度も災害対策や害獣被害の政策を王と協議しているのを見ることとなった。

 公に出る事はない、いつも王の執務室だけに出没する、そんな女性が常に王に従っているのを見るのは心中穏やかではいられなかった。

 

 

 

 国王ベニニタスは、先代が急逝したため婚約者のないまま二十一歳で即位した。

 それから三年、まだ幼いクラーワの他に良い年回りの元老院の女子が居なかった為、婚約の運びとなった。

 

 さらに時が経ち、ベニニタス三十二歳、クラーワ十七歳と十五もの差があったが、即位十年目にようやく婚儀が整った。

 学園も卒業まで通う事を許されず、まだ成人前のクラーワだったが、後継をいち早く欲する元老院が婚礼を早めた。

 しかし、ベニニタス自身がクラーワの若さで子をなすのを厭った為、成人まで待つ事となった。

 

「王よ、何故すぐに世継ぎの御子を、我々に見せては頂けぬのですか」

 

『内務』マールム公爵 ジュゼッペ・ガルシアは懇願した。

 ベニニタスは不快を隠そうともせずにジュゼッペに反論した。

 

「本来なら『内務』の順番であったのに男子ばかりだったのを救ったのは、『農務』のエピではないか。それを恨んでクラーワを壊そうとしているのではあるまいな? 例えそうなったとしても、『内務』に移ることはなかろうに。その後、マールム公爵家に子はいなかろう?」

 

「⋯⋯⋯」

 

「クラーワに手出しするのは許さんぞ。私はクラーワを大切に思うが故に、成人まで待つのだからな」

 

 ベニニタスは大きな愛情でクラーワを包み、クラーワはその頼れる深い愛に応え、お互いの思慕を深めていった。

 

 

 

 だが、ベニニタスに常に寄り添うフードの女性を見る度、クラーワの心はザワザワと波を立てた。

 ある日、ベニニタスとフードの女性が執務室で資料を広げながら何事か話し合っている時に、クラーワはどうしても心穏やかにしていられず、思いを告げた。

 

「貴女は一体どなたなのです? わっ、わたくしのベニニタス様とどういった関係なのですか?」

 

 女性は困った顔をして、口を開いたが発声できなかった。そしてベニニタスを見て、何か小さな声で語った。

 

「わたくしとは話せないのですか?」

 

 苛立ちを滲ませて言うと、女性は額づいた。

 

「違うんだ、クラーワ。彼女は私と神殿関係者としか話してはいけないようになっている」

 

 

 

 どういう事かと話を聞くと、女性は大神殿から遣わされている『聖女の人形』という存在らしい。知識が豊富であらゆる事象の対策に優れているのだという。

 その能力は大神殿によって作られ、マグノリア王国に新たな王が立つ度に供与される決まりとなっている。ベニニタスが即位した時点で王妃がいれば、王妃にも『聖女の人形』の存在は知らされたが、当時は独身であった為にクラーワの知るところでは無かったのだ。

 

 整った顔に色素の薄い白い肌と体毛、印象的な宝石のような真っ赤な瞳。

 本当に人形のよう。ベニニタスと同じ年だというが、十は若く見える。

 

「神殿長からは必ず秘匿するよう念を押されている。いずれ産まれる私たちの子は特に。王家の嫡男は必ず彼女たちに傾倒してしまうのだそうだ」

 

「ベニニタス様も?」

 

「情を交わすのはそなただけだ。あれ程小さかったそなたがこんなにも美しくなって、私は本当に嬉しい。そなたが早く大人になろうと奮闘していたのを、とても愛らしいと思っていたのだよ」

 

 ベニニタスは大きく笑い、クラーワを引き寄せそのまま額に口づけた。頬を染めるクラーワに笑みを零し「そなたが成人するのが待ち遠しい」大きな手を頬に手を添えた。

 

「あの方の事は何とも思ってませんの?」

 

 念を押すようにクラーワは腕の中でベニニタスを見返すと、もう一度額に、頬に口づけた。

 

「初めて会った時は確かに目を奪われた。でもあれは、そうだな、そういう存在では無い。神殿長が言う通り、情報処理が上手くて意思決定に欠かせない、⋯⋯酷い言い方かもしれんが、道具の様なものだ」

 

「でしたらわたくし、あの方とお話したいです。貴方様と国民のためにお役に立ちたいのです」

 

 まだ独り立ちには程遠い自分が、王城や元老院で軽んじられているのを肌で感じていた。囲われるだけの王妃ではなく意志ある王妃となる為には、相談できる相手が欲しい。

 それならば、秘匿された道具に手を貸してもらっても良いではないか。

 

 力強くベニニタスを見上げる。

 ベニニタスも意を汲んだようで、口の端をニヤリと上げた。

 

「いいだろう。神殿長を呼ぶとしよう」

 

 

 

 召喚された神殿長は謁見の間ではなく、執務室へ通された。

 長い黒髪に、切れ長の濃い茶の瞳。一番近いのは『教育』フルーメン伯爵家だろうか。あまり見かけない風貌だ。名前もハルト・カツラギと聞き慣れない。

 

 ベニニタスが一通り説明すると、神殿長は少し首を左に傾げた。

 

