06.一言くらい、言ってほしかった2
けれど、それを悟られないよう、笑みを作って頷く。
「ええ、そうですね」
短くそう答えて、それ以上は何も言わず、紅茶にそっと唇を寄せた。
「……」
カミル様は、じっと私を見つめていた。
私にもっと何か言ってほしそうにしているけれど、彼も特に何かを付け足すわけではない。
でも、〝いつものと違う〟ということには、気づいたのね。
何を出しても無関心なのかと思っていたけれど、そういうわけでもないみたい?
けれど、次の週も、そのまた次の週も、市場のケーキを出す私に、彼は特に何も言わなかった。
「美味しくない」とは言わないけれど、その代わり「大丈夫だ」とも、「問題ない」とも言わない。
変わらず静かに、淡々とティータイムを過ごし、ケーキを食べて、紅茶を飲む。
そうして迎えた、更に次の週――。
いつものように、市場のケーキを出したところで、ついにカミル様が口を開いた。
「……できれば、いつものケーキに戻してほしい」
その声は、いつになく低く、そして真剣だった。
「……え、なぜです?」
つい問い返すと、カミル様は苦しげに眉をひそめた。
「僕は……君の作るケーキが食べたい」
「……まあ」
その一言に、私は驚いて彼を見つめた。
私と視線が合うと、カミル様は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「……君が作ってくれるお菓子を……僕は、毎回楽しみにしていたんだ」
「え?」
恥ずかしそうに少しだけ頬を赤く染めて、ぽつりと呟くカミル様。
「……伝わっていなかったのだろうか?」
その言葉に、私はじっと彼を見つめたまま、思わず声を荒らげてしまう。
「ええ、まっっったく! 一ミリも! 伝わっておりません!」
「そ、そうか……すまない。だが、今更でも言う。僕は君のケーキが、一番好きだ」
「……まあ」
ばつが悪そうに頭をかく彼の姿に、思わず溜め息がこぼれる。
……そんなの、本当に、まったく、全然伝わっていなかった。
感情表現が乏しいにも、ほどがある。
「……もう、遅いです」
私はそっぽを向いたまま、そう言った。
けれど、胸の奥にたまっていた何かが、すぅっと溶けていくのを感じた。
「すまない……! また僕は君の気持ちを考えずに……っそうだ、明日! 明日も、時間をくれるだろうか?」
「え?」
慌てたように身を乗り出すカミル様。いつになく必死なその姿に、私は目を瞬かせる。
「明日も、君とお茶をしたい。お菓子は……僕が用意する。……付き合ってくれるだろうか?」
あまりに不器用な申し出に、私はつい笑みをこぼしてしまう。
「……いいですけど」
「ありがとう!!」
珍しく感情を露にして喜ぶ彼が、少しだけ可愛く思えた。
――そして翌日。
「うちの料理人に作り方を教わりながら作ったのだが……」
なんと、カミル様が自分でチョコレートケーキを作ってきた。
お皿の上に置かれたのは、どう見ても……不格好。
形も歪で、表面はところどころ焦げている。
ナイフを入れると、ぽそぽそと崩れてしまった。
……見た目はひどいけど、味は――いや、味見をしなくても、市場で買ったケーキのほうが美味しいのはわかる。
「ケーキを作るのがこんなに大変だなんて、知らなかった。君は毎回、あんなに美しく、美味しく作ってくれていたんだな……」
カミル様は申し訳なさそうに眉を下げ、それでもまっすぐ私を見つめて言った。
その声には、拙いながらも本気の敬意と反省の気持ちが込められているのが、伝わってくる。
「……それなのに、僕は……」
まるで心の底から、ぽつりと漏れたように呟くカミル様。
「ふふっ、食べてもいいですか?」
「あ、ああ……君のように美味しくはできなかったが」
私はフォークを入れ、小さく切ったケーキを口に運んだ。
――うん、やっぱり、美味しくない。
生地はパサパサで、砂糖が一部に偏っていて、甘すぎる。
本当に、料理人に作り方を教わったのかしら?
でも、それでも。
「カミル様はお忙しいのに……わざわざ作ってくださったんですね。ありがとうございます」
「……き、君の口に……合ったか?」
不安げなまなざしで尋ねる彼に、私はそっと微笑んだ。
「いえ、味は正直……ですけど、気持ちはとっても嬉しかったです。今度は一緒に作りませんか?」
「……いいのか?」
一瞬、彼の目に希望が灯る。私は微笑みを深めて、はっきりと頷いた。
「ええ、今度はちゃんと、感想を聞かせてくださいね?」
「ああ、もちろん。今度は、僕の気持ちを素直に口にするよ」
ああ、もう。
この人は本当に、不器用で、鈍くて、仕方ない人ね。
でも、私はそんなカミル様のことが……嫌いじゃない。
これからきっと、少しずつ、もっと甘くて、優しい時間が増えていく――そんな気がした。
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