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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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夕立風

――その日は、風が強い日だった。


ラングスター領から王都に戻って来て数週間がたった頃、ミオはいつもの日常に戻っていた。

薬術院のすべての診察が終わり、診察室にはミオが1人残っている。

チラリと壁に貼ってある暦を見た。ライの帰還の日まであと僅かだ。


ミオは落ち着かない心を持て余し、薬草棚の整理に取りかかった。

薬瓶をひとつひとつ丁寧に拭いては、きっちり薬棚へ戻していく。

窓の外は時折、ゴウ、と風が吹き、青々した葉が激しく揺れている。


その時、背後で静かに扉が開いた。足音もなく、何かが迷いなく近づき、ミオの背後で、ピタリと止まる。


手元の薬瓶に意識を向けていたミオは、ふと気配に気づき、ハッと顔を上げた――


その瞬間。


大きな手が後ろからミオの身体を抱きすくめた。


「――ただいま」


「……」


「ミオ?」


のぞきこむように ミオの横顔に視線を向けた。


「…ふ、う、ううっ……!!」

ミオの目から安堵の涙が溢れ出す。

ライの胸に思い切りすがりつき、子供のように涙を流す。

ライは一瞬、 驚きに身を固くした後、しゃくりあげる彼女の背中をゆっくりさすった。自分の身を案じて涙を流すミオが愛しくて、気付けば、唇の端に喜びを浮かべ、華奢な背中を思い切り抱き寄せていた。


(会いたかった…長かった)


そしてそのまま、愛しいミオの顔中にキスを落としていった。

額に、ふっくらした頬に、そして――瑞々しい唇に。

そのすべてを 拒むことなく受け入れる様子に

ライの身体にジワリと熱がともった。


「将軍…ラ、ライ将軍!」

キスが深くなる直前、ミオがハッとしたようにライの胸から身を離した。


「なんだ」

「あの…身体は?腕は!?…その後どうですか!?」


ライからの返答はなかった。

心配そうに、自分を見つめ続けるミオ。


「…いつ何時でも、薬師だな」

そう言って苦笑するライ。


「…?」


そのきょとんとした顔ですら愛しく、ライはもう一度、ミオの目元に優しくキスを落とした。


★★★


「うん!腫れも完全に引いてますね。指を動かした時に痺れはありますか?」

久しぶりのライの自室。

ミオの丁寧な診察が終わった。

今や完全に、毒矢に倒れる前とそん色変わらぬ回復を見せたライに、ミオも感心しきりだ。


「大丈夫だ。まったく問題ない。」


この言葉に、ミオは安心したように息を吐くと、薬箱を片付け、帰り支度を始めた。

そのミオの華奢な手首をライがそっとつかんだ。


「帰るのか?」

「…?あ、はい。夜も遅くなりましたし。移動でお疲れでしょう?」


「……」


ライは、視線を落としたまま、そっとミオの手首を握りつづけていた。

――まだ、いてくれ。そう願うように。


「……あ、えと…」


ミオは顔を赤くして黙ってしまった。自分もいい年だ。その意味もさすがにわかる。


戸惑うミオに、ライはポツリ、ポツリと言葉を続ける。


「俺は…この人生に執着したことは一回も無かった…。死ぬなら、それまでだと…。

でも今回は違った…ミオにもう一度会いたくて、

…気付いたら…生きようとしてた…。」


ライのあまりにも切実な独白に、ミオの目から再び涙がこぼれる。初めて心の内を語る彼の目の色が濃くなって、どんな人生を歩んできたか分かったから――


ミオはライの首に手を伸ばし、ぎゅっと抱きついた。


(私でいいのなら 隣にいさせてください――)


そう、思いながら。


***


大きなベッドの上、ライの唇がミオの柔らかな唇を何度も喰む

ゴツゴツとした指先が、ミオの柔らかな体の曲線をそっとたどると、ミオはふるりと震えた。

「…大事に、抱く」

ぼそりとつぶやいたライが愛おしい。

やがて白い背中と 古傷だらけの逞しい背中が重なり、一つの影になった。


「…怖いか?」

「……」

ミオはライの目をまっすぐ見て、ふるふると首を横に振った。ベッドの上で絡めた指に力が入った。


二人の熱い吐息は 外の風の音に甘く消えていった。

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