夢灯
「ギシッ…ギイ…ッ」
何者かが近づく気配で、ライはハッと目を覚ました。無意識のうちに、指が剣の柄を握っている。
静寂の暗闇の中 目を凝らした。薬草の束、整然と並ぶ薬壺、干した葉の香り…。
隣のベッドには、毒針に倒れた部下が寝ている。
(ああ…診療所か)
ろうそくの灯りが近づき、その中心に小さな影がぼんやりと揺れている。
(薬師か…容態を見に来たのか)
ミオは、静かに騎士の枕元に立っていた。
「うん…呼吸は大丈夫。汗も出てきてるから…もう少しね…」
確認するように呟きながら、額の汗を丁寧に拭ってやるミオ。
ライは声をかけず、その華奢な背中を黙って見つめていた。
そして、そっと目を閉じる。
数分後、小さな影は奥の部屋へと戻っていった。
ライは、天井を見つめたまま 不思議な一日を思い返していた。
──あの後、外で寝ようとした自分に、ミオは慌てて診療所のベッドをすすめた。
血と怒号と土ぼこり――
そんなものにまみれた自分が、この場所にはひどく不釣り合いな気がして、断ろうとした。
「あ、じゃあっ…!!夜中、何度か騎士様の容態を確認してくださいますか!?
もし変化があれば、すぐ教えていただけると助かりますのでっ!」
必死に引き止めようとする、アンバーの瞳――
そのまっすぐな眼差しに負けた自分に、ライは内心驚いていた。
──そして静寂の中で、ライはぽつりと呟いた。
「……何をやっているんだ、俺は」
その呟きは 薬草の香りの中へと、静かに溶けていった。