「お話は承りました。今代までこの様なお話を受けた事がありませんでしたので、今後に少し不安が無いわけではありませんが、王妃陛下ご自身のご要望であれば実行させていただきます」

 

「初めてなのか? 私は六十二代だぞ?」

 

「はい。大抵は国王陛下が誰にも見せない程執着されるので⋯⋯。王妃陛下も不快に思う方が多かったと記憶しております」

 

 記録と言わず記憶と言うのが気になるが、確かにクラーワ自身も不快ではあった。しかし、ベニニタスを信じる気持ちの方が大きい。

 

「わたくしは彼女の協力が欲しいのです。いち早く大人になるには必要な事なのです」

 

「──すまんな、クラーワ。本来なら学園にまだ通う年だというのに、無理をさせて」

 

 ベニニタスは神殿長の前だというのにクラーワを引き寄せて膝に乗せた。クラーワは耳まで赤くなって身じろぎするが、ベニニタスがしっかり抱きとめて身動きができない。

 

「そ、そうやって子供扱いしないで「本当に愛おしいな」く、ください⋯⋯」

 

 耳元で囁かれ、嬉しさと恥ずかしさでベニニタスの胸元に顔をうずめた。

 

「では、大神殿での調整となります。期間は三日程いただきたいのですが、よろしいですか?」

 

 そうして翌日、王妃の侍女の一人という体で、『聖女の人形』はクラーワと共に大神殿に向かった。

 

 

 

 大神殿は王都から馬車で二刻程の位置に座し、淡い光に包まれた尖塔を持つ建築物だ。

 聖女ソフィアを祀り、中央に聖女を模した立像のある祭壇と祈祷所がある。

 

「ようこそお越しくださいました。王妃陛下」

 

 神殿長が出迎え、膝を折る。『聖女の人形』は前に進み、神殿長の後ろへ回った。

 

「折角お越しいただきましたが、神殿の奥にはご案内出来ません。お茶をご用意させていただきました。あちらの応接室で休まれますか?」

 

「そうね、早く帰って元老院の者たちに、何をしに行ったとあれこれ言われるのはね⋯⋯。少しお邪魔してもよろしいかしら?」

 

 神殿長は『聖女の人形』に指示を出し、奥に下がらせた。その後、穏やかに微笑みクラーワを案内する。

 

 神殿長に促されテーブルにつくと、馴染みのない茶を供された。神殿の奥で栽培されている茶葉だと言う。躊躇していると神殿長が一口、口に含んでみせた。

 クラーワはおずおずと口にすると、何ともすっきりした後味の茶だった。

 

「遠い故郷から持ち出された、チャノキという名の木の葉で出来たものです。葉を蒸した後、乾燥して湯で点てるのです。そちらの甘味と一緒にどうぞ。⋯⋯そういえば、王妃陛下はエピ公爵家ご出身でございますね?」

 

「ええ」

 

「初代のステファン様は発光微生物を発見なさった方でしたね。とても大きなお体でしたが、繊細でお優しい方でした」

 

「──え?」

 

「申し訳ございません。そう記録に残っているものですから⋯⋯。ステファン様のお陰でこの神殿の維持ができますし、街にも灯りが灯って素晴らしいことだと思います」

 

「そ、そう。⋯⋯あの、『聖女の人形』というものが何なのか聞いてもよろしいでしょうか」

 

「私にはどこまで詳細に語って良いのか判断出来ないのです。ただ、初代国王オルトゥス陛下に『聖女の人形』の製作を依頼され、新たな国王が即位する度に一人ずつ供与するよう言い使っております」

 

「彼女に⋯⋯その⋯⋯誰かを愛する心はあるの?」

 

「人形たちはそういった感情を持つことが無いように設定されています。今回、王妃陛下と会話が出来る様に設定し直す作業だけ行います。情緒面が未発達ですので、戸惑われる事もあるかと思います。それだけはご容赦願います」

 

「そう⋯⋯? でも、わたくしには相談できる相手がいないの。だから、そうね、ただ話を聞いて、相槌を打ってくれる相手がいるだけで幸せかも知れないわ」

 

「左様でございますか。では、なるべく王妃陛下の意に添うような調整を試みます。四日後においで下さい」

 

「お願いね。さっきのチャノキ? 王城でも育つかしら?」

 

「少し難しいかも知れません。確かエピ公爵領で栽培されているものは、こちらの土壌に合わせてチャノキを品種改良したものです。葉を発酵させなければ先程のような茶になると思います。製法を次にお見えになった時にお渡し致します。茶葉もご用意致しましょう」

 

「ありがとう。嬉しいわ」

 

 クラーワにとって庭で植物を育てるのは趣味でもあるが、孤独を紛らわすのにちょうど良かった。ベニニタスはとても大事にしてくれるが、政務がある為ずっと一緒にいられる訳ではない。

 無心になって世話をして、その結果が良ければ充足感を覚える。

 チャノキを自分で育てれば満足感を得られそうだと思ったが、エピ公爵領から苗を送って貰った方が良さそうだ。一つ楽しみが出来た。

クラーワさんの純情。


この時、外に出ていたのはダミー君です。ベニニタスの即位を見届けた後、本物はぐっすり寝てました。

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