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12.あなたがいいと言ったので2

 ある日のティータイムで、エーファが僕に言った。


「カミル様、欲しいものがあるのですが――」

「欲しいもの? なんだ、服か? 宝石か?」


 その日も山積みの仕事を放り投げてきた僕は、お茶菓子を食べ終えたらすぐに戻らなければならなかったため、素っ気なく答えてしまった。


「アクセサリーなのですが――」

「なんだ、アクセサリーか。それくらい好きに買っていい」


 エーファは「えっ」と短く声を出したが、彼女におかしな浪費癖がないことはもうわかっていたし、侯爵夫人なのだから、少しくらいの贅沢は普通だろうと、僕は軽く考えた。


「ですが、カミル様に相談してからと思いまして……」

「請求書をもらってくれれば構わない。欲しいものくらい、好きに買っていい。それじゃあ僕は仕事に戻る」

「あ……、カミル様……!」


 エーファがまだ何か言おうとしていたが、そのときの僕は、彼女の話をじっくり聞こうという姿勢が足りなかった。


 それよりも、早く仕事を片付けて、少しでも早く寝室に行くほうが、彼女のためにもなるだろうと……。


 そんなことを考えてしまったんだ。



 それから、数日後。

 積まれた書類の山の上に、一枚の請求書が置かれていた。


「宝石商からか……」


 そういえば、エーファが「アクセサリーが欲しい」と言っていたことを思い出す。


「宝石のアクセサリーを買ったのか。まぁ、侯爵夫人なのだし、それくらい――」


 指輪か、イヤリングか、ブレスレットか?

 一体何を買ったのだろうと、一瞬想像して――その請求額に僕は目を剥いた。


「……!?」


 その額が、僕の想像を遥かに超えた金額だったからだ。


 エーファがそんなに高価なアクセサリーを購入したのは、意外だった。

 彼女は決して派手な女性ではない。

 社交の場に出る際はもちろん着飾るが、普段は上品で大人しい服装を好んでいるし、煌びやかな宝飾品を身につけているイメージはないのだ。


「……この額は……相当大きな宝石か……よほど貴重なものを買ったのか……」


 そういえば、彼女は「カミル様に相談したい」というようなことを言っていたな。


 今更それを思い出すが、請求書が届いているということは、既に買った後なのだろう。


「まぁ……好きに買えと言ったのは僕だしな」


 溜め息が出たが、うちは資金繰りに困っているわけではないし、侯爵夫人の買い物だと思えば、許されないほどの額ではない。


 ただ、エーファがこれほど高価なアクセサリーを購入したことが意外で、少し驚いてしまったのだ。


「……やはりこれまでは我慢していただけで、彼女は噂通りの派手な女性なのだろうか」


 がっかりしたとは言わないが、今度からは彼女の話をきちんと最後まで聞いたほうがいいかもしれないと思った。


 本当に歯止めなく好きなものを買われるようでは困るからな。




     *




 ――そして、それから更に数週間が経った。


 あれから、エーファが何かを買ったという請求書は届いていない。

 やはり、彼女はそんなに贅沢をするような女性ではなかった。あのときは、よほど気に入ったアクセサリーを見つけて、僕に相談しようとしたのだろう。


 そう思っていた頃。


「カミル様、本日はお話があります」

「……なんだ?」


 いつものティータイムの時間。

 さわやかな風が吹き抜けるガゼボで、エーファがふと口を開いた。


 何を言われるのだろうと、少し緊張して問うと、彼女は侍女に目配せをして、小さく細長い箱をテーブルの上に置かせた。


「……これは?」

「実は……先日、宝石を購入しまして」

「それなら知っている」


 あれのことか。

 何を買ったかきちんと報告してくるあたり、やはりエーファはちゃんとした女性だ。


「君が欲しいと思ったものなら、好きに買えばいい」

「……」


 正直、額には少し驚いたが、そのことをネチネチ言うような、ケチな男にはなりたくない。


 そんな変なプライドが顔を出したが、エーファは小さく息を吐いた。


 ……なんとなく、不満そうに見える。


「あなたは本当に最後まで話を聞いてくれませんね」

「えっ」


 彼女の口から紡がれた、静かで冷たい言葉が、僕の胸をつらぬいた。



続きます……!

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