19.忘れてしまっていた2
ごろん――。
エーファが寝返りを打った音が聞こえたのと同時に、僕の身体に何かが乗った。
「……ん?」
「……すー」
思わず目を開けてそれを確認すると、視線のすぐ下に、エーファの顔があった。
「!?!?」
そう、彼女は寝返りを打ち、僕の肩にすり寄るように顔を寄せ、腕を胸の上に置いたのだ。
それはまるで、僕に抱きつくような――。
「エ、エーファ……?」
「すー、すー……」
彼女の穏やかな寝息が、僕の喉元に微かにかかる。
薄い寝衣の布越しに触れる彼女の腕の重さが、やけにリアルで、心臓がドクンと跳ねた。
「ね、寝ているのか……?」
返事はない。
……寝ている。
僕に甘えてくれたのではなく、本当に寝返りを打っただけのようらしい。
そうか……うん、いいんだ。僕は夫だ。それに、僕が彼女の毛布を奪っていたせいで、寒い思いをさせていたのだ。遠慮なく、僕で暖を取ってくれ!
心の中でそう言って、僕はただじっと身体に力を入れた。
「んん……」
そのとき、エーファがうっすらと眉をひそめて小さく呻いた。
そして、そのまま僕の胸に頬をぐりぐりと擦り寄せてきた。
「あったかい……」
「!?」
その呟きに、僕は思わずカチンと身体を硬直させる。
あったかい!? ぼ、僕がか!? いや僕意外にいないだろう!!
心の中で、一人で大騒ぎをして、「落ち着け……!」と自分に言い聞かせる。
――しかし。
エーファの腕が、更にぎゅっと僕の胸を抱くように絡んできた。
その小さな手が、寝衣越しに僕の鼓動を感じていそうで……ますます心臓がうるさくなる。
お願いだから、おとなしくしてくれ……! 僕の心臓!!
僕はこんなとき、妻にどうすればいいのかもわからない。
恋愛小説に出てくるような色男なら、そっと肩を抱いてやったり、頭を撫でたりするのだろうか……?
「…………無理だ」
一瞬僕の手が動いたが、やはり眠っている彼女に勝手に触れることはできない。
それにしても、まさかエーファが寝相の悪いタイプだったなんて……。
知らなかった。
この一年間、毎晩こうして同じベッドに横になっていたというのに、僕は毎回、彼女より先に眠ってしまっていたから……まったく気づかなかった。
……もしかしたら、これまでもこんなふうに、彼女が僕にすり寄ってきたことがあったのだろうか?
しかし、互いに寝ていたし、不可抗力だ!!
僕は彼女に指一本触れていないし、たぶん彼女も覚えていない……!
僕さえ何も言わなければ、何もなかったことになる。
きっと朝になれば、いつものように気丈なエーファが「おはようございます」と笑って言うだけだ。
だから、僕が何も言わなければ……何も……。
……いや、本当にそれでいいのか?
今、もし彼女を起こしたら、エーファはどんな反応をするだろう?
この距離、この体勢でいることに、どんな顔で僕を見て、どんな言葉を発するだろう?
頬を赤らめるのか。怒って平手打ちをしてくるか。
それとも、ただ真顔で「寝ぼけただけです」と言ってのけるのか。
……少し、見てみたい。
いや、駄目だ。そんなことをしたら、いろいろな意味で取り返しがつかなくなる。
それでも、この瞬間だけは。
まるで本当の夫婦のように、彼女のぬくもりを感じている。
少し冷えた指先が、彼女の髪に触れそうになって――僕はそっと拳を握りしめた。
触れてしまえば、きっともう戻れない。
この一歩を踏み出すには、僕はまだ……彼女の夫として相応しくなれていない。
だから、今はこれでいい。
この静かな夜に、彼女の体温と寝息だけが寄り添ってくれている。
それだけで、僕には十分すぎるほど、あたたかい。
「……ありがとう、エーファ」
いつの間にか、僕は夢のことなど忘れていた。
今夜はもう少しだけ、このままでいさせてほしい。
お読みいただきありがとうございます!
その後の寝室での様子でした!!
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『寿命が短い私の嫁ぎ先〜もうすぐ死ぬので我慢をやめて好きに生きます〜』
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