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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第一章
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灰色の瞳


鳥のさえずりと新緑が眩しい山道に、二つの足音が響く。

ミオは自分の後ろをピッタリとついてくる、大きな影に意識を向けた。


「何て速いの……ひと一人を背負って、このスピード…。気を抜いたら追い抜かされてしまいそう。」


ミオは後ろをそっと振り返る。

(大きな人……わあ、銀色がかったグレーの瞳 オオカミみたい…。あ、額の傷、少し赤くなってる……古傷?暑さで炎症が出てるのかしら……)


その瞬間、男が顔を上げ ミオと目が合う。


「……なんだ」

(……しまった!ジロジロ見すぎちゃったわ…)


「いえっ…あっ! 村! 村が見えてきました!」


ミオは慌てて山道の先を指さす。

男は視線だけを動かし、村の方角を確認した。

すると、ミオの隣に並ぶようにして歩き始める。


しばしの沈黙。


「……薬師。名は?」


低く、深い声が隣から降ってくる。


「あっ、まだ言ってませんでしたね。ミオ・サイラスと申します。……あの、貴方のお名前をうかがっても?」


無言で、グレーの目がミオを見つめる。


「……あ、失礼でしたか?」


「……ライ・オルグレン」


「ライ・オルグレン様ですね! ん……? ラ、ライ……オルグレン……」


一拍、沈黙。


「……もしかして、ライ・オルグレン将軍……ですか?」

ミオの脳裏に浮かぶのは、山村でも噂に聞くその名前。

−−−ライ・オルグレン。巨大なヴァルディール帝国騎士団の頂点に立つ将軍−−−

剣一本で帝国を守り抜き、皇帝からの信頼も厚いという。


田舎の薬師ですら知っている、雲の上のような存在が

今、自分の隣を歩いているなんて……!


そして、思い出す。

「顔の怖い人!」

「ちょっと後にして!」発言。

ミオはガックリとうなだれた。

ああ……やってしまった。


治療になると周りが見えなくなる、この性格が恨めしい。ミオは自分の頬を、そっとつねった。


「……蜂は」


ライの声が、不意に落ちてきた。


「……はち…あ、蜂の話ですか?」


ミオが間の抜けた返事をすると、ライの眉がわずかに動いた。


「マヌガ蜂だが……この時期にはまだ活動しないはずだ…」


「あ、そうですね。でも、今年は暖かくなるのが早かったでしょう?

気まぐれに巣から飛び出す個体もいますし…。そういう個体は攻撃性が強いんです。黒い色に反応しますから、騎士様の服の色で興奮状態になったのでしょう。」


ライは無言で、自分の真っ黒な騎士服に目を落とした。

そして、ミオの方へ顔を向ける。


「……礼を言う」


「えっ?」


「薬師のおかげで……こいつは今、生きている」


ミオは一瞬ぽかんとすると、将軍のグレーの瞳を見上げた。視線が合うなり 将軍は ついと前を向く。


「……ありがとうございます オルグレン将軍…。あと少しで着きますから……」


心のなかに 温かな気配が満ちてくる。

ミオはそっと口角を上げて 真っ直ぐ前を見た。



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